二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【サンプル】この子、飼ってもいいでしょ?

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 

 太陽が尾根の向こう側に沈んでいく。空は柿のように色づき、黄色や赤に染まりつつある木々を照らしている。
 空気はひんやりとしていて、夏の気配はすっかり消え、寒さが少しずつ近づいていることを感じさせた。
 ここ、守矢神社にも時折どこかから飛んできた落ち葉が舞っている。
「早苗、遅いな」
 私、八坂神奈子は窓の外をぼんやりと眺めながらつぶやいた。
「そうだねえ……」
 ちゃぶ台を挟んで向かい側にいる諏訪子が気だるげにそれに答えた。
 ズズズと諏訪子がお茶をすする。私も目の前に置かれている湯飲みを手に取って同じようにズズズ。お茶の香りが口の中に広がらない。すっかりぬるくなってしまっていた。
 今日は布教活動の日。早苗は守矢神社の教えを人々に語って聞かせるために人里まで降りている。これは月イチでやっているもので、いつもなら太陽が山にかかる前に早苗は帰ってくるのだが、今日は随分と時間がかかっている。
 人里で何かあったのだろうか? 事故に巻き込まれたとか? 早苗のことだから心配ないとは思うが……嗚呼、やっぱり心配だ。
「このままじゃ今晩は夕飯抜きになっちゃうよお」
 確かに今日は早苗が夕飯の当番だから、早苗がこのまま帰ってこなかったら夕飯を誰が作るのかという話になるが。
「諏訪子、夕飯の心配よりも、ちょっとは早苗の心配をだなあ……」
「大丈夫だよ。早苗はそんなヤワな子じゃないって」
「そうは言っても、万が一ということも……」
 ガラガラガラ。
 思わず語気を荒げてしまいそうになったその時、玄関の戸が開けられる音が聞こえてきた。
「ただいま戻りましたー」
 続けて早苗の聞き慣れた声。
「ほら、だから大丈夫だって言ったでしょ? 神奈子は心配性すぎるんだよ」
「心配性で悪かったな。そういう性分なんだよ」
 別に悪くは無いけどー、とケロケロ笑う諏訪子の声を背中に受けながら早苗を出迎えるために腰を上げた瞬間。
 ドタドタドタ!
 居間から廊下へ出るふすまの向こう側から突如として廊下を慌ただしく走る音が聞こえてきた。
「何事だ?」
 ふすまを開けてまず玄関の方を覗いてみるが、当然のことながらそこにはすでに早苗の姿は無く。
「すみませーん! すぐにお夕飯の支度しますからー!」
 反対側、家の奥にある早苗の部屋の方からそんな声が聞こえてきた。
「んん……?」
 早苗は普段は廊下を走ったりするような子ではないはずなんだが……いったい何をそんなに慌てているんだ? 帰りが遅くなってしまったことをそんなに気にしているのか?
「あー、これはまた早苗の悪いクセが出たんじゃない?」
 ちゃぶ台にほおづえを突きながら、諏訪子。
「悪いクセ? ……ああ、もしかして」
 諏訪子に言われて思い出した。
 まだ外の世界にいた頃、早苗はときどき捨て犬や捨て猫などを拾ってくることがあった。そういうとき、早苗は決まってそのことを私たちに隠してこっそり飼おうとする。なぜ隠そうとするのかはわからないし、いつまでも隠し通せるようなものでもないと思うんだが、それが早苗のクセだった。
 幻想郷に来てからは動物を拾ってくることもなかったし、こっちの住人とも色々とあったおかげで人間的にも成長したかと思っていたが、やはりそう簡単には性根は変わらないか。
「やれやれ」
 もし本当にまた動物を拾ってきているのだとしたら、安易にそんな真似をするなと叱ってやらねば。
 私は居間を出て廊下を静かに歩き、早苗の部屋の前で立ち止まった。
 コンコン、と部屋のふすまを軽くノックする。
「な、なんですか? お夕飯ならすぐに支度しますから!」
 部屋の中から早苗の必死な声が聞こえてきた。
 うむ、早苗のこの慌てっぷり、間違いなくまた悪いクセが出ているな。
「早苗、私たちに言わなきゃいけないことがあるんじゃないか?」
「え、いや、そんなことは……」
「お前もわかっているだろう? いつまでも隠していられるようなものではないってことくらい」
「……はい」
「うむ、よろしい。では話は夕飯の後にゆっくり聞かせてもらうぞ」