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【サンプル】この子、飼ってもいいでしょ?

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 結果から言うと、今回も見事に早苗は三日坊主だった。
 早苗が椛を拾ってきてから一週間。椛にご飯をあげるのはすでに私の役割になってしまった。
 今日も私は居住区の裏側に置いてある物置の前にエサを載せた皿を置く。
「ほーら、椛、ご飯だぞー」
「ワン!」
 すると中から椛が出てきて、嬉しそうに餌を食べ始める。
 白狼天狗を本当に犬のように扱うのは私もどうかと思うのだが、本人がそれを望んでいるので仕方なくこのような扱いをしている。
 早苗は当初椛を空き部屋か自分の部屋にでも住まわせるつもりでいたらしいが、椛は何故か頑なにそれを拒んだのだ。おそらくそういう風に調教されているのだろう。元の飼い主はいったい何を思ってこんなことをしたのだろうか。
 ではどこならいいのか。守矢神社内を色々と見て回ったところ、椛は外に置いてある物置の前を気に入り、物置の中も人ひとり丸まって入れる程度のスペースが空いていたので、以後ここが犬小屋代わりとなっている。
 ちなみにトイレはちゃんと家の中でする。
「どうだ、おいしいか?」
「ワン!」
「そうかそうか、よーしよし」
 私はエサを食べる椛の頭をそっと撫でて毛並みを整える。
 椛を飼い始めてすぐに気づいたのだが、椛の頭を触るのはとても気持ちがいい。特に耳は実にもふもふしていて素晴らしい。最近ではこれに触るのが私の日課であり、癒やしにもなっている。
「はあ……たまらん」
「お楽しみのところ悪いんだけどー」
「わっ!?」
 完璧に油断していたところで急に後ろから声をかけられて、私は慌てて振り向いた。
「なんだ、諏訪子か。驚かすなよ」
「なんだとはご挨拶だね。そろそろ準備しなくていいのか、聞きに来てやったのに」
「……ああ、もうそんな時間か」
 私はゆっくりを立ち上がってから溜め息を吐いた。
 今宵は満月。この日は天狗のお偉いさんとの定例会議が行われる。天狗たちの今後の生活や技術革新など、様々な事柄について意見を交わすのだ。そして、会議があらかた終わるとなし崩しに酒が入り始めるのだが……。
「行きたくねえなあ……」
 天狗のトップである天魔のじーさん、素面のときは真面目でしっかりしてるけど、酒が入るとセクハラしてくるんだもん。
「気持ちはわかるけど、外回りは神奈子の仕事でしょ?」
「ああ、わかってる。わかってるさ」
 私はもう一度溜め息を吐いた。
 わかっているからこそ溜め息を吐かずにはいられない。
「クゥーン?」
 椛が皿から顔を上げて私を見つめてくる。どうやら私の様子がおかしいことに気づいたようだ。
 私は再び椛の頭を優しく撫でた。
「なんでもないよ。それじゃ、私は出掛けてくるから留守番しててくれよ」
「ワン!」