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髭のお兄さんと魔女

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隣町の中でも一際町外れにある豪邸に着いてすぐ、こちらに駆け寄る影があった。車から降りて手を上げると、あちらも手を振ってドンドン近寄ってくる。やがて息を切らせた青年が、神にでも縋るようにフランスの手を握った。

「フランスさん!それとセーシェルさんも…!お待ちしてました、どうぞ中へ」
「おー久しぶりだな、カナダ!…相変わらず苦労してるようだなぁ。苦労しすぎで白髪どころか全体的に透明に……」
「冗談言ってる場合じゃないんです、早く何とかして下さい!!」
「はいはい分かってるよ、暴走眉毛を止めりゃいいんだろ。…セーちゃんは屋敷の外で待っててくれる?」
「うぃ」

車から降りたセーシェルと別れてから、やけに足早に屋敷内を進もうとするカナダの焦燥っぷりに苦笑しながら、しかしフランスは表情を引き締めた。
相手はあの男だ。こちらも無傷ではいられないだろうし、いざとなったらカナダを守らねばならない。セーシェルを連れて行かないのは、目指すことがあくまで説得だからだ。暴力で解決してもいい問題なら、迷わずあの怪力娘を戦場に投入する。



ビリビリと肌に刺すような痛み、目には見えない力の波動。或いは、それを“プレッシャー”や“威圧感”といった言葉に置き換えることが出来るだろうか。とにかく、そんな圧倒的な力が直に伝わってきて、2人の足は途端に廊下で立ち止まる。
これ以上進みたくない。一般人ならすぐさま回れ右して退却するであろうこの環境で、しかしフランスとカナダは前に進まねばならない。この恐ろしい力を暴走させている張本人を、何とか止めるために。

「あー…予想以上に暴れてんなぁ。俺が“視た”時より更に酷くなってる」
「ボクが帰って来た頃にはもうこの有様で…片付けようにも、いつまたアレで暴れられるか分からないんで、ホトホト困ってるんです」
溜息交じりでそう話す青年・カナダは、この大豪邸に住む人間の1人だ。
この町を代表する旧家であるコモンウェルス家は、全盛期にはフランスの住む町や遥か東方にまで領土を持っていたというとんでもない家柄だった。俗に言う、貴族というヤツである。身分制度が完全に崩壊した今でも、旧家として旧領民に慕われ、広大な敷地に建てた豪邸に住む。

「酷いもんだ…値段も付けられないような皿や絵画が粉々だよ、オイ」
長い廊下に散らばった残骸は、見る人が見たら卒倒間違いなしのシロモノばかりだ。
「お皿なんて可愛いものですよ。先祖代々受け継いできた家具や遺産が軒並みダメになりました」
「……伝統とか、しきたりとか、とにかく苔の生えたような古いモンを大切にするアイツがここまでやるとはな。…そこまで追い詰められてんのか」
「貴方の力を以ってしても見つからないなんて、想定外だったんでしょう」
「………」
「シー君にこんな有様見せられませんから、早めにお願いします」
「…分かってるよ」
自分たち家族の問題をどこか他人事のように言うカナダに違和感を覚えながら、しかしフランスは目的を果たすために問題の部屋へと突入した。



「………何の用だ」
部屋へ足を踏み入れた瞬間に顔面目掛けて飛んできた本をかわして、フランスは奥のベッドに近付く。
「…お前はホント、遠慮なしなのな!俺の美貌が妬ましくて真っ先に顔面狙ったのか!?俺の麗しい顔に傷でも付いてみろ!世のお嬢様方がどれだけ嘆くか、その損失を考えたことあるのか?」
「……煩い、出てけ」

喚くフランスを一瞥すらせず唸るように声を出し、再び床に散っていた本が舞い上がる。ハラハラとドア付近で様子を見守っていたカナダが、ヒッと短い悲鳴を上げた。
バサバサと激しく襲い掛かる本の群を、何とか両手で顔と頭をガードしながら受け止める。一歩ずつベッドに近付くたびに飛び交う家具が増えていくが、それでも確実にそこへ歩を進めた。
「イギリス!」
ベッドにうつ伏せる青年の名を呼ぶと、ますます念波動は強まる。先程から暴走しているのは、彼が持つ【サイコキネシス】の能力だった。

イギリスは、名門・コモンウェルス家の長男で次期当主の座を約束された身であるが、多忙な両親は滅多に邸宅へ寄り付かないため、実質的には既に彼が家督を継いだようなものだ。幼い弟を含む兄弟3人を養い、両親から一部引き継いだ事業に携わるイギリスは、超能力の才能をも自力で開花させていた。
大いなる科学の力で超能力者が大幅に増加したこの世界において、【サイコキネシス】はあまりに基本的でありふれた力である。しかし、それにのみ特化したイギリスの腕前は、そこらに転がる能力者とは比べ物にならないほど強大だ。その気になれば、容易く人を殺めることもできる。

「イギリス、」
「………」
「俺がもう一度やってみる。アイツを捜す。だからもう、こんなことやめろ。物に当たるなんざ、お前らしくもない」
「………」

だが、強大な力は己の精神力を削る諸刃の剣。特に【サイコキネシス】の能力者にその傾向が強い、という研究結果がゲルマン博士によって発表されたことは、フランスの記憶にも新しい。だからこそ、この迷惑な腐れ縁が心配でならないのだ。
こうして力を使えば使うほど、その能力者の心は疲弊し、傷付き、病んでいく。フランスが襲い掛かる本や椅子や机にも恐れず立ち向かっていけるのは、こうしてフランスが身体に受ける痛みより、イギリスが心に受けた傷の方が酷く深いことを知っているからだ。

「こんなことしても、自分で自分を傷付けるだけだ」
「………」
「それに、弟たちも」
「……!」

今まで何を言っても無反応で、見えない力でフランスの身体中をバシバシと叩くだけだったイギリスが、ようやく小さな反応を返した。

「シーランドがそろそろ学校から帰ってくる頃だろ。お前は、シーランドにも牙を剥くのか?…いや、それ以前にカナダにも迷惑かけてるな。お前はそれでいいのか?」
「………」
「イギリス!!」
「…よく、ない……良いわけないだろ!!」
イギリスの掠れた声が心の悲鳴そのもののようで、悲しげに眉を寄せたフランスは腹に力を込めて叫んだ。
「だったらシャキっとしろ!兄貴だろーが!!」


フランスの強い言葉を受け、暴風にも似た念波動は唐突にピタリと止んだ。
粉々に砕け散った窓ガラスを避けてこちらへ恐る恐る歩み寄るカナダを視界の隅に入れ、フランスは深く息を吐く。
「俺が必ず、アメリカの居場所を突き止めてやるから…」
力の使い過ぎで気絶したイギリスの涙に濡れた寝顔を眺め、慰めるように小さく声を掛けた。


イギリスの超能力:【サイコキネシス】人や物を自在に動かし浮かせる(力を使えば使うほど情緒不安定になり易い。一定ラインを超えたストレスを受けると暴走する。【カウンター】には無効)

フランスの超能力:【クレヤボヤンス】遠く離れたものや隠されたものを透視(一度会った人間の現在の動向も確認出来る。代わりに、普段の視力は極端に低い。【カウンター】には無効)
作品名:髭のお兄さんと魔女 作家名:竹中和登