黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 10
「ヒナさんがアマテラスという方の末裔だと仰るのなら、妹のリョウカもそうなりませんか?」
ヒナは答えた。
「確かに、リョウカがあたしの実の妹なら、使えたのかもしれないわ」
「実の妹?」
イワン、ジェラルド、メアリィはヒナの言葉に引っかかりを持った。真相は間もなくリョウカの口から明かされた。
「みんな、言ってなかったと思うけど、私は姉様の実の妹ではないんだ…」
イワン達は驚いた。
「リョウカの話は本当だ。オレも昨日ヒナさんから聞いた」
ロビンは言った。
「それじゃ、シンとも?」
血が繋がっていないのか、ジェラルドが訊ねるとリョウカはゆっくりと頷いた。
「だからヒナさんが太陽の巫女の末裔だと知らなかったのですね」
メアリィは言う。
「どうしてこの事を今まで話さなかったんですか?」
イワンが訊ねると、それは、とリョウカは視線を逸らした。言葉の続きはヒナが遮った。
「今はつもる話は止めておきなさい。これからオロチと戦うのに、気持ちが乱れてしまうわよ」
ヒナは並んだ石柱の中心にある祭壇の前に立ち、その上に踊る人形を立てた。
「さあ、これから奇跡を起こすわよ」
「奇跡?」
ロビン達は口を揃えた。
「そう、オロチを倒す奇跡をね…」
言うとヒナは目を閉じて祈り始めた。
『今、太陽の神に命ず。数千年の時を経て再び御霊を得たオロチへ、太陽の奇跡を…』
ヒナは詠唱すると、更にぶつぶつと呪文を唱え始めた。
目を閉じて、ヒナが一心に詠唱する呪文はロビン達には聞き取ることはできなかった。ほとんど意味を成さない、言葉には聞こえない。
ロビン達がヒナの儀式的な呪文に圧倒されていると、踊る人形へ変化が見られた。
「おい、見ろよ!あの人形…」
ジェラルドは指差した。
その場にいる誰もが驚いた。踊る人形がエナジーの光を纏い、虹色に輝いていた。変化はそれだけに止まらない、なんと人形が動き出したのだ。それだけでなく、土でできた固い人形であるはずなのに、まるで人間の踊り子が踊るそれのように、しなやかで人形とは思えない美しい踊りを見せた。
人形の踊りに圧倒されているロビン達に、今度は上空より眩い光が射した。
ロビンが目元に手を当て、上空に目をやると、ロビン達の真上の空の雲が破られ、青空に太陽が燦々と照っていた。
「これが、太陽の奇跡、太陽の巫女の力…」
リョウカが圧倒されたように呟いた。
『奇跡の光、オロチの元へ!』
ヒナはエナジーを放った。エナジーは波紋のように広がり、祭壇の周りの石柱へとぶつかった。それと同時に石柱が動かされた。
石柱があった部分には穴が空いていた。その先はオロチの棲むガイアロックの洞窟の最奥。
エナジーも止み、踊る人形も動きを止めた。ヒナは踊る人形を再び袋にしまい、ふう、と溜め息をついた。
「あたしの仕事はこれで終わり…」
いや、まだね…、とヒナは腰の刀へと手を伸ばした。
「っ…」
突然ヒナは地面に膝を付いた。
「ヒナさん!」
前に倒れかかろうとするヒナを、ロビンは支えた。
「…さすがに今のは疲れたわね。あたしは少し休んでから行くからあなた達は先に行ってなさい」
「いくら姉様が強くても一人置いていく事はできません。私も…」
リョウカは突然強い動悸を感じた。すぐさま胸を抑えうずくまった。顔からはどんどん血の気が引いていく。
「おい、リョウカ、どうしたんだ!?」
ロビンは叫んだ。
「ううう…」
周りの音が聞こえなくなっていく、ロビンの叫びもおぼろげになっていった。
リョウカの心に何かが呼びかけた。透き通った声色で、優しく呼ぶ。
――…リス――
リョウカはかっと目を見開いた。
「ぐああああ!」
リョウカは頭を抱え、苦痛の叫び声を上げた。
「リョウカ!」
皆が慌てふためく中、ヒナは一人冷静にリョウカの様子を見つめていた。
――もしかして、太陽の力がリョウカの何かに影響を…?――
「あああ!」
突如、リョウカの真紅の髪がその色を変え始めた。ほとんど白に近い、紫もしくは桃色へと変わった。
――…っ!?――
「ロビン…」
ヒナは呼んだ。
「リョウカの事はあたしに任せてあなた達は早くオロチの所へ行きなさい」
「でも…」
「大丈夫よ、すぐに治まるわ。それに早くしないと力の効果がきれてしまうわ。あの程度の儀式じゃあまり長持ちしないの」
苦しむリョウカを置いていくのはとても気が咎めた。しかし、太陽の力がなくなってしまえばオロチは倒せなくなってしまう。事は一刻を争った。
「仕方ない、じゃあメアリィ、ここに残って二人を見ていてくれ!」
「分かりましたわ」
「イワン、お前も残るか?」
ジェラルドが訊ねた。
「いえ、ボクは行きますよ。いくらなんでも二人だけではオロチを相手するのは大変ですよ、それに…」
イワンは目をきっとさせた。
「ボクも男ですから!」
「そうだな、よし、じゃあ一緒に行くぞ!」
ジェラルドが言うとイワンは力強く応えた。
「ロビン、気を付けて、オロチは弱点の太陽を浴びたはずだけど、まだ強い力を感じる。何千年ていう間に物凄い力を得たみたい」
ヒナによると、今これでもかなり力が落ちた方だと言う。しかし、その力は魔物は愚か、並みのドラゴンをも軽く凌いでいた。
「へっ、安心しろって、あんたらが来る頃にはちゃちゃっと片付けてっからよ!」
ジェラルドは余裕の笑みを見せた。
「…くれぐれも油断しないでね」
「でぇじょぉぶだって、行こうぜロビン!」
「ああ…、ではヒナさん達も気をつけて…!」
ロビン達は祭壇を後にした。
「後で必ず行くから!」
ヒナが叫びが山に木霊する頃、ロビン達の姿は既に見えなかった。
ヒナは徐にメアリィに介抱されながらまだ呻いているリョウカを見た。大分落ち着きを見せ、一時は変色していた髪の色も徐々に真紅へ戻っていく。
――リョウカ、あなたやっぱり…――
ヒナは逃さなかった。先ほどリョウカの髪色が変化した瞬間に発せられた、神に匹敵するほどの力を。
ガイアロックの洞窟の最奥、すっかり酔って顔を真っ赤にしたオロチへスサは切っ先を向けていた。
「ついに酔ったなオロチ、これで終わりだ!」
ロビン、ジェラルド、イワンの三人は洞窟の中を駆けていた。目指すは血戦の場、ガイアロックの最奥である。
ジパン島の命運を賭けた最後の戦いが始まる。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 10 作家名:綾田宗