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ゲバルトプリキュア!

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「……あんまりだよおおぉぉ……」


今、風蘭は狭い路地をフラフラと歩いている。
勿論行き先は自宅だ。
唯一無二の安息の地。



「私を酷い目に遭わせようとする何者かの、邪悪な意思を感じざるを得ないよおぉ…んぅ?」


彼女の目の前の地面に、突然小さな影が出来た。
それはどんどん大きくなっていく。


何かが、落ちてきているのだ。


不思議がった風蘭が空を見上げようとしたのと、それが落下してきたのはほぼ同時だった。


今彼女の目の前に落ちてきて、ぐったりしているもの。


それは。


「ええぇぇっっ!一体なあにいいいぃぃ!?」





背面は、黒猫のそれにとてもよく似ていた。
体毛は黒く、ギザギザに曲がった細長い尻尾と耳がある。


しかし、おもむろに二本足で起き上がったそれの顔だけは真っ白だ。
白と黒の境界には、赤色の太いラインがある。



顔は無精髭が伸びており、肉がだらしなく垂れていて中年男性さながらだ。



「未確認動物、UMAという他ない不可解な生物だよぉ!!」
「おいお前!!」


風蘭は一瞬、声の主がわからなかった。



目の前のUMAが口を動かしたのは見えたが、それと声を関連付けるには少しの間が、あった。






「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」


声の主は紛れもなく、目の前のそれだ。
声は太く、乾いている。



「……ぅっっるせえな!!喚くんじゃねぇよキチガイか!!」


「キェェェェェェアァァァァァァァ!!!マタシャベッタァアアァアァァアアァァァアァァ!!!」


二度目は、さっきよりも悠長に言葉を喋った。
しかもそれは明らかに風蘭に対してのものである。



驚きを隠せない風蘭は、空を見上げ両腕をぶんぶん振り回す。



「……オイ」


「キェェェェェェアァァァァァァァ!!!マタシャベッタァアアァアァァアアァァァアァァ!!!」


「……」



「アァァアアァァァアァァ!!!アァァアアァァァアァァ!!!アァァアアァァァアァァ!!!アァァアアァァァアァァ!!!アァァアアァァァアァァ!!!アァァアアァァァアァァ!!!アァァア」


彼女は、断末魔のような金切り声をあげている。


もしこれが目覚まし時計のアラーム音だったら。


起こされた人はきっと、時計を叩き壊す。


そして最悪の気分で一日を過ごすことになるだろう。


「……喋って悪かったよ。静かにしてくれ頼むから」


「アァァアアァァァアァ………ァ?人語を解する珍妙な生物に、何か頼まれたよおぉ!!?」


「……どっちが珍妙な生物だよ。俺の名はビリィ。ビリーじゃねえぞ、ビリィだ」


全く状況を理解していない彼女に、ビリィは名を告げた。


人間は、例え自分達が理解していない存在や現象も、名前をつければなんとなく知ったような気になれる。



だから彼女を落ち着かせるため、名乗ったのだ。



ビリィだと。



「…で、頼みごとってなにぃ?っていうかキミ、なにぃ??」


「…間違ったか?いや、確かにコイツの筈。しかしこんな……」


多少平静を取り戻した風蘭の質問は、ビリィには届いていないようだ。


あご髭を弄くりながら何かを考えている。


「ねぇぇ、何の話してるのおぉっ!!」


「…っっとにかく!俺は今敵に追われてんだ!そいつを倒すキャストはお前ってことになってんだよ!!」


「てきぃ?きゃすとぉ??わけわかめという他ないよぉ???」


既に、突然現れたビリィのことで頭がいっぱいなのだ。
彼女でなくとも戸惑ってしまうだろう。


「…来たぞお前の後ろだ!!」


「ういぃ?」


ビリィが指差す方を振り向く。






一人の女性がゆっくりと、歩いてきている。



髪は金色で、服は葬式に着るような黒服だ。
特に不自然な点は見当たらない。


「…普通の人だよおぉ?…っっあぁぁ!!!」


「なんだ、どうした!?」


突然その場にうずくまった彼女のもとにビリィが駆け寄る。


残念なことに、彼には風蘭しか頼れる存在がいないのだ。


彼女に何かあっては、困る。



「…ま、た、殺り、たくなってきちゃったよおぉぉっ!!なんか、なんか今回は特にヤバい感じのあれだよおぉぉっっ!!!」


「……?まさかお前、分かるのか」


「私に分かるのは、私の全身全霊全筋肉があの人の血を激しく渇望しているということだけだよおぉぉっっ!!」


大量のよだれを垂らしそう叫ぶ彼女は、確かにヤバい感じのあれである。


「!!……いや、とにかくあいつを倒すぞ、変身用の道具はここに」


「もはや理性や倫理や道徳なんてどうだっていいよおぉっっ!!」


「オイ待て変身もしないで!!」



かつてなく強烈な、破壊衝動。
それに突き動かされ、明確な殺意を持って
女性に襲いかかる。


「オラアアアァァッッ!!」


走るスピードを活かし。
抉るように。
女性を殴り飛ばした。


「またこんなことしちゃったよおぉ!でも、気持ち良すぎるよおぉ!!快感で頭がとろけてしまいそうだよおぉぉっっ!!!」


「油断するなそいつはその程度じゃ死なねえぞ!!」


どうやら女性は、今迄消してきた六十ニ人よりも頑丈らしい。






彼女はふらつきながら立ち上がると、



















人間を脱いだ。








脱皮するように。









中から現れたそれの姿は人間とさほど変わらない。
体が少し大きい程度だ。


ただしその肌は闇のように黒く、否、闇そのもので、目だけが赤く光っている。


「…何っっあっれええぇ!!人が化物という他ない化物になっちゃったよおおおぉぉっ!?しかもめちゃくちゃ怖いのに私の破壊衝動はどんどん強くなってくよおぉっ!!」


「あれはカレヒト。人間に紛れこんでやがる、タチの悪い化物だ。闘うにはプリキ○アに変身する必要がある。だから」


「んうぅ?」


ビリィの掌には、拳程度の大きさの黒い玉が乗っている。





「ブチ込ませてもらうぞ」

「えぇ!ちょぅっっ!?あううぅぅぇぇっっ!!!」


その玉を風蘭の腹部に押し付ける。
すると玉は沼に沈むように、彼女の体へと入ってしまった。


「…今何したのおぉっ!?何か身体の中に入ったようだよおぉっっ!!?」


「キュアスフィア。それを体に埋め込んだ状態で『変身』と言うと」


「変、しぃん……ぅ?」


黒い光が、彼女を包み込んだ。









「ぅおおおおぉぉっ!!!!?」


光が消えると、風蘭は自分の姿を手鏡で確認した。


服は黒く、所どころ白が混ざっている。
鉄壁の短いスカートは無駄にひらひらだ。
薄紫に変化した髪は依然変わらずショートヘア。
前髪にあった寝癖は一本の触覚のように逆立った。


「ホンットに変身しちゃったよおぉっ!?驚天動地という他ないよおぉっ!!!」


「変身したお前の力は超人、いや人外の域にまで達している。…だからとっとと闘えキュアカオス!!」



いつまでも自分の姿を見ている風蘭の尻をビリィが蹴り上げる。

作品名:ゲバルトプリキュア! 作家名:NOEL