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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 9

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 傷口を抑え、息を絶やしながらスサはオロチから目を離さなかった。力の差は歴然であるが、それでもスサはオロチに挑み続けている。守りたいものが彼にはあったのだ。
――オレは…、奴に…――
 ふと、スサの心に何かが浮かんだ。不思議な力、彼やウズメ、クシナダが使える力、彼らの言うところの呪術を使うときに心のそこから湧き上がる力に似たものがスサを包み込んだ。
 それがどんなものなのか、それは次第に自分の中で明らかとなった。
 スサから力の流れが発せられた。その波動は風となり、彼の周囲に吹き付けた。それと同時にスサは駆け出した。
「うおおおお!」
 スサはオロチの手前で飛び上がり、交差と同時にオロチを斬りつけた。刃が煌めき眩い閃光を放った。
「閃光斬!」
 巨大な閃光と共に相手を斬りつける必殺の一撃。その昔、オロチと対峙したミコトも得意としていた『閃光斬』である。その必殺の一撃はオロチの体に傷を与えることに成功していた。
「ぬう、この剣技は…」
 オロチは僅かながら覚えていた。自身を封じたあの勇者が使っていた技に相違なかった。
 そういえば、とオロチはふと思い出した。この男と対峙してすぐに、彼から覚えのある匂いが香った。今、オロチは合点が行った。このスサこそがミコトの子孫であると。
「ふふふ…、そうか、貴様あの忌々しき男の…」
 スサはオロチの背後に回り、剣先を地面に付き息を絶え絶えにしていた。
 オロチはゆっくりと振り返った。スサがやっとの思いで与えた傷は次第に塞がっていく。オロチの持つ強い生命力がなす超自然回復であった。
「そ…んな…」
 目の前でオロチの傷が塞がっていくのを見てスサは絶望した。
「数千年来の恨み、今こそ晴らしてくれようぞ!」
 オロチは歩み寄った。爪を振り上げ、スサを切り裂こうとした。
――これまでか…!?――
 スサは固く目を閉じた。オロチの爪がスサに襲いかかった。
『守護天神!』
 スサの目の前に透明な光の盾が発生し、スサをオロチの爪から守った。
「く、クシナダ…!?」
 クシナダがスサの前に立ちふさがり、目の前のオロチを睨んでいた。
 オロチは不敵な笑みを浮かべた。
「ほう、我の一撃を防ぎきるとは、なかなかやるな、娘」
「これ以上、スサには手出しさせません!」
 クシナダは両手を広げ、一心にスサを守ろうとした。そこへオロチは顔を近付けた。舐めるようにクシナダを見る。
「それになかなか美しい…」
 クシナダは微動だにしなかった。
 そこへ更に救いの手が差し伸べられた。
「わあ〜、オロチ様じゃあ!」
「守神のオロチ様がわざわざ村にいらっしゃった!」
 村の老人がオロチの周りに集まり、ありがたや、と手を合わせ始めた。
「何だ貴様らは、老い先短い命をわざわざ散らしに来たのか?」
 オロチは老人達に目を向けた。彼らは怯まなかった。
「ははあ、オロチ様のお望みとあらば、こんな老いぼれの命、惜しくはありませぬ」
「オロチ様、こちらのスサがとんだ不手際を、お詫びと言っては何ですが、どうかこの酒を!」
 老婆はオロチに杯を差し出した。
「ふん、我がそんな杯如きで満足すると思っているのか?」
「でしたらこちらに酒樽を用意してございます、どうぞこちらをお好きなだけ…」
「ふん…」
 オロチは首を伸ばし、酒樽に顔を近付けると、その匂いを嗅いだ。すると酒樽をくわえ、一気に飲み干した。意外と酒は口当たりが良く、オロチは気に入った。次の樽をくわえ、飲み干し、また次、更に次とついにオロチは用意された酒樽全てを空にした。
 あれだけの酒を飲んだというのにオロチはほんの少ししか酔っていなかった。それでも僅かに気分を良くしたようだった。
「なかなかに旨い酒であったぞ…」
 オロチは再び自身を睨むクシナダに目を向けた。
「そうだな…」
 オロチはニヤリとした。
「この村を破壊するのは止める事を考えてやろう…」
 但し、とオロチは条件を突きつけてきた。
「これより毎日フジ山まで酒を運んでくること、そして…」
 オロチはクシナダを見た。
「この娘、我が頂こう」
 そこにいる全ての人間が驚いた。
「クシナダを、だと?」
 スサは目を大きくしていた。
「オロチ様、どうかそれだけはご勘弁を!」
 老婆は嘆願した。オロチはそれを嘲り笑う。
「この村が更地になってもよいと申すのか?」
 ぐっ、と老婆は言葉を詰まらせた。
「分かりました…」
 言ったのはクシナダである。
「私の命で村が助かるのなら、喜んで生贄になりましょう!」
 ざわざわとどよめきが起きた。
 オロチは先ほど村を破壊しないと言っていた。しかし、実際にはクシナダを食らった後、村から貢物を絞れるだけ搾り取ったらすぐにでも村を破壊するつもりでいた。オロチの考えは思惑通りに進んでいた。
「クシナダ、本気なのか?」
 スサは訊ねた。
「仕方ないわ、みんなを守るためよ…」
 クシナダは振り返らず告げた。
「ふん、では次の満月の夜にこの娘を頂きに来よう、精々別れを惜しんでおくのだな」
 ふはは、と笑い声を上げ、オロチはフジ山へと帰っていった。
    ※※※
 オロチの出現から一夜が明けた。
 全てはウズメの予測していた通りに進んでいた。オロチが出現し、そして生贄を要求してくる所まで全てである。
 すぐにオロチが生贄を連れていかぬよう、その場はどうにか彼を満足させる必要があった。
 伝説ではオロチは無類の酒好きであった。そこでウズメはたくさんの酒樽を用意し、老人達にそれをオロチに与えるように指示した。
 策は実り、酒に気をよくしたオロチはその場は離れていった。しかし、やはり予想通りオロチは生贄を要求した。それもあろうことか、スサの婚約者、クシナダであった。
 満月の夜まで後十日である。どうにかクシナダを救う手だてはないのか、それを考えるべく村人達はウズメの屋敷へ集まり、ウズメは自らが予測していた事を告白したのだった。
「どうしてそれをもっと早く言ってくれなかったんですかウズメ様!?」
「そうだぜ、オロチが来るってもっと早くに言ってくれりゃあ、俺達だって戦う準備をしたのに」
 男達は言った。ウズメは目を閉じゆっくりと首を振った。
「あなた達も分かるでしょう?スサがどれほど強いのか、そのスサがあれほどまでに敗れたのです。あなた方が束になってもオロチにはかなうかどうか…」
 スサの強さはウズメよりもいつも喧嘩をしては痛めつけられていたこの男達の方がよく知っている。そんなスサがオロチに手も足も出なかったのだ、彼らは返す言葉がなかった。
「くそ、せめてシンやリョウカがいれば、あいつらならオロチと戦えたのかもしれないのに…」
 男は悔しそうに拳を握った。彼らは共にスサをも圧倒するほどの強者である。しかし、シンは村を抜け出し掟に背いた罪人となり、その妹のリョウカは彼の討伐を命じられ後を追っている。二人とも、少なくとも一人は絶対に戻ってくるはずがなかった。
「ではウズメ様、私達にクシナダを救う事はできないのでしょうか?」
 女が訊ねた。
「微かながら、希望はあります…」
 皆は驚いた。それは何か、皆口々に訊ねてきた。ウズメは語り出した。