現在(いま)と未来を繋ぐもの
初めてだ、こんな恰好。自宅前に止まった車で通夜の会場へ向かう。今夜は親父の名代として、爺の通夜に行くのだ。仕事は事情を話し抜けてきた。終わればまた戻ることになっている。だが、本音を言えば行きたくない。見たくなかった。何か、抜けられないような事態になればいいと願ったが、そう都合の良いことも起こらず、今ここに居る。
読経を聞きながら大きな祭壇に飾られた遺影を眺めた。若い爺が此方を向いて笑っている。髪も黒くて、肌の艶も良い。まるで昨日見送った爺さんじゃないみたいだ。大きな寺の参道にはずらりと花輪が並び、政財界の誰でもが知っているような名も随分とあるのを思い出した。
帰り道、一人で薄暗い寺の参道を歩いていると後ろから声を掛けられた。
「ヤマケン君?」
振り向いた俺の目に、色っぽい女が映る。長い髪を波打たせ、隙のないメイク。黒のスーツは膝より少し下丈のスカートからは細い脚が伸びている。腰がくびれ、胸と尻がやけに目立っていた。小首を傾げ、口元に小さな笑み。誰だ?全く分からない。
くすくす・・
「私、夏目。夏目あさこって覚えてない?」
作品名:現在(いま)と未来を繋ぐもの 作家名:沙羅紅月