ゲバルトプリキュア!
「風蘭!!」
風蘭を追い跳躍したカレヒトは、無防備な彼女に再び拳を叩きこむ。
「っっ………!!」
勢いよく地面に叩きつけられた風蘭へ、なお敵は迫る。
回転しながら急降下し、その勢いを活かし繰り出された蹴りを、風蘭は横に跳んで躱した。
カレヒトが踏みつけたコンクリートの地面は粉々に砕け、その破片の一つが風蘭の頬を裂いた。
「…畜生!風蘭はまだ禄に戦闘経験もねえのに、いきなりこんな奴が出てくるとは…」
「…大丈夫」
荒い呼吸を繰り返す風蘭。
その目に宿る光は、輝きを失っていない。
「私は、負けないから。負けられないから」
風蘭は駆け込み、渾身の力で右の拳を放つ。
だが敵はそれを片手で、簡単に受け止めてみせる。
「あああぁぁっっ!!」
そしてそのまま力を込め、風蘭の拳をグシャリと握り潰した。
再生を待つこともなく、風蘭は右脚で上段の蹴りを繰り出す。
しかし、蹴りが敵に届くより先に、敵の拳は風蘭を殴り飛ばした。
吹き飛びながら態勢を整えた風蘭は、再生したばかりの腕を突き出し光線を放つ。
それに対抗するため、カレヒトも同様に攻撃を放った。
せめぎ合う二つの光。
その力は拮抗せず。
押し負けた風蘭は咄嗟に回避しようとしたが、間に合わなかった。
「…うぅ、う…」
倒れた風蘭の口から、大量の血が溢れ出した。
傷は再生する。
しかし、破壊と再生を何度も繰り返せば。
肉体は、確実にダメージを蓄積していく。
風蘭は立ち上がろうとしたが、力が入らず再び倒れた。
勝利を確信したのか、カレヒトは彼女との距離をゆっくりと詰めていく。
その深紅の瞳には、プリキ○アだった頃の、人だった頃の優しさなど、一片も宿っては居ない。
あるのは純粋で、邪悪な意思のみ。
「…止まれ!!」
カレヒトの前に立ちはだかったのは、ビリィ。
この敵の前では。
あまりにも無力な存在。
「風蘭までカレヒトになんて、絶対にさせねえぞ!!俺が相手だこの野郎!!」
「…ビリィィ……?危ないよ、ひっこんでなよぉ……」
「うるせえ!!こんな俺でも、ボロ雑巾みてえな今のお前よか役に立つ!!」
小さな爆発音とともに、ビリィは煙に包まれた。
次の瞬間その煙の中から現れたのは、若い男性。
髪はきっちりと真ん中で揃えられていて、黒いスーツを着ている。
黒縁眼鏡までかけた姿は典型的なサラリーマンだ。
「俺が時間を稼ぐ!!早く友達連れて逃げろ!!」
変身能力。
全ての妖精が、生来持っている力。
しかし、自分より大きなもの、特に生物に変身するには。
天賦の才と、血の滲む努力を必要とする。
ポジティブ王国女王親衛隊隊長、ビリィ。
御伽話のような、妖精の国。
気の遠くなる程長い、その歴史。
史上最年少で、その地位にまで上り詰め。
かつて神童と呼ばれた男。
国も主君も守れなかった。
恥を忍んで生きてきた。
希望を見つけるために。
男はここを、自分の死に場所と決めた。
風蘭の視界は霞んでいる。
意識も、朦朧としている。
だが、ビリィの姿だけは、はっきりと見えていた。
いつの間にか溢れていた涙が、頬を伝って地面に落ちた。
彼が遠くに行ってしまう気がして。
震える手を、必死に伸ばした。
「だめだよ……」
ビリィが雄叫びをあげながら敵に飛びかかった瞬間。
風蘭の意識は、途絶えた。
作品名:ゲバルトプリキュア! 作家名:NOEL