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たままはなま
たままはなま
novelistID. 47362
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The Bird Is Mine(駒鳥 夜会編)

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The Bird Is Mine (駒鳥 夜会編)

私の名前を呼んで。
一夜限りのシンデレラ。



女王陛下の憂いを晴らすため、事件の捜査で潜り込んだ夜会。
身元を隠し、主催者に近付き易くするのに都合がいいように、
坊ちゃんに女装をさせる事になった。
坊ちゃんはマダム・レッドの姪、私はその家庭教師の役どころでの変装だ。
嫌がる坊ちゃんを宥めすかし、説き伏せて、
淑女としての立ち居振る舞いをみっちりと教えた上で、
愛らしくも危うい色香を漂わせるように身支度を整えた。
もともとが小柄であるし、少女と見紛う容姿のため、
よほど親しくしている者でなければ見破れそうにない変装が出来た。
マダム・レッドによると、今夜のターゲットであるドルイット子爵は、
とにかく守備範囲が非常に広いのだそうで、
やはり女装の方が好都合であろうとの話になった。
「伯爵に手を出すのは犯罪じゃないかなぁ。」
劉様は、そう言っていつもの軽さで笑っている。

それでは、私は大変な犯罪者ということになると、クスリと笑った。
毎晩のように、掌を、あの吸い付くような白い肌に這わせ、
この指で、内側から、蕩けるほどに体温を上げさせて、
あの人の中に侵入し、色の濃い声で囀らせているのだ。
二人共が満足するまで、悦楽の海にたゆたい、溺れる。
そして、真っ白な世界へと連れ立って行く。
あの人は、私のもの。
本来なら、肩も露なドレスを着せて人目に晒すなど持っての外だが、
まあ、今回は、いたしかたないと大目に見ておく。
それにしても、コルセットで整えたくびれに、まったく違和感がない。
これでは、ターゲット以外にも注意をしておかなくてはならない。
自覚がないものだから、困ってしまう。
本当に、私の坊ちゃんときたら・・・。

挨拶をする振りをして子爵に近付くつもりが、
坊ちゃんの婚約者であるエリザベス様と言う難敵の登場で、予定が狂った。
エリザベス様から身を隠すべく、バルコニーに逃れたところで、
広間がダンスフロアに変わってしまったのだった。
こうなれば仕方がない、エリザベス様に追われずに子爵に辿り着くには、
ダンスに紛れて、フロアを突っ切る以外にはない。
「教えた通り出来ますね。」
そう言って坊ちゃんを促し、手を引こうとする。
「公の場で僕に踊れというのか!?執事(おまえ)と!?」
坊ちゃんが、身体を反らせて抵抗した。
私は、坊ちゃんの方に向き直り、距離を詰める。
「お忘れですか?私は、今は、あくまで家庭教師ですから、
今宵だけは、公の場でお嬢様とダンスを許される身分なのです。
執事(使用人)としてではなく、上流階級出身の、教師としてね。」
変装の設定を失念してしまっていたらしい坊ちゃん。
「そ・・・、そうだった・・・。」

「他のペアにぶつからないようリードします。参りましょう。」
曲目は、ワルツ。
坊ちゃんの手を取り、背をしっかりとホールドする。
身長差のため、私の肩に手を置くことの出来ない坊ちゃんの左手は、
私の右腕、肘の少し上辺りに添えられている。
この人は、本当に小柄な人なのだ。
坊ちゃんに言わせれば、私の背が高過ぎるらしいのだが。
身体が密着すると、
変装の仕上げにマダム・レッドが付けた鈴蘭のコロンが、
坊ちゃんの脈に合わせて、首筋からふわりと漂う。
可憐な花だが、全草、特にその花と根には強い毒を多く持つ危険な花。
花言葉に“意識しない美しさ”というのもあって、坊ちゃんにはうってつけだ。
マダム・レッドの絶妙なチョイスに唸る。
「曲をよく聴いて。
曲に合わせてステップを踏んでくれれば私がカバーします。」
ダンスフロアへと踏み出してゆく。
「もう二度としないからな!女の踊りなど!」
坊ちゃんは、羞恥で顔を真っ赤にしている。
伏目がちになる潤んだような目元が、心をくすぐる。
「ええ、こんな事は今夜限りですよ。」
私は、そんな坊ちゃんを見て、クスリと笑う。
本当は、このまま連れて帰りたいくらいだが。

右へ一歩、左へ一歩、ナチュラルターン。
坊ちゃんが必死にステップを踏んでいる。
あれ程、にこやかにと言い聞かせたのに、引きつりぎみの顔。
公衆の面前で坊ちゃんと踊る事が出来るのは、多分、今夜限り。
最初で最後のダンスだというのに、
私のパートナーは、そんな事には気付いてもいないのだろう。
ミッドナイトブルーの髪を揺らし、ドレスの裾をひるがえしながら、
ステップを口の中でぶつぶつと唱えている。
そんな姿も、愉しくはあるのだけれど・・・。
一夜限りのシンデレラは、まだまだ、こういう感覚に疎いのだと苦笑を零す。

いよいよ、エリザベス様の目の前を横切らなければならない。
「そのまま前へ。突っ切りますよ。」
ターンのタイミングで、私の背中に坊ちゃんの顔を隠して、
なんとかエリザベス様の視線をかわした。
後少しで、辿り着く。

タンッ。
楽しげにダンスに興じる人々の波から抜け出し、坊ちゃんはやっと対岸に着いた。
日ごろの運動不足がたたるのか、もうすぐ13歳とは思えない体力の無さで、
床に膝を着き、息も絶え絶えの有様の坊ちゃんは、
「やっと着いた・・・!!!」
の一言でさえも、声にはなっていない。
「だらしないですね、これしきの事で。」
もう少し体力を付けさせなければいけないと呆れてしまった。
ヨロヨロと立ち上がる坊ちゃんに手を貸す。
「今、水を ・・。」
言い掛けたところで、すぐ傍からパチパチと拍手が聞こえた。
「素晴らしい。
駒鳥のように可愛らしいダンスでしたよ、お嬢さん。」
ドルイット子爵が向こうから声を掛けて来た。
「お嬢様、私は何かお飲み物を。」
私は、その場をスッと離れる。
坊ちゃんの瞳に、小さな不安が一瞬宿った。
私が目で頷くと、坊ちゃんはドルイット子爵に相対した。

坊ちゃんは、手の甲に子爵からの挨拶のキスを受けて鳥肌立っている。
質問に答えながら、ドレスで手を拭いているのが見えた。
気持ちは分かるけれど、それはどうかと溜息が出た。
コケティッシュな笑みで坊ちゃんが誘うと、彼はあっさりと乗ってきた。
まだあどけなさを残す少女に食指を動かすとは、本当に守備範囲が広い。
坊ちゃんに溺れている私が言う事ではないかも知れないが。

腰をなぞられ、背中から近寄られて、
小刻みに震えながら鳥肌をたてる坊ちゃん。
顎を掬い、顔を近づける子爵に冷や汗をかきながら話を進めていく。
内心、全てが終われば始末してやるくらいに思っているだろう事は、
こめかみに浮かぶ筋を見れば、想像に難くない。
私のものにやたらに触れればどうなるか、後で思い知ってもらうけれど、
坊ちゃんの様子は面白くて、見ていて飽きない。
が、またしてもエリザベス様に目を付けられている。
ダンスが終われば、すぐさま坊ちゃん目指して真っ直ぐに駆けていってしまうだろう。
折角ここまで来たのに、ふいにされてはかなわない。
手軽に出来る足止めをするとしよう。

広間を駆けて来るエリザベス様の前に、大音響でクローゼットと共に登場する。
突然の事にざわつく会場。
「宴も酣(たけなわ)、お集まりの紳士淑女の皆様に、
ここで一つ、このクローゼットを使った魔術(マジック)をご覧にいれましょう。」