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【カイリン】十四歳の亡霊

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カイトが二枚目の板チョコをかじり始めた頃、表通りに出る。先ほどとはうってかわって人通りが多くなり、車も頻繁に行き交っていた。リンは、人混みにはぐれないよう、カイトの手を握り直す。その時、前から急ぎ足で歩いてきた男性の鞄が、リンをかすった。

「あっ!」
「ああ、ごめんね」

驚いて声を上げたリンに、相手は軽く頭を下げて行ってしまう。

「大丈夫?」
「うん、かすっただけ」

カイトの言葉に頷いたリンは、ハッとして振り向いた。さっきの相手は、リンに対して頭を下げている。


あたしが見えてるんだ・・・・・・!


「どしたの?」

カイトの声に、リンは勢い良く顔を上げた。そのままじっとカイトを見つめる。
カイトがいるから、自分は周囲に見えているのだ。今までは、そこで考えが止まっていたけれど。

「何? チョコ食べる?」

呑気な声。けれど、リンは先ほどのやり取りを思い返していた。


『この能力は、消耗が激しくて』


リンが一人で入る時は、『シザーズ』のせいで周囲から見えない。けれど、カイトと一緒にいる時は、見えている。

それは、『ジーニアス』の効果ではないのか。

カイトがやたら甘いものを口にしているのは、消耗の激しい能力を発動させているから、手っとり早くエネルギーを補給しているのではないか、と。

リンの為に。リンを孤独にさせない為に。


何で、そこまで・・・・・・!


リンが口を開く前に、カイトの手が頭を撫でる。

「気にしなくていいよー。俺が勝手にやってることだから」
「・・・・・・あっ、あんたのことなんか、心配してないっ!」

リンは手を振り払い、そっぽを向いた。くすくす笑いながらカイトが手を繋ぎなおしても、まだ横を向いたまま、

「・・・・・・装置、つければ、簡単なのに」
「それじゃ、組織と変わらないでしょ。俺は、あれ嫌い」
「・・・・・・・・・・・・」

リンも、二度とつけたいと思わないが、そのせいでカイトに負担が掛かってしまうことを、無視したくない。

「・・・・・・カイトは、『シザーズ』のこと詳しい?」
「詳しい訳じゃないけど、どういう能力かは知ってる」
「使い方、は? 応用の仕方、とか」
「知ってるよー」
「だったら」
「うん?」

リンはそっぽを向いたまま、テディベアに顔を埋めた。

「だったら・・・・・・コントロールの仕方、教えろよ。あたしが、一人でも大丈夫なように」

これ以上、カイトに負担を掛けないように。
いつまでも、側にいられるように。

「・・・・・・そうだね。それも必要かもねー」

カイトは、ゆっくりとリンの頭を撫でる。

「リンも、もう大人だね」

そう言って笑顔を浮かべるカイトを、リンはぼんやり見上げた。