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真白物語

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Episode.3 カントー・ミクリカップ


       一.

 北国であるシンオウ地方にも春の暖かさが感じられるようになったある日の午後、この地方でトップコーディネーターの一人として籍を置く私、ノゾミは思い立ってハクタイシティに住む大岡先生のもとを訪れた。
 いや、私がトップコーディネーターとして籍を置いていたのはついこの間もことまでである。あの日執り行われたコンテストの最中に倒れて爾来、コーディネーターとして鍛えられていた身体にすっかり病気が取り憑いて、今は出場することも叶わない。同じ街でジムリーダーを務める先輩に、

「あなたは自分にも他人にも厳しすぎるのよ。だから、周りの人に疎まれることもあるし、こんな状態になるまで気付かない……まあ、この病気で身にしみたのだから、今は少し身体を休めなさい。お医者様も、薬を飲んで、きちんと休めばきっと治るって言っていたわ」

 と、言われたこともあって、情けないことと思いつつも、私はここ数カ月間コーディネーターとしては目下開店休業中なのである。
 ここ数日は薬を飲んでいるおかげか、体調もだいぶ優れてきたので私はハクタイシティのお宅を訪問すると、先生は召使の男と二人で庭に苗床を作っていたが、私の顔を見るとすぐに手を洗って書斎に通してくれた。

「久しぶりだね、その後はどうかな。病気の方は……」

 浅黒い顔に柔和な笑みを称えて先生は私を迎えて下すった。

「ええ、今は少し落ち着いていますよ」
「そうか、それは何よりだよ。近ごろは全然顔を見せなかったから、大丈夫だろうかと、この間もサトシ君と話していたんだよ」
「そうでしたか、もう少し身体が良くなれば会いに行こうかと思っていたのですが……」
「それなら、彼らもきっと喜ぶよ」

 先生はそう言って穏やかに笑われた。
 さて、これまでの会話に出てきたサトシというのは、私がコーディネーターとしてシンオウ地方を巡っていたときに知り合った人で、今は実家であるマサラタウンでカントー警察本部の警察官相手に稽古をつけている。そのサトシが師として仰いでいるのがこの大岡先生なのである。
 この人はその昔、カントー警察本部に勤めていて、その卓越した実力と推理力を持って犯罪捜査に非常な腕を奮われた人である。後になってその地位から失脚したあとも、先生は警察が手を焼いた難しい事件が起きると出馬されるのであった。
 しばらく時間が過ぎたのち、私は先生に要件を切り出したのだ。

「それで先生、今日はお願いがあってきたのですが……」
「どんなこと、私にできることであるなら応えるよ」

 と、先生は言ってくださったので、私は実は……と要件を切り出した。
 これは半月ほど前のことだが、そのときも私は自分の家で前に述べた先輩と談笑をしていたのである。そのときに、私と先輩の共通の友人であるサトシのことが話題となったので、私は彼から聞いた様々な事件の経験をその先輩に聞かせたところ、先輩は感心したような顔で、

「ふうん、彼みたいな立場におかれた人も珍しいわねえ……あなたがそんなに彼の話を知っているのだったら、彼の経験を書きとめてみてはどうかしら。あなたには、時間もまだあるのだから……」

 そう言われてみると、私もなんだかそうした方が良い気がしてきた。というのも、正直なところ私は最近、ポケモンたちとともに暇を持て余していたところだったし、文章を書くぐらいであるなら身体にさし障ることもないだろうと考えたからである。
 しかし、実際に書いてみると不慣れな文章を書くというのはなかなか難しいものだったし、私が彼から聞いたことを正確に覚えていなかったことが私を困らせたのである。そこで私はその日、大岡先生を訪ねた用件というのが、先生の手許に昔の記録が残っていると期待したからである。

「なるほど……」

 と、先生は私の話を聞くと、すぐに頷いて、

「それはいいね、是非書きなさい。私はかまわないよ、変に誇張をしたりしなければね……」
「はい、出来るだけ事実を書こうと思っています」
「それで、彼らには了解をとったのかい?」

 と、尋ねられたので、私は恐縮した面持ちで、

「いいえ、じつはこれから了解を得ようとは思っていたのですが、昨日は電話が通じなくて……」
「そうか……なら家からかけてみるといい、今なら家にいるかもしれないよ」

 そうした経緯で、先生の家からマサラタウンの彼の家に電話をかけたところ、生憎彼は今日、カントー警察本部に赴いているらしく不在であったが、彼の奥さんに要件を言うと奥さんは一も二もなく承服してくれた。それからしばらく会話をしてから先生の元に戻ると、

「どうだったかな?」
「はあ、彼は不在でしたが、彼の奥さんが万事O.K.してくれました」
「そうか、それならよかったね……それで、書くとすればさしあたり、どの事件に手をつけるつもりかね」
「私が彼と再会した、カントー・ミクリカップでの出来事を書いてみようと思っていますが、どうでしょうか?」

 と、言って私はおそるおそる先生の顔を眺めた。先生はしばらく無言で考えられたようであったが、おもむろに口を開くと、

「そうか、あの事件は君たちにとっても思い入れが深いからね。いいだろう、書いてみなさい。私としては多少辛いところもあるが、我慢するから……」
「ありがとうございます。それで先生、実は困ったことに三年も前の出来事なので私も記憶が曖昧になっていまして、当時の資料があれば拝見させていただきたいのですが……」
「分かった。私の手持ちにあるものは君に提供するし、もし足りないことがあれば、諸方からも取り寄せるとしよう」
「ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします」

 と言って、私は先生に深く頭を下げたのである。
 私はそれから先生の家に一晩御厄介になり、三年前に起こった出来事の話を聞いた。その話の中には私が覚えていないこともあって、私はあらためて先生の記憶力の良さに敬意を払ったのである。
 そして、その翌日の昼に先生のお宅を辞したのだが、私はその日夕食を食べ終えてから先生から聞いた話とお借りした資料をもとに、これからお目にかけようとする物語、三年前のカントー・ミクリカップで起きた事件を書きはじめたのである。

      二.

「この街に来たのは、結構以前な気もするけど、――その時と変わらず、ずいぶんと活気があるわね、この街は……」
 
 と、ヤマブキシティの駅から出て早々、清しい声で呟いたのは私とは数年来の付き合いであるポケモンコーディネーター・ヒカリであった。
 この誰にとも語ったわけでもない呟きに対して、彼女が腕に抱いているペンギンポケモン・ポッチャマは自分も同感だと言わんばかりに頷いて鳴いた。私自身も彼女のこの言葉に、

「そうだね、コトブキシティも大分活気があるけど、ここには敵わないだろうね」

 と、答えると、

「そうね……えっと、ところで会場は何処にあったのかしら?」
「ああ、それなら向うにあるバス停から会場へと向かうバスが出ているらしいから、それに乗るといいみたい。途中にポケモンセンター前に降りられるようだから、ちょうどいいよ……」
作品名:真白物語 作家名:Lotus