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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 10

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第36章 太陽の巫女


 その山が生まれたのは何万年も前の事であった。
 ジパン島は古代、アンガラ大陸の一部であった。何度となく続いた大陸の変動により、ジパンは大陸から切り離され、一つの島となった。それから更なる変動によりジパン島は三つの列島となった。
 最初ジパン島は生物のいない荒れ果てた死の島だった。乾いた砂と鋭い岩のみしかない砂漠地帯であったのだ。
 ジパン島がアンガラ大陸より離れて数千年後、世界のエレメンタルの灯台に灯が灯った。それによりウェイアード全体にエレメンタルの力が流れ出した。同時に各地にエナジーストーンと呼ばれるものも出現した。その頃だった。ウェイアードにエナジーというものが生まれたのは。
 長い年月をかけ、エナジーストーンはエナジーロックへと変わっていった。様々な偶然が重なり、いくつかのエナジーロックは更なる変貌を遂げ、遂には山ほどの大きさを誇る巨大な岩へと姿を変えた。これこそが今でいうエレメンタルロックである。
 ジパン島にもエナジーストーンは現れ、このエナジーストーンはエレメンタルロックにまで変化した。地の力を多く受けた事により、ジパン島のエレメンタルロックはガイアロックとなった。
 自然や生命と関わりの深い地の力を受けた事で、ガイアロックは生命を司る聖なる岩山となった。
 荒れ果てた大地であったジパン島に恵みがもたらされた。土壌は肥え、草木が命の息吹を吹き始めた。様々な動物が住み着き始めた。いつしか大陸より移民がジパン島へ降り立ち、島のいたる所に小さな集落ができた。
 生命を司るガイアロックにより、ジパン島は緑の深い住みよい場所となった。
 しかし、それから更に長い年月が経ち、錬金術を狙う者共によって戦いが起こり、ウェイアード各地が戦乱の渦に巻き込まれる事となった。
 世界をも我がものにしようとする欲深い者達の悪しき心によって、世界に魔物と呼ばれるものが生まれてしまった。
 ジパン島も例外ではなかった。
 ある時、イズモ村へドラゴンが現れた。緑色の皮膚に、鋭い鱗があり、大きく膜を張った羽を持ち、鋭い爪の足を持つドラゴンであった。
 イズモの民は皆で力を合わせ、そのドラゴンを退けようと戦った。その戦いは数日続いた。
 数多くの犠牲を出しながらも、イズモの民はドラゴンとの戦いに勝利した。その後民は再び復活する事を恐れ、ドラゴンの死骸を石で固め、石像とした。そして石像は魔龍オロチと名付けられ、ガイアロックへ神として奉られる事となった。
 もとより、イズモ村では龍は神に等しい存在であった。イズモの民は神への感謝が足りない事で神が怒り、このように龍が襲いかかって来たのだと思い、ガイアロックへオロチを奉ったのだった。
 それから長い年月の間、イズモ村は豊作に見舞われた。まるでそれはオロチを奉ることによってオロチが守護神となり、イズモ村へ実りを与えたようにも見て取れた。
 しかし、実際にはオロチのご利益などではなかった。
 もとより生命を司るエレメンタルロックであるガイアロックがすぐそばにある村がイズモ村である。村の豊作はガイアロックの力が成せる業であった。
 また、ガイアロックにある植物はどんなに長い年月が経とうとも枯れる事がなかった。ガイアロックが与える絶え間ない生命力がそのような事を可能にした。
 イズモの民はその様子を見てガイアロックの事をいつしか死がない山、不死山、つまり、『フジ山』と呼ぶようになった。
 全ての生命にとってこの上ない幸福でありそうなこのフジ山の効力は、一転してイズモの民に地獄をもたらした。
 長い年月の間に、石像となったオロチの死体に生命力が送り込まれていった。これによってオロチの肉体は不死身のものとなってしまった。
 しかし、オロチに不死身の生命力が送り込まれたとは言え、魂は既になくなっており、すぐには復活する事はなかった。
 そこへ悪しき魂を与えたのは戦乱の世の欲深い人々の悪しき心であった。
 魔物を生み出してしまった人々の悪しき心はオロチをも魔物としてしまった。そしてオロチは復活し、数千年前のイズモ村を襲ったのだった。
 大地の女神、ガイアの力を秘めた剣と村の勇者ミコトの力によって一時村は滅亡の危機を逃れた。それから数千年の時は流れ、地の灯台が灯り、世界の地の力が強まった今、オロチは再び封印を解いた。
     ※※※
 松明のみが照らす暗い洞窟内で、スサはひたすらに酒樽を転がしていた。
 スサの後方には数え切れないほどの酒樽がある。全て彼が一人で村から持ってきたものだった。
 全ては、愛するクシナダを救うためだった。そのためにはオロチを倒さねばならなかった。
 そこでスサはある策を考えた。オロチは酒好きで、それもかなりの大酒飲みである。そんなオロチを見て考えついた策だった。
 それは酒を浴びるほど飲ませ、すっかり泥酔しきった所をしとめてやろうというものだった。
 普通に戦ってはオロチには絶対に勝てない、それはスサ自身が良く知っていた。それ故に考え出した策だった。
「オロチ」
 スサはオロチの所まで近づいた。オロチは地面に置かれた巨大な杯になみなみに注がれた酒をもう飲み干していた。
「ふん、遅いぞ。さっさと注げ」
 スサは言われるままに杯へと酒を注いだ。オロチの杯を満杯にするのに樽一つ必要とした。
 酒を注ぐと、オロチはゴクゴクと音を立てて飲み始める。
「ふふふ…、旨いぞ、どれほど飲んでも全く飽きぬわ」
 オロチは上機嫌である。
「待っていろ、代わりを持ってくる…」
 スサは再び酒樽を取りに行く。
 もうオロチは三日三晩ずっと酒を飲み続けている。人間ならば杯三杯ほどですっかり酔ってしまうほど強いイズモの酒を飲んでいるというのに、オロチは一向に泥酔する気配がない。オロチの酒の強さは想像をあっさりと超えるものであった。
――一体どれほど飲ませれば奴は酔うんだ?――
 スサの体力も限界に近づき始めていた。三日間寝ずに延々と酒樽を転がし続けていては、そうなるのも仕方のない事だった。
 スサは再びオロチの元へ行き、杯に酒を注いだ。もう空にした酒樽の数は百をゆうに越えている。スサの持ってきた酒も残り少なくなっていた。
「どうした、もう酒はないのか?」
 オロチは言った。僅かであるが顔に赤みを帯び始めている。ようやく酔いが回り始めているようだった。
「待っていろ…」
 もう少し、もう少し飲ませればきっとオロチは酔いつぶれる。スサの地道な作業もようやく実を結ぼうかというところだった。
――もう少しだ、オロチ、飲み続けるがいい。酔いつぶれた時がお前の最期だ――
 スサが酒樽を取って来るべく歩き出した時だった。
「オロチ!」
 オロチとスサのいる洞窟の最奥に赤毛の少女と共に数人のグループが駆けてきた。
「お前…!?」
 スサは赤毛の少女に見覚えがあった。
「リョウカ!?」
 なぜ彼女がここにいるのか、考えるまもなくリョウカ達は武器を取った。
「スサ、私達も戦うぞ!」
 スサは驚いた。まだ策は成功していない。下手な事をしてオロチを怒らせでもしたらスサの策は失敗してしまう。
「ま、待てリョウカ、まだ戦うのは早い!」
「オロチ、覚悟しろ!」
 リョウカはオロチを睨みつけた。