destin ⑤
「あ、わりぃ!久しぶりの再開だから嬉しくて。この人はサンジさん。で、サン兄、コイツは服部平次」
紹介を受け、サンジと呼ばれた男が気だるそうに平次に向き直る。
先程とはまるで別人のような態度の急変ぶりに、平次は半歩後退った。
それでも負けじと手を差し出す。
「工藤の友人です。さっきはどうも」
「ハットリヘージね、はいはいよろしく」
「なっ…」
サンジの声のトーンが驚くほど低くなり、平次は思わず弁当を落としそうになった。
差し出した右手も呆気なく無視され、目も逸らされる。
サンジはそのまま平次に背を向け、ゾロの方へと歩いて行った。
アイツがお前の後輩か?と問う声が聞こえてくる。
――なんやねん、アイツ!
俺、そんなに気に入らんことした覚えはないで!?
あからさまに不服そうな顔が出ていたのか、新一が慌てて小声で弁解した。
「サン兄は極度の男嫌いなんだ。特に初対面だと」
「お、男嫌い~っ?!」
「しっ」
大声を出しかけた平次を、人差し指を立てて制する。
「あんま怒らせんなよ?サン兄かなり強いから」
「強い?どういうこっちゃ?」
新一はこっそり振り返り、サンジを指差す。
「あのスレンダーな足から、鉄の壁ぶち破るほどの蹴りが繰り出されるんだ」
「てつのかべぇ?んなアホな!」
工藤は大袈裟過ぎるんや、と平次が肩を竦めたとき、ふと背後で低い唸り声が響いた。
「なんなら試してやろうか」
「わっ!!」
「サン兄!」
驚く二人をよそに、サンジは長い足を垂直に振り上げた。
何の苦もなく振り上げられた右足は、バランスを失うことなく真っ直ぐ伸びている。
「すご……」
蹴られるかもしれない、という恐怖も忘れ立ち尽くしている平次を見て、サンジはふん、と鼻を鳴らした。
そしてゆっくり足をおろす。
「飯にするぞ。ガングロとマリモは弁当運びやがれ」
「ガンッ!?」
「ぷ」
言うだけ言って背を向けたサンジの発言に愕然とする平次、そして思わず吹き出した新一は、弁当箱を持ってゾロの後についていった。