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諸星JIN(旧:mo6)
諸星JIN(旧:mo6)
novelistID. 7971
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例えばそういう、遠出の話

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「…あっ…ててて……」
 閨に響いた声に、裸身に夜着を引っ掛けただけの姿で布団に寝そべっていた伏犠が顔をあげる。
 差し飲みからそのまま流れるように左近の天幕へとしけ込み、ひと頑張り終わった後のことだ。
 声を上げた左近は、伏犠と同じように乱れた夜着姿ながらも布団から起きて胡座をかいて座っている。両肘を高く上げた状態で顔を顰めているところを見ると、どうにも乱れた髪を結い直そうとしていたらしい。
「如何した?」
「…あー…いえ、ちょっと」
 左近は顔を顰めたままながらも髪を結い直し、それから右手で押さえながら左肩をぐるぐると回してみせた。
「最近肩凝りひどくって…なにせもう若くないんで」
「ほーう」
「な、に、せ、もう若くないんで?あんたみたいな体力馬鹿に付き合うのも大変なんですよ?」
 布団に寝そべったまま適当な相槌を打つ伏犠に対し、左近は年を押すように繰り返した。左近とて体力に自信がない訳ではなかったが、伏犠に本気を出されては翌日の軍議も戦にも参加できなくなる。事実、そうなった。
 釘を刺してくる左近にそうかそうか、と伏犠は笑って体を起こす。そのまま左近の手を取って引き寄せる。
 怪訝な顔をした左近へ、伏犠はにんまりと笑って。
「どれ、わしが見てやろう。そこに横になれ」
「はあ?」
 突然楽しげに言われた言葉に思い切り怪訝な顔で聞き返す左近をものともせずに、伏犠はもう一度そこに寝ろ、と布団を指し示す。
 多分、嫌だといっても聞かないのだろう。
 左近は深々とため息を吐いた後に、言われるがままに布団へとうつ伏せに寝そべり首だけを伏犠へと向けた。
「…で?なにするんで…っ!?」
 言い終わらないうちに、左近の背。腰のあたりへと伏犠が跨ってきた。急に腰へと落とされる重量に肺から息を吐きながら、左近は恨みがましげに伏犠を見る。
「苦しいかもしれんがちと我慢せい」
 言うなり伏犠は左近の背筋へと指を這わせ、筋を確かめるように掌を当てていく。次第にそれは筋を伸ばすような動きになり、背筋から背筋、肩口の筋の合間を揉みほぐすように移動していく。
「……ぁ、―――……」
 凝り固まった筋を解される心地よさに、思わず左近の口から声が漏れる。
 その気持ちよさげな声に伏犠はまた笑って、声の上がる箇所をぐりぐりと揉みほぐしていった。
 ひとしきり肩と背中、首筋あたりを揉んだ頃には、左近の体はすっかりしきって布団に両手両足を投げ出すばかりになっている。
「…こんなもんかのう」
 左近の腰に跨ったまま、伏犠が満足気に言う。左近も左近で後ろも見ずに片手を上げてひらひらと手を振って礼を述べる。
「いやー…ありがとうございます。ほんっとここ最近なんですよね、こんなひどいの」
「以前はそうでもなかったのか?」
「ええ。…やっぱここんとこの連戦が響いたんですかねえ」
 左近の言葉に、伏犠はふむ、と少しばかり考える素振りを見せる。それからおもむろに背後を振り返り、左近の足に、触れた。
「…何です?」
 思いもよらない接触に左近が首を捻って背後の伏犠を見るが、伏犠も伏犠で背後を振り向いてぺたぺたと左近の腿やふくらはぎ、踝あたりを触っている。
 それからまた考えこむように黙り込んだ伏犠に、左近が焦れたように今一度伏犠の名前を呼んだ。それでようやくはっとしたように左近を見て、それからにんまりと、笑ってみせた。
「…いや?特に何もないわ」


「ちと、出かけるぞ」
「は?」
 その日の誘いは突然だった。
 戦場から戻ってきた左近は着替える間もなく伏犠に手を取られ、今しがた出てきた方陣へと連れ戻される。
 どこに、だとか何をしに、だとかいう質問を投げるより前に、方陣が光を増して左近の視界から陣地の景色を消し去ってしまう。
 眩い光に思わず目を閉じた左近が再び目を開けば、そこは既に陣地ではなく。
「………えーっと。この景色は、九州、ですか?」
 ぐるりと見回した彼方に西洋風の石造りのアーチが見える。
 左近は頭痛がするように額を押さえながらとりあえず連れてきた相手を問いただそうと更に視線を巡らせた先には、悠然と馬に跨っている伏犠の姿があった。
「乗らんのか?」
「はい?」
「ここからは結構移動せねばならんぞ?」
 どこに行くつもりなのか、だのもっとちゃんと説明をしてくれ、だのを問い詰めたくて左近は口を開いたものの、最終的には何もかも面倒になったように盛大なため息を吐くばかりになっていた。
「…あー、も、どうでもいいです…」
「ん?」
「行けばわかるんでしょう?」
「流石は左近。ようわかっておるわ」
 嬉しそうに笑う伏犠を、左近は疲れきった面持ちで見上げる。
 俺が察することを前提に話をしていただろうに、よく言う。
 今一度諦めにも似たため息を吐いてから、左近は気を取り直したように口笛を吹く。程なく軽快な蹄の音を響かせて左近の眼前に赤毛の馬がやってきた。一日に千里を走ると言われるほどの名馬だ。
 鐙に足をかけて一気に馬の背に飛び乗れば、こっちだ、と伏犠が馬の腹を蹴る。軽く小走りのように走りだした馬の後ろで、左近も赤兎馬の手綱を引いて駆け出す。
 敵がいたら厄介だと左近は馬上で刀を構えていたものの、道中は至って平和そのもので、逆に拍子抜けしてしまう。
 構えた刀を肩に担ぎなおしてから、左近は伏犠の隣へと並んで馬を進める。至ってのどかな昼下がりだった。
「…妖魔はでない時期に飛んだんですかね」
「はっは。運が良かったのう」
 軽く笑い飛ばす伏犠の横で、左近は何故か落ち着かない気持ちになっていた。尻のあたりの座りが悪いのだ。まるで、二人きりでの外出のような、この状況が。
「…伏犠さん」
「おお、見えてきたようじゃぞ?」
 遂に耐え切れなくなった左近が伏犠を問い詰めようとしたその時、伏犠が楽しげな声を上げる。伏犠へと向けていた視線を正面に戻したその先には、湯気を吹き上げる水柱が立っていた。
「………ありゃあ……」
 見覚えがある。確か、ここは九州の。
「地獄、と聞いておったがのう」
 なんとも、愉快な地獄じゃわい。
 楽しげな伏犠の声に、左近はまた、頭痛がするように額に指を当てていた。