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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 10

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35章 明かされる秘密


 二本の閃光が煌めいた。右にロビン、左にヒナが駆け抜ける。
――強い…!――
 ヒナは衝撃で手に痺れを感じた。
 これまでのロビンとは段違いの力である。
 背後に殺気を感じた。
 すぐさま振り返り、ロビンの一撃を受け止める。動きにも全く無駄がない。
 ヒナは後ろへ飛び退いた。
――流れるような連続攻撃、さっきまでのロビンと全然違う…――
 ロビンは剣をだらりと持ち、一切構えてはいない。一見、付け入る隙はどこにでもあるように見える。しかし、その実どこにも隙などありはしない。無闇に攻め入れば返り討ちに遭うことだろう。
 ロビンは手をかざし、エナジーの波動を放った。物凄い風がヒナに吹き付けた。これによりヒナがダメージを受けるような事はなかった。どうやらこれは力の見せしめのようだった。
「なんてエナジーなの…!」
 ヒナは手を顔の前にやった。
 身体能力だけでなく、エナジーまで段違いのものとなっていた。
 あらゆるものがこれまでのロビンを凌駕していた。
 波動による風が止み、ヒナは顔の前にやった手を下げた。眉をひそめ、ロビンを見やる。
 ロビンは顔に手を付け、空を仰いでいた。額に手をやり、前髪をかきあげた。一度地に視線を落とすと視線をヒナへと向けた。
 そこには全てが赤い双眸があった。瞳も全て赤く、妖しく輝いていた。
 見る者全てに恐怖を与える目がそこにはあった。
 ロビンは何かを呟いた。ごく低い声で聞き取るのが非常に困難であった。しかし、ヒナはある程度は悟っていた。
――やらなければ、確実に殺されるわね…――
 ヒナは改めて身構えた。最早誰かの為に戦う戦士ではなく、ただひたすら目の前の相手を殺すことしか考えない人殺しと化したロビンとの戦いに、文字通り死合いに覚悟を決めた。
「来なさいロビン、あなたのその力、あたしが打ち砕いて見せるわ…!」
 ロビンは恐ろしい笑みを向け、言った。今度は、はっきりと聞き取れる大声で。
「コ…ロ…ス!」
 戦いは再び始まった。
 お互いに一気に攻め寄せた。ヒナの間合いに入ろうかというところでロビンの姿が残像を残し、ヒナの背後へ回った。
――これは、転影刃?――
 ヒナは背後を振り返った。そこにはヒナを斬ろうとするロビンの姿があった。
「残念だったわね」
 ヒナは刀を突き出した。ロビンは刃で受け止め、引き下がった。
 ロビンはニヤリとすると再びヒナへと攻めかかった。ヒナの間合いに入ると再びロビンは残像と共にヒナの背後へ回った。
「何度やっても同じよ!」
 ヒナは振り返った。しかし、そこにはロビンの姿はなかった。
「そんな、まさか!」
 はっ、と気づくと背後に殺気があった。ロビンは回ってはいなかったのだ。そう、ロビンが使ったのは。
「気の錯乱!?」
 ロビンは剣を振った。刃はヒナの肩から背中にかけて掠めた。ヒナはとっさに体を前に出し、直撃を避けていた。
 すぐさま振り返り、ヒナはロビンに刀を突き出した。ロビンは難なく飛び退き刃をかわす。
 少しの距離が開き、二人は動かずお互い視線を向け合っていた。
 ヒナは先ほど掠めた傷口に痛みを感じながらも弱みを見せない険しい表情をロビンに向けている。一方のロビンは赤黒く輝く目を向け、口元にはうっすらと余裕の笑みを浮かべていた。
――たった数回技を見ただけで使えるようになるなんてね…――
 ヒナは肩の傷にそっと触れた。痛みは多少はあるが、傷は全く深くない。ほぼ掠り傷であった。手に付いた血を袖で拭い、再び構えた。
――だったら、これは真似できるかしら…!?――
 ヒナはロビン目掛けて駆け出した。すると、ヒナの姿が三重に分裂した。それぞれ左右正面とロビンに向かっている。
 気の錯乱をさらに生かし、このような分身を作ったのだった。分身はロビンへと迫っていく。
 ロビンは驚きを見せない。それどころか微動だにすらしていなかった。
 ふと手をかざし、エナジーを発動した。
『ガイア!』
 低い声で詠唱すると、ロビンの周囲の地面が光輝き出した。本来ならば前方のみに湧き上がる大地のエネルギーがロビンの強化と共に全方位から噴き上がるようになったのだった。
「!?」
 ロビンの正面、左にあったヒナの分身が消え右側に本体であるヒナが現れた。すぐさま飛び退くと物凄い量の大地のエネルギーが噴出を始めた。
 地下の石も同時に噴き上げ、石はエネルギーの中で砕け散っていく。避けなければ、ヒナもあの石のようになっていた。
 数秒の噴出の後大地のエネルギーは止まった。滅茶苦茶に荒れた地面の中心にロビンは立っている。恐ろしい笑みをヒナへと向けていた。
――隙がない…――
 ヒナの頬を汗が伝った。
 先ほどの気の錯乱を破った者はロビンを除いて他にはいない。気の錯乱を防がれた以上、まともにぶつかっても当たるはずもない。ヒナの攻め手はほぼ塞がれてしまったようなものだった。
 ヒナが構えたまま動かずにいるとロビンが攻めかかってきた。転影刃、もしくは気の錯乱か。どちらにせよその使い手であるヒナには防ぐ方法はある。転影刃か錯乱か、どちらかが来るであろうと思っていた。
 しかし、そのどちらでもなかった。
「えっ!?」
 ロビンの姿が三重に分かれた。先ほどヒナがやったように左右正面にロビンが攻めてきたのだ。
 たった一度、それもほんの一瞬だけ見ただけだというのにロビンは気の錯乱の極意まで身に付けてしまったというのだ。ヒナはただただ驚くしかなかった。
 しかし、ヒナにはこれすらも破る技がある。
 ロビンの三重の姿がヒナに迫る寸前に、ヒナは抜刀した。それと同時に体を一回転させる。ヒナの放った刀の軌跡から真空の刃が広がった。
「旋風刃!」
 二体のロビンの分身は消え、左側に本体のみが残り、本体であるロビンは剣で真空の刃を受け止めた。刃はロビンの体を押し下げた。
 再び二人の距離が開き、睨み合いとなった。
「隙がないのはお互い様ね…」
 ヒナは言った。
「それにしてもすごいじゃない。気の錯乱をたった一回か二回見せただけで使いこなせるようになるなんてね」
「………」
 ロビンは何も言わない。
「ロビンじゃどう頑張ってもリョウカには絶対に勝てない。けど、あなたなら一捻りでしょうね…」
 ヒナはキッ、と目つきを鋭くした。
「本気の本気でいくわよ、あたしをリョウカと同じだと思ってもらっちゃ困るわ!」
 ロビンはニヤリとした。ヒナは構え、一気にロビンへと迫る。そこから舞うような連続攻撃が始まった。
 残像を残し、ロビンの背後へ回る。
「転影刃!」
 ロビンは振り返り、難なく一撃を受け止めた。ヒナは抜刀の勢いそのままに後方に宙返りし、ロビンの守りを蹴り破った。
 着地すると守りの開いたロビンの胴へ燕の如く刃を返し、斬り込んだ。
「飛燕刃!」
 ロビンは間一髪で胴の前に剣をやり、攻撃を守った。
 次は刀を振り上げ、ロビンの剣を弾いた。そのまま上空へ跳んだ。
「飛翔…」
 ヒナは空中で刀と共に身を翻した。
「飛燕刃!」
 さすがにここまでは対応できまい、そう思っていたヒナだが、ロビンはこれをも防いだ。