ディオジョナ詰め
妄想・虚言・愛を囁くその女(ディオと女ナサンで義兄弟)
正直な所を話すなら、ディオは別に女に固執しているわけではない。年齢が年齢だけに、性というものに興味を持ち始める年ごろなので、回りはそんな話ばかり繰り広げるが、ディオは正直なところ辟易としていた。誰と誰が寝ただの、あの女子の胸がどうだ、顔がどうだだの、はっきり言って興味はない。つまりは体の相性の話だ、そんなことをぽつりと漏らせば甚く同性から感激されたのも懐かしくない。ああ、めんどくさい。
何度か女と関係の持ったことのあるディオではあるが、大して何と思ったわけではない。悪くはないがそれだけである。いつも心のどこかが飢えていて、慢性的な飢餓をディオは抱えていた。ディオにしてみれば、もはやそれは病気のようなものだった。
中学二年生の時、親族の結婚式に呼ばれたことがある。女と違って、男の正装はそこまで手間暇のかかるものではない。ワックスで撫でつけた髪をもてあそびながら待っていると、一歳年上の義姉は普段絶対しないだろう恰好でよたよたしながら歩いていた。ただでさえ高身長なのに、メイドの誰かがヒールを履かせたせいで、身長はほぼディオと同じくらいだった。義姉は申し訳なさそうに笑いながら、こんな格好、普段しないから慣れないよ、と苦笑している。ふんわりと広がるワンピースにはブラウンのレースで装飾が施されていて、その上で、ただでさえ細い腰をより強調して見せるように絞られたシルクのリボンが揺れている。義姉が来ているドレスはパーティドレスの中でも比較的控えめな部類だが、ディオが眉を寄せた理由はその胸部にある。華奢なレースとリボンで強調された胸囲は、義姉の年の割に豊満な胸を随分魅力的に見せていた。ディオは溜息をつきたくなった。本当にめんどくさい。
義姉もディオにも決まった相手がいないので、パーティに出席する時、パートナーを務めるのは大体お互いだった。別に嫌というわけではないが、まるで害虫を集める光にように義姉は男を集めてしまうので、その処理をするのが本当に面倒なだけだ。あちらこちらで手をひかれ、キスを送られ、賛美の言葉を投げかけられて頬を赤く染める義姉を回収するのは、いつだってディオの役目だった。
大概どんくさく、間抜けで、どうしようもないお人よしな義姉のこと、眼を放せばどこぞに連れて行かれパクリと美味しく頂かれてそれでおしまいだろうなんてことが本当に目に見えているので、ディオは嫌々ながらも害虫駆除の役目を担っていた。別に、今更義姉がどこでどんなふうにされようが知ったことではないが、自分の与り知らないところで、自分の与り知らない奴に汚されるところを想像すると、何ともいけすかない気持ちになるので、仕方がない。
「きっと幸せなんだろうね。結婚して、子供を産んでさ。」
パーティー会場に向かう行きのタクシーの中で、義姉はそういってほほ笑んだ。その言葉にディオは目を丸くして、そういえばこんなふうだが義姉は女だったと、今更ながらに思うディオである。そういうのに憧れるのってやっぱり、女性特有のものなのかなぁ、なんてことをぼやき肩をすくめる彼女を見つめながら、その時唐突に、ディオは義姉のすべてを暴いてみたいと思いついたのだった。
そのブラウンのレースを破りとり、ヒールを叩き折って、それからそれから。きっと涙を浮かべてゆがむ表情は、きっと自分の知っている何よりもこの飢えを満足させてくれるのだろうと、そんな確信めいた予感がした。六月の話である。
(ムラムラディオ)