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夏祭り

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夏祭り


部活を終えた帰り道、どこからか、笛の音が聞こえてきた。
お囃子の笛の音に誘われて、津野はいつもの通学路から横道に入った。この先には、地元の神社がある。
参道に近づくと、「奉納」と書かれた、たくさんの提灯が夜の境内を照らしている。道の両脇には、わたあめ、子供用のお面、ヨーヨー掬い等のカラフルな看板がずらりと並んでいた。それに、まっすぐ歩くこともままならない程の人の波。鮮やかな花模様の浴衣を着た女性も目立つ。
そっか、今日から神社のお祭りなのか。
毎日サッカーに明け暮れる津野は、クラスの友人と一緒に遊びに行く約束をしたわけでもなく、それどころか、祭りのことも忘れていた。
なるほど、どうりで部活の出席率が悪いわけだ・・・
今日は部員の半分しか練習に現れなかった。蕪双サッカー部は、もともと真面目に練習する部員は少ないので、気にも留めていなかったが。
賑やかさに誘われて参道を進む。ジャージやスパイクが入った大きなバッグがすれ違う人にぶつからないように気を遣いながら、金魚すくいに真剣な顔で挑む子供たちを見て、自分の小さかった頃を思い出した。
何度も膜を破りながら、夢中になって掬ったよなあ。
無邪気に遊ぶ子供たちを懐かしく思いながら眺めていると、どこからか名前を呼ばれた。
「津野!おーい」
声の主を探して見回すと、たこ焼き屋の裏側から西崎が手を振っている。
「あ、西崎」
近寄ると、西崎の他に松浦と、二人がよくつるんでいる男子生徒が数人でたむろしていた。それぞれ缶ビールを手にしている。
「二人とも、部活に来ないと思ったら・・・」
呆れた声で言うと、西崎からさらに呆れた声が返ってきた。
「こんな日に部活なんか行くわけないだろ。おまえは出たのかよ。真面目だなあ」
松浦も西崎も実力のある選手だが、普段からちょっと、というか、かなり素行が悪い。サッカー部員でなければ津野とは縁遠い人種だ。他に三人ほどいるが、面識はあっても彼らとは話したことはなかった。
彼らのほうも「津野?ああ、サッカー部の奴か」といった程度の認識しかしていない。
あまりよく知らない連中に囲まれて躊躇したが、西崎はお構いなしに津野を輪の中に引っ張り込んだ。それどころか
「おまえも呑めよ」
とビールを渡してくる。
「練習来ないで、こんなとこで堂々とビールなんか呑んでたのか」
この二人に効果はないと分かっていても、しかめっ面をして見せる。3年生の部員はいないので、2年だが津野が主将だった。
「おいおい説教なんかすんなよ。おまえ酒も呑んだことねえの?」
西崎にからかわれて、意地になった津野はビールを呷った。
呑みなれてはいないが、呑んだことがないわけではない。
「お、いい呑みっぷりだねえ」
呑んだら呑んだで、結局西崎にからかわれた。松浦はニヤニヤしながらビールを流し込む津野を眺めている。他の三人も、呑み始めた津野を見て警戒心が溶けたようだ。
「津野っていったっけ?煙草も吸う?」
おもむろにセブンスターを差し出され、どう返答したらよいか迷っていると、
「その辺にしといてやれよ。スポーツ選手は煙草なんか吸わねえぜ」
松浦が助け舟をだしてくれ、津野はほっとした。
そういう松浦は、愛用のラッキーストライクをうまそうにふかしている。まわりから、おまえもサッカー選手だろ、と突っ込まれ、笑いが起こった。
津野の目の前に突然、たこ焼きが現れた。
「部活帰りじゃ、腹が減ってんだろ?すきっ腹に酒呑むと酔いが回るぜ」
西崎が、津野のために買ってきてくれたようだ。
「あ、うん、ありがとう」
長身に赤い髪のリーゼントという派手な外見の西崎だが、親しくなるとこういった気遣いを見せる面がある。去年、津野が喧嘩で怪我を負い入院した時は、退屈しのぎにと漫画本をお見舞いに持ってきてくれた。友人思いのところがあるのだ。
焼きたてのたこ焼きをハフハフと頬張りながら、彼らのおしゃべりを聞いていた。内容はほとんど分からないが、他校の生徒の誰それが、とか、仲間の誰かの笑い話等が話題に上がっていた。時々「津野、顔が真っ赤だぜ」とちゃちゃを入れられる。酒のせいで赤くなっているらしい。慌てて顔に手をやると、頬が熱かった。
普段なら関わることもないであろう、彼らのような不良少年たちと、こうして談笑していることが、津野には不思議だった。自分から避けているわけではないが、見た目も性格も地味な自分と彼らが接触を持つ機会は少ない。
西崎が津野の肩をとんとんと叩いた。振り向くと、あーん、とばかりに口を開けている。たこ焼きを食わせろと言うのだろう。間抜けにもパカっと開けて待つ西崎の口に、たこ焼きをほおりこんでやると、まわりから笑いが起こった。
「西崎、それ津野に食わせるために買ったんだろ。自分が食ってどうする」
「いいだろ、津野がくれるって言うんだから」
西崎は口をもぐもぐさせながら、しれっと嘯いた。
「津野もよぉ、そんなにこいつを甘やかすことねぇぞ、彼女じゃあるまいし」
「おいおい、ちょっと可愛い顔してたって、男だせ?」
甘えていると言われた西崎が、抗議の声を上げる。
「か、かわいい?!」
自分のことを思いもよらない言葉で表現され、戸惑った。その慌てた様子を笑われる。
可愛い、と表現されたのは心外だが、たしかにこの中では自分が一番貧弱な体格だった。松浦、西崎は言うに及ばず、他の生徒たちも皆、しっかりした体つきをしている。腕っぷしが強くなければ、喧嘩も出来ないからだろうか。
津野は、身長は順調に伸びているが、彼らに比べればまだまだ子供っぽさが残っている。
可愛いと言われたことを恥じていると、松浦が言った。
「そう言うな。こいつは、これでも肝は据わってるぜ」
口の端でニヤリと笑い、津野の顔を見やる。その仕草や表情がとても男っぽく見えて、津野はさらに自分の未成熟さを恥じた。
「ああ、あの話のことか。おまえひとりで喧嘩吹っ掛けにいったんだろ?」
去年の、松浦の代わりに殴られたことのことだ。
「いや、喧嘩をしに行ったわけじゃあ・・・」
津野は慌てて否定した。あれは松浦に喧嘩を売るのをやめさせようとしたのだ。松浦に付きまとうのはやめて欲しいと説得にいったつもりが、結果は気を失うほど殴られ、挙句に刃物で脚を刺された。喧嘩にもならなかったのだ。松浦と西崎が助けに来てくれなければ、怪我はもっと重かったかもしれない。
「俺はボコボコにやられっぱなしで、何も出来なくて・・・」
話を訂正しようとする津野の言葉は、彼らの耳には入らないようで、「見かけによらず根性あるなあ」などと言い合っている。
人の話を聞かない連中に説明するのを、津野はとうとう諦めた。小さくため息をつく。
本当に何も出来なかった。あの時は夢中だったが、結果的には大怪我をして、周囲に迷惑をかけただけだった。松浦の素行は改善されず、相変わらず売られた喧嘩はいそいそと買っているらしい。
変わったことと言えば、松浦が練習に出てくるようになったことくらいだ。それも津野の説得が効いたわけではなく、津野の事件からしばらく経ってから「喧嘩に飽きたから」という理由で部活に復帰してきたのだ。
自分があんな無茶をしなくても、松浦はいずれ部活に戻ってきたのだろう、と津野は思った。
作品名:夏祭り 作家名:いせ