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緑間真太郎の幸福な一日

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「俺はともかく、真ちゃんはうちのチームの要だろ。真ちゃんが居なくちゃ部の奴らみんな困るし? っていうかその両手の、」
「チームがどうかは知らないが、俺にとっては高尾が要なのだよ」

高尾の言葉を遮って、緑間はさも当然のように言い放った。
反射的に顔を上げた高尾は片方の眉だけを器用に上げて、訝しげに緑間の言葉の真意を問うてくる。
その視線を真正面から受け止めつつ、緑間は真剣そのものの顔で口を開いた。

「今日一日、俺がどれだけ不幸で不便で不機嫌で不都合な生活を強いられたのか、じっくり思い知らせてやりたいくらいなのだよ……病人相手だからやめておいてやるが」

真剣な表情の中、目だけが獲物を狙う獣のように爛々と輝く。
上から下まで、まるで味見でもするように視線だけでなぞれば、今度は高尾が小さくのど仏を揺らした。

「……真ちゃん、占い一位だったのに? 有り得なくね?」
「そこなのだよ。俺が思うに、今朝の占いはハイリスクハイリターンを意味しているに違いない」
「へ?」
「きちんと占いの通り振る舞えば、きっと高尾の風邪もすぐに治って、俺はいつも通り心地好い日々が過ごせるようになるのだよ!」

堂々とそう言い放つと、緑間は片手のコンビニ袋を無理矢理もう片方の手に移し替えた。
一瞬身体が傾くほどに荷重が偏ったが、すぐに持ち直して、自由になった方の手で器用にキーホルダーを外す。
鞄に付けていた、ピンクの兎のキーホルダーだ。

「これを肌身離さず持つのだよ、高尾」

それを高尾の目の前で小さく揺らしながら、緑間はまるで試合に勝った後のように傲然とした笑顔を浮かべる。
マスクに半分以上隠されていても、高尾の顔が紅潮していくのが分かる。
目を泳がせながら、もごもごと「真ちゃんマジ卑怯」などと呟いていた高尾だったが、暫くすると観念したかのようにキーホルダーを受けとった。

「俺が、真ちゃんの『一番』でいいのかよ……」
「何を今更。当たり前なのだよ」

緑間は極自然にそう言いながら、再び今朝の占いを思い出していた。
『今日はとってもハッピーな一日になる予感! ラッキーアイテムはピンクの小物。一番大切な物と一緒に持てば最高の時間がゲット出来そう!」――やはり占いは本当だった。
今この瞬間までは散々な一日だったが、照れくさそうな高尾の姿を見ていると心にじんわりと幸福が沁み渡って行く。
終わりよければ全てよし。
今日は間違いなく、緑間真太郎にとって幸福な一日だ。

「んで、真ちゃん。ツッコミ入れ損ねたから今言うけど、そのコンビニ袋どしたの?」

キーホルダーのリングを指に引っ掛けて握りしめながら、照れ隠しのように高尾が明るい声を出す。
顔がニヤケてしまうのを何とか抑えていた緑間が、高尾の視線につられるように己の片手に目を遣れば、そこには冷気を放つコンビニ袋が五つ。

「は、早く言うのだよ高尾! アイスが溶けてしまうのだよ!」
「えっ、それ全部アイス?! マジで?!」
「どれが好きか分からなかったから、コンビニにあったアイス全部買い占めて来たのだよ!」

とりあえず冷凍庫入れるのだよ、いや全部は無理だし、などと慌てふためく二人の甘い熱にあてられて、どんどんアイスは溶けていく。
作品名:緑間真太郎の幸福な一日 作家名:モブ