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ヘタレたちと返し刃

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「ねードイツー」
「何だ」
「どうして返し刃はこっちに居るって分かったの?」
「……お前の村と俺の町を繋ぐ道は、さっき通ってきただろう。もしも返し刃がお前の村から俺の町の方へと移動したなら、俺たちと返し刃は道中で擦れ違っている筈だ。しかしあの時、一応周囲を見回してきたが、返し刃らしき人物は見当たらなかった。ならば、こちら側の道から何処かへ向かったと考える方が筋が通る」
「なるほどースゲー!ドイツってば探偵みたい!!」
「…先程の女将の「ついさっき出た」の言葉を信用するなら、の話だがな」
「お、女将は嘘なんて吐かないよ!それは俺が保障する!」
「なら、この先に返し刃がきっと……うおっ!」
「イダッ!!…もー、ドイツいきなり何なの…ムゴッ」
「シッ」
ドイツは飛ばしていたバイクを急いで止めて、顔面をドイツの背にぶつけて騒ぐイタリアの口も塞ぎ、道の脇にある巨木の影にサッと隠れた。
居た。返し刃が居た。想像よりもずっと小柄で品の良さそうな青年が、見慣れない民族衣装を着込んで道の真ん中に立っていた。イタリアより細身で小さい男であるというのに、いざ目の前にすると不気味な威圧感を覚える。それが、事前情報によって「何人もの猛者を返り討ちにしてきた凄腕の男」と知っているからなのか、それとも本当に男が威圧感を発しているのかは分からない。分からないが、足が竦むように凍り付いた場の空気に、ドイツとイタリアはのまれていた。

「……どどどどうすんの、ドイツ…」
「…返し刃は、どうして立ち止まっているんだ?待ち合わせか?」
最小限に声を抑えて話す2人は返し刃をじっと見つめたが、男が動く様子はない。誰かと待ち合わせするにしても、往来の真ん中で待つというのはいくら何でも不自然だ。じっと息を潜めて様子を窺うこと数十分、遂に返し刃がその口を開いた。
「いつまでそうしているつもりですか」
「「!!」」
バレていた。素人の拙い尾行など、とうにバレていたのだ。2人は血の気の失せた顔を互いに見合わせる。
「先程からついてくるのはあなた方でしょう。いい迷惑です。隠れずに出てきなさい」
口調は穏やかだが、隠れたトゲがチクチクと刺さる。これが百戦錬磨の殺し屋(或いは妖怪変化)の佇まいか。いつもならさっさと白旗を作って振るイタリアが、それすら出来ずに震えている。もう観念して投降した方が良さそうだと、ドイツが隠れていた巨木から身を曝け出そうとした瞬間、
「流石に冬将軍殿は鋭いようだ。我々の追尾にはとうに気付いておった、ということですかな?」
ドイツたちが隠れたのと反対側にあった巨石と木々の背後から、ギャング風の男たちがわらわらと出てきた。飛び出しかけていたドイツは再び身を巨木の背後に隠し、声もなく震えるイタリアを腕の中に庇った。見たところあれは殺し屋、いや賞金稼ぎだ。

「…何の用、とは聞かずとも分かりますが」
「ああ、アンタの首が狙いだよ冬将軍殿」
「お前の首には何十億という大金がかかってるんだ。大人しく首を差し出してくれりゃあ、俺たち一生楽して暮らせるんだがなぁ」
「無理無理、お前らすぐギャンブルですっちまうだろうが!」
ギャハハハハハハ!!!と下品な笑い声を立てる男たちは、ドイツの見立て通り賞金稼ぎだったようだ。しかし、ドイツは首を傾げる。
(冬将軍殿…ヤツらは確かにあの男を冬将軍と呼んだ。どういうことだ?あの男は返し刃の筈…それに冬将軍という名は……)

「…はぁ」
これみよがしに溜息を吐いた黒髪の青年は、目を閉じて言った。
「分かりました、どうぞ」
「あぁん?…分かり易すぎるヤツだなぁ、じゃあ遠慮なくそのタマ頂くぜ!!」
「舐めやがって…本物の賞金稼ぎの恐ろしさを味合わせてから殺してやる!」
2人の男が同時に無防備な男へ突っ込む。イタリアが目を瞑って耳を塞ぎ、ドイツも呆然とその光景を眺めていた。
作品名:ヘタレたちと返し刃 作家名:竹中和登