となりの桂くん(銀魂・高桂)
案外桂は見た目によらず運動神経がいい。バスケでは3Pを何本も決めてしまった。
桂との1ヶ月1万円未満生活も今日で最後で、明日には仕送りが振り込まれているはずである。
「大変だったけど、お前との生活もけっこう楽しかったな。」
俺は桂に声をかけた。桂は「そうだな」と小さく答えた。
「そういえば、そろそろ6月になるけど、友達の銀時、いつ来るの?」
「まだわからない。連絡がないからな。」
「そっか。」
最初は変な奴だと思っていたが、桂と一緒にいると楽しいと思う自分がいた。
梅雨に入る1週間前、桂の友達の銀時が来た。梅雨に入る前だというのに真夏並みの暑さだった。
成田空港まで出迎えに行く桂について行った。
いろいろ突っ込みたいところはたくさんあるのだが、
俺の中で坂田銀時の第一印象は、こいつの目はなんてきらめきのない目をしているのだろう
ということだった。
アメリカから来るというので、相当テンションが高いのだろうと思っていたらそうじゃなかった。
「なんで日本の夏ってこんなにじめじめするの?銀さんの髪の毛、膨張しちゃうじゃん。」
と口を尖らせて言う。
坂田銀時は桂の部屋に寝泊りすることになった。
なんだか俺としてはあんまり面白くなかった。
そりゃ確かに、今まで桂のことを変人奇人呼ばわりしていたのは事実だが、今まで一緒にいたのに
いきなり「銀時、銀時」と言って自分のことはそっちのけにされると、どうしたらいいのかよくわからない。
「わかんねーな、ちくしょう」
この苛立ちは寂しさからくるのだということはわかっていたものの、認めたくはなかった。
俺は部屋のベッドに横になり、雑誌をぱらりぱらりとめくった。
雑誌を読みたかったわけじゃなく、こうしていないと落ち着かなかった。
別に俺は銀時のことを邪険にしようというのではない。
だが桂のあまりの変わりようには腹が立った。
この間まで俺の家に上がりこんで飯を食って、弁当まで作られていたくせに。
金がないときは俺の家に上がりこんで、俺の家の洗濯機や風呂を使ったくせに。
…いや、あれは俺も俺でたしかに大変だったからいいんだが。
それでも、その手のひらを返すような反応はないんじゃないのか?
もう少し俺の気持ちもわかろうとする努力はしてくれてもいいんじゃないのか?
こういう時、俺はいつもばあやに小さいころに勧められた芥川龍之介の『杜子春』を思い出す。
杜子春が金持ちになるたびに、みんなが集ってくるのだが、一旦貧乏になると今までのことなどなかったかのように冷たい。
『杜子春』はそのあとの展開がかなり酷だし、俺は何も杜子春みたいに仙人になりたいわけでもない。
俺のことなど忘れたかのようにした桂の反応が嫌なのだ。
今じゃあ、飯のときくらいに俺の家に上がりこんで、あとはそっちのけだ。
しかも銀時の分まで用意させられるからもっと腹が立った。
気の短い俺にしてはよく耐えたと思う。
だけれどもう限界だ。俺の家に飯で上がりこむなら、せめて皿洗いをしてから帰れ!!
「高杉ー、高杉ー」
(ばーか、誰が出るかよ。銀時に作ってもらえ)
いつものごとく、桂は朝ごはんのために俺の家にやってきたので居留守を使った。
ドアベルが何十回も鳴らされようが、「高杉ー」と名前を呼ばれようが今日は絶対に出ない。
出ないったら出ない。
俺はベットの上で丸くなっていた。もう携帯の電源も切ってあるので、桂からのメールの心配もない。
俺はベッドに横になり極力テレビの音量を下げて、朝の連続テレビ小説を見ていた。
ちょうど春になって新しいドラマに変わった。
(これを昨日までは桂と一緒に見ていたんだけどなぁ・・・)
けっこう面白いドラマなので、俺一人でも楽しめるが桂と一緒にいるとなお楽しめる。
(いやいや、あいつは俺の家にただ飯を食いに来ている奴だ)
桂はまだ家の外にいるらしい。何やら話し声が聴こえる。
(しつこいな、今日は一歩も外に出ないつもりなんだよ。そのために昨日、買いだめしておいたんだから。)
するとまたしきりにドアベルが鳴るではないか。
桂も相当しつこい。でも出るつもりはない。そのうちあきらめるだろう。
するとドアが勝手にかちゃっと開く音がした。
俺はぶったまげた。いくら同居していたことがあったとはいえ、俺は桂に自分の部屋の鍵を
渡した覚えなどないし、そもそもこの家に合鍵はない。それなのに開いた…!
俺は身構えた。
作品名:となりの桂くん(銀魂・高桂) 作家名:八条