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髭のお兄さんと魔女

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『でな、でな、結局俺が占うことになったんやけど、そん時ロマーノめっちゃ照れ臭そうにしてな、俺それがほんまもう胸にズキューンッッてなってぇ…』
「うんうん」
『何であんなにかわええんかなぁ、ロマーノ。弟のイタちゃんも勿論かわええんやけどな!あーでも最近全然逢うてへんわー元気しとるかなー?また3人で旅行行けたら、もう何処が目的地でも楽園やんなぁ~』
「あーはいはいそうだね」

かれこれ2時間は続いている友人の“うちの可愛い子自慢”に適当な相槌を打つのは、ここ一帯で最も有名な大資産家の跡取り息子・フランスである。受話器を持つ手とは逆の手で美しい金髪をかき上げるこの青年は、隣町に住む幼馴染に「髭ワイン」などと罵られるのを除けば、凡そ美丈夫で通っている。
今、電話で話しているのは友人のスペインだ。実家は農家で、主にトマトを栽培している。彼の家が代々作るトマトは絶品として知られ、美食家でもあるフランスの父が大々的に資金面の支援を始めたことから家族ぐるみの付き合いがスタートした。それ以来フランス自身もスペインのトマトの味に惚れ込み、フランスが趣味で経営するレストランのためにスペインのトマトを卸すなど、お互いビジネスのお得意様でもあるのである。

(しっかし、親馬鹿ならぬ親分馬鹿なのが玉に瑕だよな)

スペイン曰く、子分のロマーノとは“運命の出会いをした”というが、フランスは本業に差障りのない範囲でイチャイチャしてくれよ、と切に願う。1年前の2人の大喧嘩では、あれだけ愛情を込めて育てていたトマトを長期間ほったらかしにした挙句ダメにして、スペインの両親やフランスの父から大目玉を食らっていた。フランス自身もスペインのあんまりな職務放棄にスポンサーの1人として怒ってはいたが、誰にどれだけ怒られようとも「やっとロマーノに許してもろた~」と涙を流して喜ぶスペインに心底呆れて何も言えなかったのだ。

(というか、完全に尻に敷かれてるよなこいつ。何処が親分なんだよ)
『そんでもな~、ロマーノはイタちゃんにやたら厳しいねん。何でやと思う?たった一人の兄弟やんか。もっと目に見える形で……』


「フランスさん、電話ですよー」
いい加減、適当な相槌を打つのも嫌になってきた頃、タイミングよくドアが開かれた。フランスが目を向けると、予想通りメイド服を着た少女が立っている。

「あー、ちょっと待てスペイン。……またお兄さんに電話?ていうか、部屋入る前にノックしようねセーちゃん」
「どうでもいいから早く出て下さいよ。今から庭掃除しなきゃいけないんスからー」
「使用人とは思えないこの態度…!お兄さん泣いちゃう…!」
「はい、これ子機ですから」
つかつか歩み寄って電話の子機を手渡すと、セーちゃんと呼ばれたメイドはさっさと出て行ってしまった。フランスの泣き真似など一切意に介さない態度だ。
「…冷たい子。……もしもし、スペイン?」
『あー、何や誰かから電話か?フランスは忙しいヤツやな。ほな、親分はもう電話切るで~』
「ああ、お前も永久にトマト栽培に専念してろ」
溜息を吐きながら電話を切ると、フランスは手渡された子機を暫し眺め、やがて電話に出た。





「セーちゃん、ちょっといい?」
「…何ですか?」
「これからちょっと隣町にまで行きたいんだけど…」
「今からですか!?」
「うん、今から。…お願い出来るかな?」
庭で掃き掃除をしていたセーちゃんことセーシェルにフランスが声をかけると、彼女は素っ頓狂な声を上げた。そして眉根を寄せて、困った表情をする。その顔には“もう少しで定時になるのに”、とありありと書かれていた。
「給料はちゃんと払うよ。時間外労働報酬もたっぷり付けちゃう」
「さあさあ、フランス様行きましょう。行き先は眉毛宅ですか?」
「うん、そうだよ。頼むね、セーちゃん」
手にした箒を急いで片付けると、セーシェルはいそいそとフランスの手を引いて歩き出した。急に態度が変わったが、フランスは気にしていない。現金なこの少女の態度はいつものことだ。気にしたら負けなのである。

本来なら、隣町の腐れ縁の自宅を訪問することなど自分1人ですることなのだが、フランスの場合はそういう訳にはいかなかった。彼が生まれつき視力が極端に弱い、所謂“弱視”だからである。それでも、杖さえあれば一人で何でも出来たし、人の手を借りながらも大半のことは自分だけでこなしてきた。しかし、それも十代半ばまでのことだった。とある事件をきっかけに、過保護な両親から単独での外出を禁じられ、門限も大幅に早められた。勿論、外出の際には“何処へ”“誰と”“何をしに行くのか”を事細かに伝えなければならない。それらを破ろうものなら、暫く自室に軟禁されることすらあった。
いい年をした現在は、流石にそこまで―――子供への躾紛いのことを―――されることはないが、社会的地位を得たことで更に身の安全を求められるようになった。全盲ではないのだから、とボディーガードを断っても両親の不安は消えないらしく、あまりにしつこいためセーシェルを雇ったのだ。セーシェルには基本的にメイドとして働いて貰っているが、こうして外出する際にはボディーガードをして貰っている。たかが少女と侮るなかれ、彼女の腕っ節はフランスどころか農作業で鍛えられたスペインをも上回るのである。腕相撲100人勝負で、セーシェルを雇うことに渋る両親を黙らせたのは良い思い出だ。

「…あ、セーちゃん、ちょっと急いで。何かヤバイみたいだから」
「了解っス」
目を閉じたフランスが急ぐよう告げると、運転席で車を走らせるセーシェルが勢いよくアクセルを踏み込んだ。
作品名:髭のお兄さんと魔女 作家名:竹中和登