ヘタレと爺ちゃん
「その根拠の無い自信は何処から来るの!?」
「ドイツに同行を依頼しておいた」
「じゃあ行く!」
先程とうって変わった可愛い孫の即答に苦笑いしながら、ローマはそっと忠告した。
「本当は、お前だけで行った方が楽だと思うんだがな。まあ、大変だろうが頑張って連れて来てくれ」
「俺だけなんて絶対無理だよ!返し刃って言ったら、名のある殺し屋とかを全部返り討ちにして、今も伝説を築き上げてる化け物じゃんか!」
「話せば分かるヤツだ」
「ヴェ…ホントに?」
まるで知り合いのことを話すかのようなローマの口振りに違和感を覚えつつも、イタリアは更に念を押した。
「ホントだ」
「ホントにホント?」
「ホントにホントだ。それとも、イタリアは爺ちゃんのこと信じられないか?」
「そ、そういう訳じゃないけど…!………じゃあ、俺頑張ってみる…ね…」
「おう。ドイツとは隣町で待ち合わせることになってるから、よろしく頼んだぞ」
「うん!」
ようやく納得して顔を上げたイタリアは、いつものように旅用の画材道具を手に取った。それを玄関先で広げ、するすると鉛筆を滑らせて、大きめのスケッチブックに小型のスクーターを描いていく。10分ほど経った頃、イタリアの鉛筆の動きが止まった。
「でーきたっ」
イタリアの掛け声と共に眩い光が辺りを包み、一台のスクーターとヘルメットが現れた。それを見て、ローマが愉快そうに笑う。
「相変わらず便利だなぁー、イタリアの能力は」
「えへへー。でもさ、利便性で言ったらそうかもしれないけど、爺ちゃんのはもっと凄いじゃん!俺も爺ちゃんからコントロールする方法教わったし」
「……そうでもないぞ。俺の力なんぞは、ちっぽけなもんだ」
「そんなことないよ!爺ちゃんは数え切れないぐらいたくさんの人を救って来たじゃない!」
「いいや。一番苦しんでるヤツは救えない…今も昔もな」
「え?」
寂しげに笑った祖父は、しかし一瞬にしていつもの笑顔に戻ると、イタリアの背を優しく押した。
「イタリア、頼んだ!」
「…爺ちゃん……うん、頼まれたであります!」
直接教えて貰ったことこそないが、祖父が何か苦しい過去を抱えていることはイタリアも知っていた。今のイタリアには、いつかその重荷が祖父の肩から下ろされる日が来るのを祈ることしか出来ない。
左手で敬礼の真似事をすると、イタリアは具現化させたスクーターに跨る。
こうして、イタリアの小さな冒険が始まったのだった。
イタリアの超能力:【アート】絵に描いたものを実体化(細部まで描かないと、すぐボロが出る。絵を描いた紙を破くと消滅)