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【ゲットバッカーズ】人狼ごっこ

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「マクベスー!来たよー!」
学校の教室を2倍にしたくらいと思われる広さの空間に、天野銀次の声が大きく響く。
「なんだこの無駄に広い場所はよう」
美堂蛮は中央に駆け寄る銀次の後からゆったりと歩いてついてきた。
「くそ、つい来ることになっちまったがやっぱやめりゃよかったか」
「まあまあそう言わんと、せっかくだから楽しんでってや」
その後ろからニヤニヤとついてきた笑師春樹が横にならんで声をかけてきた。
「ほら、見てみい。あのマクベスはんの嬉しそうな顔。いやー、俺はいい仕事をしましたなあ」
上下左右ともにややくすんだ白さの無機質な空間の中央に、広めのレンガ色を基調としたペルシャ模様の絨毯が敷かれ、絨毯を中心にコーナーソファが一つ、その隣に大き目の一人用クッションソファが二つ、向かい合わせにカウチソファと同じようにクッションソファが二つならんだガラス製のローテーブルを囲んで窮屈さを感じさせない程度の間隔で置かれている。ソファは全て足の無いものに統一された布張りのもので色は少し暗めの緑だ。
「大体十人程度しか集まれなくねーか?」
「まー元々談話室言うてもそうそう利用する人もおらんし、この数でも普段は多い方でっせ」
「談話室に選ぶにはそもそも広すぎるだろ」
蛮の呆れたようなツッコミに
「言うてもどこもこんなもんでっせ。ごちゃごちゃなんやようわからんもんが積み上げられているからわかりにくいかもしれんけど」
せやから部屋に関してはあきらめてや、カラカラ笑いながら笑師は答えた。
「それにしたって、十人か。人狼やるにはちょっと寂しいだろ」
「なに、増えた分は改めて増やしてますわ。ほら、あそこ見てみい」
おもむろに笑師の指さした部屋の奥左すみ、中央のスペースとは離れた場所に同じようなセットが組まれている。
「あっこは一応霊界スペースに作ったんやけど、そっから拝借もできるしこの部屋の右側にドアあるのわかりまっか?そこちょっとした部屋みたいな広さでな、倉庫に使ってんのや。ソファやらなんやら押し込んであるから人数が増える時の心配は無いで」
用意は万全だと得意げに胸を張る笑師を蛮は胡乱げに見やって溜息をつく。
「へーへー。すげえすげえ」
「蛮ちゃん、笑師、早くおいでよ!マクベスがゲームの説明をしてくれるって!」
右の壁中央にある、倉庫だというドアは壁と同色で目立たないようにされているが、反対にある左壁のドアは逆に黒く塗り磨かれていた。その先に何があるのか、朔羅がお茶のセットとサンドイッチなどを載せた二段のカートを押して出てきてテーブルへと慣れた仕草で並べていく。
クッションソファに座っているマクベスの近くにあったカウチソファに座る銀次の隣に蛮が乱暴に座ると、クッションのきいたソファの弾力で銀次が軽くはねた。
「もー、蛮ちゃん、丁寧に座ってよ」
「うるせえな、こんな事ぐれーで壊れやしねえだろ」
「そういう問題じゃなくて」
「ハイハイ、その辺でその辺で」
終わらない口論という名のじゃれあいが始まりそうだった奪還屋に笑師が割って入る。銀次、蛮、笑師がカウチソファに座っているが、どのソファも広く大きいので男三人が並んで座っても窮屈には感じ無い。
「ていうかあんたら、なんでこんなゆったりソファにぎゅうぎゅうにくっついて座ってんのや」
「えー、別にぎゅうぎゅうじゃ無いよ?」
笑師の呆れたようなツッコミに銀次は不思議そうに答えて蛮を見るが、彼もさっぱりだという顔で首を横に振った。
端に座る銀次のすぐ隣に蛮が座っているので、同じソファ反対側に座る笑師と蛮の間が妙に開いている。なんや俺、ちょっとこれ寂しいんですけど、と笑師は突っ込みたくなったがこりゃ言っても無駄かと呑み込み、一部始終をクスクス笑って見ていたマクベスが、やってきた客人が落ち着いたと見て全体を見回してから改めて奪還屋の二人に声をかけた。今、談話室だというこの場所には、クッションソファにマクベス、すぐ近くのカウチソファに銀次、蛮、笑師。笑師側に置かれたクッションソファに俊樹。カウチの向いにあるコーナーソファ、マクベス寄りの場所に朔羅、スペースが空いて俊樹寄りの場所に十兵衛の全部で七人が座っていた。
「今日はわざわざありがとうございます、笑師が連れてくるなんて言っていたけどまさか本当に来てもらえるなんて思ってませんでした」
「最初蛮ちゃんはすぐに断ったんだけどね」
銀次が笑って答えるとすぐに蛮がゲンコツを落としてきた。
「っせーな。いいか、どんなもんでも俺様に敵う奴なんざいねぇんだよっ」
凡そ何を言われたかわかるやりとりに十兵衛が呆れたように溜息をつく。
「大体よ、なんだこの人数。人狼やんのに少ないだろ」
「うーん、僕も最初はどうしようかと思ったんだ。もう少し呼んだ方が楽しいかなって。でも今回は銀次さんが初めてだし最小限の人数でとりあえずやってみた方がいいかなって」
蛮の言う事にマクベスも思案気に返す。
「うう、ごめんね。気を使わせちゃったみたいで」
「気にするな雷帝。俺達も最初は酷かった」
「俺達とは何だ!俺は違うぞ、一緒にするな!」
「しかし俊樹、お前はいきなり俺とて狂人くらいやってのけるなどと始まったとたんに誘導されて自白しただろう」
「あれは確かに酷かったで…」
「ぐ…それなら十兵衛、お前とて狼になって犠牲者を出すときにすまん、許してくれなどと言い出したではないか!」
「だから俺は最初は酷かったと雷帝を慰めているではないか」
「うぅっ…!」
「…俺…始める前から失敗する前提なんだね…」
「つーかお前ぇ、ヒッキー…。よくこんな奴らと人狼しようなんぞと思ったな…」
「いえ、最初に言い出したのは笑師なんです」
十兵衛と俊樹のやりとりを見て大丈夫なのかという顔で蛮が聞くと、面白そうに見ていたマクベスが視線を移して答えた。
「へえ、ドリフが」
「インターネットで知ったらしくて。知らん人とやんのもええけど知り合いともやってみたいんや!って亜紋もつれてきて」
「そういえば今回いねーな」
「今回はお休みや。あいつ意外と手ごわくてな。そんなんマクベスはんや花月はんだけで十分やろ、銀次はんには」
「そ…そんなに大変なゲームなの?」
銀次が怖気づいたようにマクベスをうかがう。
「友情破壊ゲームと呼ぶ人もいますね」
「皆で楽しくワイワイやるパーティーゲームって聞いたんですけど!?」
「あ?俺がちゃんとドリフに適当な事言ってんじゃねーってつっこんだろうが」
「ありゃびっくりしましたわ。友達のいなさそうな美堂はんがちゃんと人狼知ってんなんて」
「死ぬか!?」
「ばばば蛮ちゃん落ち着いてー!」
笑師の言いよう対して蛮はすぐさま右手で笑師の喉を締め上げて答え、銀次が慌ててしがみついてひきはがす。
「ふん、勝負事であればたとえゲームだろうと情けは無用。それを負けた勝ったなどと言って絆が揺らぐなど笑止」
「おめーらそもそもいつだって情まみれじゃねーか」
「うぐっ」
震える銀次を鼻であしらった俊樹に蛮が即座に返す。なんだか俊樹はさっきからずっとやり込められてるなあと銀次は思ったが、始める前から意気消沈しかけている姿を見て口にするのは思いとどまり
「さて、では簡単に説明しますね、銀次さん」