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Idiot【IS×仮面ライダーフォーゼ(能力のみ)】

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 時の制止した世界、その中心で少女は、首を失って肉塊となった一也に静かに話し掛けた。

「アナタは……この物語が間違いだと言った。そして滅ぼすべきだと言った。確かにこの世界は間違いだらけなのかもしれない、でも……この世界にだって幸せに生きている人がいる。その人達の幸せを壊していいはずがない」

 少女は、一也が落としたフォーゼドライバーを踏み付けて破壊する。

「こんな借り物の力でしか何もできない貴方に……この世界を幸せにすることなんてできない」

 少女はそのまま、自分が切り落とした血の一滴も流れていない一也の首を持ち上げ、それに話し掛ける。

「ねえ知っている? 幸せな家族の未来が、どこからともなく現れた借り物の力を振るう自分勝手なバカに滅茶苦茶にされる気持ちを? 私もね、貴方達に全部奪われたの、父さんも、母さんの笑顔も、私が居た世界の人達の幸せも、全部貴方達に滅茶苦茶にされた ねえ解る? 普通であることが、平凡であることが、沢山のものに満たされている事が、どれだけ幸せだということを、それを自ら手放すことが、どれだけ罪深い事かという事を」

 少女は突然、発作的にその首を地面に思いっきり叩きつける。首はドンっとバスケットボールの様な音をたてて、そのまま光の粒子となって消えていった。

「私も貴方が第二の人生も平平凡凡であることを望むのなら何もしなかった。もし貴方達が、欲望の赴くまま私の様な不幸な子を増やそうというのなら……私は全力で抗う、お前たち一人残らず刈り取って、生も死も、光も闇も、心も愛も生まれ変わる事も無い場所に叩きこんでやる」

 鬼のような形相で歯ぎしりをする少女、その時……彼女の胸ポケットに仕舞ってある携帯電話から、何かの特撮番組のOPテーマの様な明るい着信音が鳴り響き、少女はそれを取った。

「もしもし」
『おう“ブルー”、仕事は終わったか?』
「“グリーン”、今処分し終えた所」
『まったく、最近増えて来たよなあ、境界震災に巻き込まれて、神を名乗る詐欺師共に煽られて、なんかよくわかんねえ力使って転移先の世界の女達を食い物にして、借り物の力を使って世界を滅ぼそうとする奴等、お陰で最近残業続きだよ』
「そんなバカは根絶やし……それが私たちの仕事」
『わあーってるって、取り敢えず次の現場行くぞ、次はリリカルなのはの世界だ』
「またあそこ? 最近は落ち着いてきたみたいだけど……」
『いや、今回はいつもと勝手が違うみたいなんだ、取り敢えず合流してから話す』
「了解」

 少女が通話を終えて携帯電話を胸ポケットにしまう。すると少年の胴体も光となって消え、周りの時間は再び動き出し、空港のロビーに人々の騒がしい声や機械の機動音など様々な音が重なり合って命の営みの音楽を奏でる。
 その音を聞いた少女は、何かを思い出したのか、瞳に悲しみを帯び、俯いて黙り込んだ。

「あのアナタ……大丈夫ですか? 具合悪そうですけど?」

 するとそんな彼女に話し掛けてくる人物が現れた。どこかの学校の白い男子制服を着た、長い金髪を紐でまとめた、優しげな瞳を持つ若者だった。
 対して少女は若者を心配させまいと顔に微笑を浮かべて答えた。

「平気です、ちょっとIdiotな男をここから追い払った所で」
「ははは、Idiotなんてひどいなぁ」

 すると若者は腕時計を見て、傍に置いてあった旅行鞄を手に取って歩き出そうとした。

「あ、僕もそろそろ行かなきゃ、良い旅を」
「ええ、良い物語を……シャルロット・デュノアさん」
「え?」

 少女に背を向け歩き出そうとした若者が振り向くと、そこにはもう少女の姿はなかった。

「なんだったんだろう? 今の……?」

 若者は首を傾げながら、日本行の飛行機がある場所へ歩いて行く。これから描かれる、異物の無い、本来通りの、自分の物語を歩いて行く為に……。