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東方宝涙仙~其の弐拾八(28)~

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宝涙仙


「う…嘘だ…………」



ー紅魔館・風香の部屋ー
 
 しつこく奴はすぐに起き上がる。
「永遠に幼き紅い月…とも呼ばれるレミリアの攻撃力はこんなものなのかね。いやいやそれとも今の私の守備力が高いだけか。メタルボディ?私」 
 血も精気も吸われたせいかしら、頭がぼーっとして視界が掠れる。
 世界が逆転して重力が逆さになって頭を地面に打ち付けたんじゃないかと思うような圧力が私の頭を突き抜けた。殴られたのはわかったけど殴られた感覚じゃないわこれ。
タンスよ!タンスで殴ったのよきっと!…そんなわけないことぐらい分かってるわ。言ってみただけよ。心の声だから正式には「思ってみた」だけよ。
 私はさっきまで奴が寝ていた床にトカゲのように這いつくばって視界の掠れたような目で正面上を見上げた。見たこともないなこんな奴は、また変人が幻想入りを果たしたか。
幻想入りそうそうこの私に攻撃を仕掛けるなんて咲夜以来だわまったく。もう私を狙った阿呆を紅魔館に飼ってやる気はない。しかしレミリアこの様。負けてるわ、はっ。
この似非吸血鬼はなかなかやるじゃない。私ほどじゃないから褒めないけどね。私なんて本気出せばフランだってイチコロワーイよ。…そういや今日の私はフランを傷つけたんだったわ。はぁ気が重いわね、あの子不愉快になったらどうしようかしら。
「レミリアよ、いつまでやられたフリをしている」
 うっさいわね。私は今妹の心配で頭がぎゅうぎゅう詰めなのよ。
「血を吸われたのは初めてか。生き物というのは、多少血を吸っただけでこうもヘタれてしまうわけか。こんな一撃で倒れこむなんて」
 起き上がるのがめんどくさいだけよ。
「主人がこんなんじゃあ部下ががっかりするだろうなぁ」
 うるさい。とっととどっかいけ変人。もう寝たいわ。でもその前に何か食べたいわ。そして寝るのよ今日は。
「ふふん。そろそろお返事してくれてもいいんじゃないかレミリアァ」
 変人め!私の首を掴んで持ち上げるな。爪を立てるな!痛い。
「もうこの暗さでも見えるよなぁ、目が慣れだしただろう」
「暗闇に目が慣れてもオマエだけは見たくないわよ」
「態度がでかくてもそんな様じゃ絵にならないぞレミリアちゃん。どうだわかるか、見えるか…。私はッお前様のおかげでとんでもない再生力を手に入れたぞ!」
 別にそんなこと私に報告しなくてもいい。だからその指をこめかみにぶっさして「最高にハイってヤツだ」みたいな表現をやめろ。
「そっこで。お前様には感謝をする、いやしている!だからこの私がここにこうして現れた理由を特別に教えてやろう」
「あ?」
 望んでもいないがこれはいい報酬ね。確かに今日はいろいろ事件が多すぎるし。
「ふふん。お前の周りに二人の姉妹がきただろう?」
「来たけど。それで?」
 そっけなくしてる感じに答えてるが実は興味津々よ!
「お前のとこにいたメイド一人死んだだろう?」
「私の側近になるメイドなんて何人も死んでるわ」
 もしこの変人が少しでも私のメイドを…得に咲夜を馬鹿にした瞬間殺すわ。
「奴らの名前はアイラアーンドシズマ」
 『&』を伸ばされたせいで『アイラ・アーンド』って名前かと思ったじゃない。
「なぜあの二人がここを攻めたと思う?」
「そんなの知ってたら今頃……なんとかしてるわ」
「あの二人を攻めさせたのはある一人の仕業。その一人が黒幕」
「その黒幕を知ってるのかしら?」
 信じていいかはわからない。ただ今は悔しくもコイツの言う事しかあてになるものがない。
「平和を保つための崩壊。それが黒幕の考え方」
「どういう意味よ。わかるように説明しなさい」
「そりゃあ理解できないだろうねぇ。私も最初は意味がわからなかった」
 つまり内容を聞けば理解できるらしい。
「前のメイド長が亡くなるまでこの館…えーと…」
「紅魔館よ」
「そうそうこの紅魔館には平和が続いていた。合ってるかね?」
「ええ、間違ってはいないわ」
「そのメイド長がなくなり新たなメイド長になり、また紅魔館には平和が続く」
「今日まではね」
「レミリア、お前にとってメイド長とはどんなものだった」
「従者よ」
 いえ、宝のようだったわ。
「それより全然説明してくれないじゃない。早く私を理解させなさいよ」
「気が短いと損をするぞ。まあいい、結論といこう。黒幕は"この平和のまま紅魔館の歴史を終了させよう。だからここで歴史を終了させる。"…という考えに出た」
「意味はわかっわ。ただそいつの頭が意味わからないわね」
「その考えを黒幕さんはアイラ・シズマさんに伝えたわけだ。もちろんシズマさんは反対しただろうなぁ。だが頭のネジが足りない妹アイラちゃんは乗り気になったんだろうね。妹思い思い思いのお姉ちゃんはやむを得ず賛成した」
「それがあの二人なわけね」
「姉シズマさんはそれだけで動いたわけじゃあない。前のメイド長を殺したのは自分の妹。いつレミリア・スカーレット、お前に復讐されてもおかしくない…きっと黒幕はこう言ったんだろうねぇ」
   『あなたの命をレミリア・スカーレットが狙っています』
「なっ、私はそんなこと言ってない!」
「だがレミリアよ!レミリア、お前に罪を感じているシズマがそんなことを言われてみろ。そりゃあ信じるだろう」
「誰だッ!そんな嘘をついたネズミの死骸以下の脳みそしかない黒幕はッ!!」
「ふふん。お礼に特別サービス。教えてやろう……」
  
      その名前を聞きたくはなかった。
   「う…嘘だ…………」
 私はまた頭にとてつもないほどの衝撃を受けて…気を失っ……て…ゆ………k……
   うそだ……

「Good Night。レミリア・スカーレットォ…」
私はそのまま気を失っていた。


ー紅魔館エントランス・魔理沙側ー
「……沙…!」
  「魔…沙……!」
    「まりさ…!」
 「魔理沙ッ!!」
「うあっ!!」
 床に寝ていた魔理沙は跳ねるように起き上がった。霞む視界の中では人影が薄く浮かび上がる。
「あんたよくこんなところで堂々と寝れるわね」
 最初に耳に入ったのは霊夢の声だ。
「あれ?霊夢いつの間に合流したんだ?」
 魔理沙の呑気な質問に霊夢は呆れる。
「あんたね…。エントランスに来たらこんな危険な状況の床にあんたが倒れてるからみんな心配で駆け寄ったのよ」
「そしたらこの有様ね」
 パチュリーが後押しをする。そうかそうかすまないなとヘラヘラ笑う魔理沙に平和を感じられるところからみんなが安心を感じただろう。
「魔理沙大丈夫だった?」
 フランドールが魔理沙に近寄る。昔のフランドールからではこのおとなしさは考えられなかっただろう。違和感さえ感じるほどだが魔理沙は何の抵抗もなしにフランドールの優しい成長を受け止めた。
「アタシが負けるわけないだろー。最強だぜ最強!なあ霊夢」
「はいはい強い強い」
 雑にあしらい霊夢はあまり見慣れない風香のほうを向いた。
「あなたは…」
「私ですか?私はこの館のメイド長。雨霧風香です」
 メイド長雨霧風香なのは知っていたのにわざわざ自己紹介された霊夢はその先を何も言わなかった。
「おおお前ずっといてくれたのか。案外いいやつだな」