ヘタレたちと返し刃
「………あ?」
「ぃっ………」
男の首と胴を狙った筈の男たちは、その青年を切り刻む代わりに自身の身体を細切れにされていた。転がる2つの死体を避けて前へ歩を進めた男は、呆然としたまま固まった他の賞金稼ぎたちの目と鼻の先に立って言った。
「さあ、次はどなたです?どなたが私を殺してくれます」
「……ひっ」
「な、何しやがったんだ、お前あの一瞬で…!」
「ば、化け物…化け物だああああああ!!!」
「く、くるな!こっちに来るなぁぁぁああああああ!」
登場時の威勢は何処へやら、残りの男たちは散り散りになって逃げて行く。残された男はそれを追いかけるでもなく、物言わぬ躯と化した2人の男を振り返り、再び溜息を吐いた。
「はぁ…。…勝手な人違いをして、勝手に襲い掛かって、勝手に逃げて行く。賞金稼ぎというのは、どうしてこうも自分勝手な人間が多いんでしょうね。そうは思いませんか、桜の影に隠れたお二人さん」
声もなく佇んでいた2人は、今度こそ自分たちに対してかけられた声に飛び上がった。更に促すように、再び声をかけられる。
「そこで隠れて私を窺っているのは分かっていますから、出てきて下さい」
顔を見合わせた2人は、やがて決心したように頷くと、前を向いて巨木の影から歩み出た。
「「………」」
「こんばんは」
「………お前が返し刃か?」
「…おや。今度は人違いではなく正真正銘、私に用がある方ですか。最近では珍しいですねぇ。その軽装では、賞金稼ぎにも殺し屋にも見えませんが、あなた方は一体どんな用です?」
「…用があるのはコイツだ。ホラ、イタリア」
「……ヴェ、ヴェー、あのね返し刃さん………」
ドイツは目の前の返し刃を睨みながら、自身の後ろに隠れたままのイタリアを引っ張り出した。ビビリまくりのイタリアが、おどおどと話を切り出そうとするのを遮って、男が口を開く。
「イタリア?…貴方が、イタリアですか」
「ヴェ、お、俺のこと知ってるの??」
「…知っているというか、今朝方、近くの村で大騒ぎしておられるところを見ただけですが」
「ええー!朝からあの村に居たの!?…何だぁー俺たち凄い捜して苦労しちゃったじゃないかー」
「そんなに私を捜し回ってくれていたのですか?…これは光栄ですね、ローマ様のお孫さんにそんなことをされるとは」
「え、爺ちゃんのことも知ってるの!?」
大好きな祖父の話に思わず一歩前に出たイタリアを制するように、ドイツが手を伸ばして引き止めた。
「無闇に近付くなイタリア。この男が先程したことを忘れたのか?」
一方の返し刃は、子供を庇う親のような反応を示したドイツに苦笑した。
「貴方に危害を加える意思がない限り、私は手出ししません。…いえ、出来ませんから」
ですから、構えを解いて下さい。貴方自身のためにも。
返し刃が、今にもその手から炎を出して攻撃しそうなドイツを牽制した。ドイツもまた、優れた超能力者の1人だった。
「……信用できんな」
「そうですね、こんな場面を見てすぐに私の言うことなど信用出来ないでしょう。…ですから、あなた方の疑問にお答えします」
「疑問?」
「どうやらお二方とも、聞きたいことがおありのようですから。それから、私を信用するか否かはご自身で決めて下さい」
返し刃は、返り血を浴びた顔にそぐわぬ表情で微笑んだ。
ドイツの超能力:【パイロキネシス】対象物を念じて燃やす(炎を纏っての攻撃も可能だが、耐火機能はないため火傷を負う。遠距離の物や生きた人間を発火させるには、少し時間がかかる。【カウンター】には無効)