二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

嵐の夜

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 



「アンディ、まだ起きてんのかー?」
 ガチャッと扉が開く。そっと覗き込んで、我ながら間抜けとも思える声を闇に響かせる。
 ぬっと暗闇から金髪の丸い頭がのぞく。心なしか、息が荒いように感じた。
「……ウォルター……」
 廊下の明かりの下に出たアンディは、不機嫌そうな半眼で答えた。
「……こんなにうるさくちゃ寝れないよ」
 ウォルターはフッと笑って、軽く返す。
「そうだな。同感。俺もだ」
 それからアンディをじっと見つめる。
 そして、真面目な顔をして、改めて同意した。
「……眠れねぇよな、こんなにうるさいと」
 実際は、今まで眠っていたんだろうアンディの、切りそろえられた前髪の下の額……そこに浮き出た汗……を見て、悪夢を見て起きたのだろうことを察していたのだが。それをウォルターは表に出さなかった。
 汗をぬぐってやろうとのばしかけた手も止める。
 そんなことをすれば、気づいていると教えることにもなるし。
 さりげなく目を逸らし、何かあるかのように遠くを見る。
「……ウォルター。仕事に出てたんじゃないの?」
 眼帯をつけていたアンディが、それを終えて尋ねてきた。
 ピクリ、とはずんだ体とはねた心臓をおさえ、ウォルターは口元に笑みを作った。
「ああ。ついさっき帰ってきたとこ」
「なら……」
 休まないのか、と訊きたいのだろう。疲れているんじゃないのかとか。その通りだ。
 ウォルターは上から下までアンディを見る。
 これくらいの年齢だったか、……いや、もうちょい上か。そう思う。
 標的のこども。
 あのマフィアは頭をなくして潰れたけれども、あのこどもはどうするんだろう。
 ……なんて、自分の考えることじゃない。
 『歩く処刑器具』は考えない。
 ……まあ、今まで自分に回されなかった類の仕事だというだけで、どれだけ考えられていたのかは知れるけれども。
 自分の周りの人間に。
 相手は判定書が出るにはじゅうぶんだった……それだけだ。
 そこから先はない。それがすべてだ。
「アンディ」
 何かを言いかけて迷っていた……あるいは言葉を探していたのか、やめたのか……アンディが、呼ばれて『ん』と顔を上げた。
 ウォルターはわざとニヤッと大きな笑みを見せた。
「なぁ、ちょっとふたりでイチャイチャしようぜ」
「え……」
 いたずらっぽい笑みを浮かべてひそっと耳打ちすれば、アンディが目を据わらせて距離を取る。
「イチャイチャって……」
「いいだろ? おまえも眠れないんだし、ヒマだろ?」
 困惑顔のアンディの腕をつかむ。
 アンディがぶんぶんと首を振る。
「いや、イチャイチャって……」
 ウォルターは真面目な顔つきで返す。
「遊ぼうぜ。なんでもいいからさ。お子様はカード(トランプ)か?」
 からかわれたことに気付いたアンディがムッとする。
 ウォルターは笑って言った。
「なんならケンカだっていいし」
「そっちのほうは準備万端だよ」
 限りなく低められた声がすぐさま返ってきて、ウォルターは『おや?』と目を見開く。
 そして、すぐにその目を楽しそうに細める。
 ……まったく、負けず嫌いなんだから、アンディは。
 声を上げて笑って、ウォルターはアンディの背中を押した。
「ここで騒ぐわけにいかねぇし、おまえの部屋でやろうぜ」
「え……結局何するの……?」
「い・い・か・ら!」
 戸惑って自ら足を動かそうとしないアンディの肩に腕を回して、抱えるようにして無理やり部屋に入れる。そして自分も遠慮なく。

 外はまだ風がうるさかった。
 まあいい。負けないくらい騒ごう。
 ウォルターはそう決めた。



(おしまい)
作品名:嵐の夜 作家名:野村弥広