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諸星JIN(旧:mo6)
諸星JIN(旧:mo6)
novelistID. 7971
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例えばそういう、遠出の話

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「で?結局これはなんなんです?」
 そこは地獄温泉。熱湯の拭きあげる間欠泉を眺め、左近は濡れた髪を掻き上げて伏犠に問う。
 自然にできた岩風呂にゆったりと肩まで浸かりながら岩場に背を預ければ、戦の疲れも移動の疲れもすべて湯に溶け出すような心地よさ。
 まさに極楽、と言いたいところだったが、左近はどうにも腑に落ちないと顔に書いている。
「なに。お主、このところ随分と体が冷えておったようじゃからのう」
 答える伏犠も左近の隣でゆったりと湯の中に身を沈め、その逆立てた髪の上にたたんだ手拭いなどを置いている。
「はい?」
「陣地の中の気候を調整しておったのが裏目に出たようじゃな」
「……ええと…つまり、冷え性起こしてた…ってことですか?」
「そういうことじゃ」
 話が早い、と満足そうに頷く伏犠に、左近ははあ、とため息とも同意とも付かない声を吐く。
「それだけのためにこんなとこまで?」
「その通りじゃな」
「…伏犠さん、あんたもヒマじゃないでしょうに」
 疲れきったように呟く左近を横目に、伏犠は穏やかに、笑って見せる。
「お主は働きすぎよ。たまにはこうして休むのも良かろう」
「…たまには、ですね」
 実際、こうしてゆっくりと湯に浸かるなど久方ぶりだった。左近はもう一度、ため息とも心地よさげな嘆息とも付かない息を吐いて、軽く伸びをする。心なしか、いつもより肩が軽くなっている気がした。
「折角のめでたい日でもあるしのう」
 伏犠がぼそりと零した言葉に、左近の動きが止まった。
 ああ、そういえば今日は。
「…もしかして、誕生日祝いのつもりです?」
「うむ。宗茂がこうすれば良いと言うておったでのう」
「……通りで似合わない事してると思ったら」
 あの人ですか…と左近はまた額を押さえる。
 それでも、今日という日を覚えてくれていたことは。
「伏犠さん」
 ぐい、と左近が伏犠の手を引く。
 湯の中で容易く引き寄せられた伏犠の肩へと手を置いて、左近はその唇へと、軽く音を立てて口付けた。
「…大した礼もできませんがね」
 そう言って笑う左近へ伏犠も笑みを返して、逆に左近の後頭部を引き寄せる。
 岩風呂の脇で間欠泉が吹き上がり、その湯気が瞬く間に二人の姿を覆い隠していくのだった。