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ディオジョナ詰め

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あなたの幸せになりたいあなたの愛になりたいあなたの人差し指になりたいあなたの瞼になりたいあなたの心臓になりたいあなたのとなりにいたい(年の差兄弟でブラコンその1)




「何だそれは」
「何って?」
「そのセリフだ。いきなり何を言い出すかと思えば。」
「ああこれ?」

ジョジョは首を小さくかしげて笑った。わざわざ部屋を訪ねてきて、無言でディオのダブルベットを占領し、僕の陣地!とか何とかほざきながらクッションでバリケードを築きあげたジョナサンは枕の防空壕の前でディオと対峙していた。ディオといえば、ジョナサンのように暇なわけでもなく、大学での課題が山積みの上、教授から個別に任された仕事をいくつかこなさなければならないしで、正直最近寝る暇もないほど忙しい。遊ぶことが仕事のような中学生と一緒に時間を浪費している場合ではない。小学生気分がまだ抜けきらないのか、ジョナサンは中学に上がってもよくこうしてディオの部屋に、論文や課題の邪魔をしに来た。好奇心で輝く二つの目がディオの課題をのぞき込み、あーだこーだと横やりを入れてくるのだから、ディオにしてみればたまったものではない。叱りつけても怒鳴りつけても、ちっともジョナサンはあきらめないので、最近は好きなようにさせていた。まさに諦めの境地というやつである。なんだかんだでこうしてなついてくる弟が可愛くないわけがなく、ついついかまってしまう自分も自分だという自覚があったので、差し迫ったものがあるときはできるだけ学校で片づけるよう心がけていた。今回は例外だが。

「今度の学園祭のクラスの出し物でね、僕が言うセリフなんだよ。」

ディオはジョナサンが枕の隙間から差し出してきた薄い冊子を受け取り、パラパラとその中身をみた。題名は『ロージェンヌ』ロミオとジュリエットを下敷きにドラゴンや騎士、魔女などが出てくる中世ファンタジーを盛り込んだ、まあ、ありきたりなおとぎ話だった。美しき愛の物語、と副題が付いているのに、反吐が出そうだと顔をしかめて、ディオはジョナサンのセリフの位置を確認した。まだまだへたくそな癖字で、それぞれの役名の傍らに名前が連ねてある。ジョナサン・ジョースターの名前は、アーマルド・トライエス(騎士)と書かれた行書体の横に赤ペンで書かれていた。彼は姫君に思いを寄せる厳粛な騎士であり、愛のため、友のために命をささげる何とも哀れな脇役だった。ディオはもともと寄っていた眉をさらに寄せて枕に埋もれるジョナサンをみた。彼は大きなクッションを二つ抱えてベットに寝転がっていたので、ディオはベットから突き出していた彼の踝を見つめながら口を開く羽目になった。

「お前、自分からこの役を選んだのか?」
「そうだよ」
「なんでまた、こんな哀れっぽい役なんだ。愛のために死ぬなんて馬鹿らしい。反吐が出そうだ。」
「そうかな?僕、彼の『この剣もわが身も、既に主にささげている!』っていうところ、結構好きなんだけどな」
「お前の趣味は俺には理解できない。」

ディオがそういえば、つきだした足を引っこめてジョナサンはベットの上でころころしながらずいぶん楽しそうに笑いだした。高校時代のディオをさして、ディオの趣味だっておかしいじゃない!と声をあげるが、あれは不可抗力であったので(最後はずいぶんのっていたが)俺の趣味とは違う、とディオは何度か言い訳をしている。その役の話は割愛するが、ジョナサンが思い出し笑いに肩を震わせているのはずいぶん奇抜な恰好をしていたからだろう。中性的な容姿ということもあり、女装させられたのも一度や二度ではないディオである。今更社会の窓が全開だろうが、体中にハートマークをつけていようが、一枚服を脱いだら背中が全開であろうがなんてことないのである。むしろちょっといいかも、なんて思った自分がいたりいなかったりなディオだったが、ジョナサンにしてみればその姿はとんでもなく異様に映ったらしく、最初は散々怖がられ泣かれ、慣れてきたころには腹をよじって笑われた。五年も六年も昔の話だが。

「僕頑張るから、見に来てね!」
「暇だったらな。」
「うん!」

そういってジョナサンが笑うので、ディオは課題とかもうどうでもいいんじゃないかなとちょっと思い始めていた。教授に頼まれたものだとか、レポートだとか、別に今こんなふうに詰めてやらなくても、明日だって、明後日だってできるのだし、それよりもこの弟を全力で構い倒したい、とそんなことに頭が持って行かれ始めたので、ディオはジョナサンの「お姫様のキスは緊張するけど」なんて発言に少々反応が遅れてしまったのだった。

「え?」
「キスされるんだ。お姫様に。死んだ騎士を憐れんでね。僕がするわけじゃないんだけど、やっぱりちょっと緊張するな。」

そういってシーツとクッションの海の中に潜り込んだ、まだ変声期も向かえない少年は過保護な兄に最後の爆弾を投下した。え、と呆けた顔をするディオを見つめてしてやったりとばかりにジョナサンは笑う。当初はそんな予定はなかったのだけれど、姫から騎士に何もないのではあまりにもかわいそうだ、ということで、監督的立場の人が急遽追加したものなのだ。
あんぐりと口を開けた間抜けな兄の顔を見つめ返しながらジョジョは心の中で舌を出した。
(キスって言っても額なんだけどね)
最近どんなに声をかけても、この兄は忙しい忙しいと言うばかりでちっとも構ってくれないので、ちょっとした意趣返しのつもりだった。こちらに言わせてみれば、かまってくれない兄の方がどうかしてるので、悪いのは自分ではなくあくまでもディオだとジョジョは考えている。隈の張り付いた不健康なディオの顔が、一気に驚愕にかわっていくのを見つめながら、大学なんてやめてしまって、一生自分のそばだけにいてくれたらいいのに、なんて馬鹿げた妄想を心の中で広げてみる。兄を困らせるとわかっているので口に出したりはしないけれど。

「馬鹿!今すぐそんな役は降りろ!」

虚しいディオの絶叫は結局のところ、へそを曲げたジョナサンの心までは届かないのである。まる。





(かまってほしいジョナサン)


作品名:ディオジョナ詰め 作家名:poco