親友 あとがき
翌朝、枕元に置いたサンジの鞄がそのままそこにあって、
思わず抱きしめてしまった。
いつもより少し早いが、学校へ行く準備をして家を出る。
5歩ぐらい歩いたところで一回家に戻り鏡でもう一度自分の顔をチェックする。
今度こそウソップはサンジのアパートへと向かった。
いつものように、サンジの部屋の前まで行く。
だが、いつものようにチャイムを押すことは出来なかった。
手が震えた。
ウソップがドアの前で右往左往していると、
ガチャリと音がして肩がびくついた。
恐る恐る振り返ると、そこに居たのはゾロだった。
「・・あっ・ゾロ、おはよう。」
「あぁ。何してんだ?」
「いや、別に何でも・・」
ゾロの顔に自分の浮き足立っていた心が一気に静まってった。
実感がわいた昨日の僅かな時間より、
遥かにゾロと付き合ってると思っていた時間が長いのだ。
不安がまたゆっくり這い上がってくる。
ウソップはサンジの鞄を持つ手にぎゅっと力を入れた。
「あいつはまだ寝てるぞ。」
「えっ!!?もう行く時間だろ?」
「まぁ、さっき寝たようなもんだからな。」
「そう、なのか?」
「てか、ウソップてめぇあんまりあいつを甘やかすな。」
「・・甘やかす?どういう意味だ?」
「あいつの惚気話に付き合わされるおれの身になれ。」
「へっ!!??」
「くそっ、眠ぃ。学校で寝るか。先行く。」
「あっおいゾロ!!!!!」
頭をガシガシと掻き乱しゾロは大あくびをしながら先に行ってしまった。
ウソップはゾロの言葉の真意を確かめようと、とりあえずサンジの家に上がった。
すると、寝坊なんて縁のないサンジが珍しくそこで寝ていた。
ウソップが傍まで行っても起きる気配がない。
「珍しい。」
ウソップは恐る恐る携帯を取り出し、一枚写メを撮った。
カシャという効果音にもサンジが起きることはない。
撮れた画像を確認したウソップは迷うことなく待ち受けに設定した。
普段寝かせておこうと思っても簡単に起きてしまうサンジをウソップは起こせないでいた。
このまま学校サボっちまうのもアリかなぁなんて考える。
そっと自分もサンジの隣に横になる。
寝顔を見ていると、サンジの口がもごもごと動いた。
「・・ウソップ・・」
寝言だった。
ウソップは頭から湯気が出そうだった。
両手で顔を覆い、出来るだけ静かにのたうちまわる。
先ほど這い上がってきた不安は消えていた。
「夢じゃ・・ないんだよな。
どっきりじゃないんだよなっっ」
ぶわりと言い表しようのない幸福感が一気に心を浸透していった。
「やったぁぁあああぁぁぁあぁぁぁ!!!!!!!」
と、叫んでから隣に眠る人を思い出す。
穏やかな寝息のリズムが崩れていないことに安堵し、もう一度顔を覗き見た。
誰も居ないことは分かりきっていたが、
きょろきょろと当たりを見回し、ウソップはサンジにキスをした。
「へへっ」
おれは今。
猛烈に幸せだ。
幸せすぎるっっっ!!!!!
暫くすると、サンジの隣からも穏やかな寝息が聞こえてきた。
サンジは薄く目を開けそれを確認すると、顔を両手で覆った。
「やったぁって何だよ。アホ。」
サンジの顔は耳まで赤かった。
「幸せそうな顔して寝やがって。」
サンジはウソップの呼吸が苦しくならない程度に抱きしめるともう一度目を閉じた。
小さく「やったぁ。」と口にしながら。