ゲバルトプリキュア!
「澪ちゃんぅぅ!!」
「風蘭ちゃん!やっぱり家に帰ってたんだ。どうしたの?」
風蘭の家の前の通り。
澪はそこを歩いていた。
風蘭が家に居ないと思い、諦めて帰るところだったのだ。
「えぇ?どうしたってぇ……質問の意図がまるで読めないよおぉ??」
「だって…保健室に向かったと思ったら、
帰って来なくて。それでその後、その…」
澪は顔を背け、口ごもった。
「……な、なにぃ???」
「…なんかその、外から風蘭ちゃんの声が
して」
「む、ぅうん?それは摩訶不思議ィィ!!
という他、ないよぉ??」
風蘭は、うまく誤魔化そうとして顔に笑みを作った。
しかしその表情は不自然極まりなく、気味が悪いという他ない。
「姿は見えなかったけど…風蘭ちゃんが叫んでたんじゃないの?」
風蘭は、校舎のすぐ傍に転落した。
頭上からでは、視覚的に彼女の姿を見るのは難しい。
彼女は、自分の醜態をクラスメート達に晒してはいなかったのだ。
「えぇ!?私ィ!??違う違う違うぅよおぉ!!??私はぁ…」
何度も顔を横に振りつつ、その場凌ぎの言い訳を考えた。
「….満身創痍だったので自宅に帰還したのであったよおぉ!???」
「どこか怪我でもしたの?」
「そうだよぉ!もうねもうねぇ全身がねとにかくねぇ……痛っったいよぉ?」
澪が体を観察し始めたので、風蘭は顔を顰め体のあちこちを抑える。
「….そうだったんだ。誰にも言わないで居なくなっちゃったから、先生に住所を聞いて、探しにきたの。帰るなら、ちゃんと報告しないとだめだよ」
「それは、誠に申し訳ないよおぉ…」
「ううん、私は委員長だから当然だよ。なにより、友達として心配だったから」
「…感激だよぉ」
「もう放課後だし、遊びに誘いたいところだけど。具合が悪いなら仕方ないね。無理しないでしっかり休ん」
「ダイジョーブだよおぉ!!」
「え?でも体調が悪いんじゃ」
体調不良で帰宅し、先程まで苦悶の表情を浮かべていたのだ。
おかしいと思うのは当然であるが。
「もう治ったよぉ!頗る元気だよぉ!!とても遊びたいよぉ!!!」
「そう?それじゃあ…行こっか!」
「うんぅぅっっ!!」
「遊園地なんて久方ぶりだよぉ」
服を制服から私服に着替え、出かけた二人は遊園地にやってきた。
この遊園地は、休日はたくさんの人で賑わうが、今日は平日。
あまり人はいない。
「前住んでたとこって、近くに遊園地無かったの?」
「あったよぉ。遊園地も水族館も動物園もぉ、あってぇ。ずっと、ずっと、行きたいと思ってたよぉ」
「そんなに行きたかったなら、行けば良かったんじゃない?」
「一人で行っても虚しいだけだよ。だよぉ」
風蘭は表情を変えることなく、淡々と喋っている。
その目は、ここではないどこか遠くを移しているように澪には見えた。
「…もしかして、風蘭ちゃんの家族の人って、仕事とかで忙しいの?」
「まあそんなとこだよぉ。だからパパとママにはあまり会えないよぉ」
「そう、なんだ」
「…あぁ!遊ぶ時間、なくなっちゃうよぉ!!一分一秒も惜しいよ早く行こうよぉ!!!」
風蘭は澪の手を掴み、駆け出した。
人が少ないお陰で、行列に並んだりする必要はなく、スムーズに遊ぶことが出来た。
二人は、取り憑かれたかのように、遊び続けた。
時間が経つのは早く。
午後八時三十分。
もう辺りは真っ暗だ。
「もうこんな時間。早く帰らないとね」
出口へと歩く二人を、外灯の淡い光が照らす。
「澪ちゃん」
「うん?」
「私なんかと遊んでくれてありがとう。とっても、楽しかったよ」
夜の帳が降りた世界。
風蘭がどんな顔をしているか、澪にはよく見えない。
どんなことを考えているか、分からない。
彼女を知ろうとする澪を妨げるのは、深い闇。
闇はいつでも、風蘭を包みこんでいる。
「私も楽しかった。また一緒に遊ぼうね」
「うん。っっあ……」
「どうしたの?もしかしてまた具合、悪くなったの?」
「…ちょっとトイレ行ってくるよぉ!」
風蘭はそう言うと、闇の中に飛び込んで行った。
「…こんな時に、またあぁ……」
トイレに駆け込んだ風蘭は、自分を恨めしく思う。
鏡に映るその顔は、まるで飢えた獣だ。
「オイ風蘭」
「ぅぁっひぃぃっっ!??」
突然天井から逆さまに、ビリィが降ってきた。
「ビリィィ!?脅かさないでよぉ!って何でここにぃ?ここ女子トイレだよぉ!?変態という他ないよおぉっっ!!!」
「誰が変態だ!!…妖精として、お前を見張る必要があるからな。悪いが尾行させてもらった。それより、近くにカレヒトがいるぞ」
「やっぱりぃ…」
「犠牲が出る前に倒しにいくぞ、早く変身しろ」
「…犠牲?」
「奴らには、心がない。空っぽの、器なんだ。その器を満たすため、人の心を吸い取る。心をたくさん吸い取ったカレヒトはより強くなる。そして」
ビリィは、絞りだすように言った。
「心を取られつくされた人間は、カレヒトとなる」
「え……?」
「心が涸れた人間の、成れの果て。だからカレヒト。お前の友達も奴らに襲われたら、ああなっちまうんだぞ。だから早く」
「澪ちゃん!っっ変身!!」
ビリィがいい終えるより先に、キュアカオスとなった風蘭は、友の元へと向かった。
外灯の光は、全て消えていた。
だがプリキ○アの目があれば、それは問題にならない。
「澪ちゃん!大丈夫!?」
地面に倒れていた澪の元へ駆け寄る。
「大丈夫、気絶してるだけだ。………あいつを見ちまったせいで」
ビリィは拳を握り締め、小刻みに震えている。
彼が感じているのは、恐怖。
憎しみ。悲しみ。怒り。
「!!あれ、は…?」
二人の視線の先にいるそれは、闇の中でも異質な存在感を放っている。
体から滲み出る濃い闇が、周囲の空間を飲み込んでいく。
「気を付けろ風蘭!!あいつはやべえ!!昼に戦った奴とは別格だ何しろ」
「!!」
突如放たれた黒い光線を、紙一重で躱す。
攻撃は風蘭の背後の林へと突き抜け、大爆発を引き起こした。
その爆炎の光は、闇をより際立たせた。
「元、プリキ○アだからな」
その姿は、今の風蘭に、キュアカオスによく似ている。
しかし体を構成しているのは、闇。
闇のプリキ○ア。
「プリキ○ア…私と、同じ…?」
「同じじゃねえ!!そいつは負けた!!もうプリキ○アじゃねえし、人間ですらねえ、化物だ!!同情なんかしてたらすぐ殺されちまうぞ!!」
地面を滑るように、音も無く。
敵は一瞬で距離を詰めてきた。
低い位置から、昇るように繰り出された拳。
プリキ○アの研ぎ澄まされた反射神経をもってしても、それを避けきることは出来ず。
「うぅっっ!!」
腹部へ攻撃を受けた風蘭は、遥か上空へと投げ出された。
作品名:ゲバルトプリキュア! 作家名:NOEL