月の船
ふっと笑いが込み上げる。
「悪くないな。」
満足げに口角を上げる悪魔が僕をベッドに縫いとめる。
左手だけで器用に夜着を肌蹴ていきながら、右手を僕の目の前に差し出す。
「こちらも・・・。」
手袋を、手首に指を入れて脱がせていくと、外気に晒される事の少ない肌が現れる。
色を感じさせる光景だ。
「お気に召したのでしたら、この香水に名前を付けて下さいますか?」
月に忠誠を誓う執事の姿を思い出し、僕はこの香りの名前を思いついた。
「そうだな、洒落すぎているが、“月の船”ではどうだ?」
僕は、全ての願いが叶えられたその時、月に攫われる。
そして、魂を喰らわせるのだ。
「良い名前ですね。その名を頂きましょう。」
もう既に僕は香りしか身に纏っていない。
両腕をヤツの首の後ろに巻きつけて引き寄せ、耳に口を寄せる。
「存分に喰らうがいい。」
カーテンの隙間からは、頂点を下り始めた月の明かりが漏れ入って、
ベッドの近くまで届いていた。
「それでは、坊っちゃん・・・。」
夜明けまでは、まだ遠い。
END