Call Me Maybe
Call Me Maybe
虎徹さんには、以前から虎廃と呼ばれる非常にコアなファンがいた。
しかし、彼らはマニアックと言われるのを恐れ、
あまり表だってそれを公表する事はない人種だったのであるが、
このところ急激にその数を増やし、今やメジャーの地位を手に入れたようである。
アポロンメディアの系列会社からのバディヒーロー関連の商品、
他業種とのコラボ商品の売り上げを見ても、
ワイルドタイガーの売り上げの伸びが著しいのが分かる。
僕の分に関しては復帰前と変わらぬ売り上げを誇ってはいたが、
伸びしろの差というか、とにかく凄いパーセンテージで上昇しているのだ。
虎徹さんの魅力を理解してくれる人達が増えたのは喜ばしい事だったけれど、
アイパッチさえ外せば一般人にしか見えないと信じ込んでいるこの人を、
どうやって不逞の輩から守ればいいのか僕は悩む事になった。
とにかく、プライベートの時に一人にさせない事だ。
だれか信頼のおける人と一緒に居る様に手を回さないと。
何しろ、僕はメディア関係の仕事に駆り出される時間が多くて、
事務所では隣同士で事務処理をして、出動が掛かれば同じ現場に赴き、
朝食から、そう出来る時には夕食も二人で取って、
殆ど毎日をどちらかの家で過ごして一緒に出勤するのであっても、
虎徹さんと一緒に行動できる時間が少な過ぎるのだ。
アントニオさん達ヒーロー大人組との飲み会の時に僕が参加出来ない場合は、
ファイアーエンブレムさんかアントニオさんがそれとなく、お開きの時間を連絡してくれ、
僕は車か、ダブルチェイサーで虎徹さんを迎えに行ける。
パーティーなどに出席して、僕が迎えに行けそうになければ、
必ず誰か安心して任せられる人が彼を自宅まで送り届けてくれるのだ。
でも、一人で飲みに行ってしまったら・・・。
それだけでも危ないというのに、危機感を持たない彼は、
酔ってふわふわした意識のまま、一人で歩いて帰宅しようとしてしまうのであった。
狼の群れの中に自ら飛び込む子羊のように。
だから、僕はルールを作った。
「虎徹さん、一人で飲みに行くなとは言いませんが、
帰る時には、僕に電話をして下さい。絶対にですからね。」
「何でだよ。大の大人が、しかもヒーローが一人で帰れねぇとかねぇよ。」
虎徹さんはそう言って苦笑したのだが、ここは彼の身の安全と僕の安心の為にも譲れない。
「貴方は自分の身に関して、危機感が無さ過ぎます!
とにかく、何があっても一人で帰る時には僕に電話をして下さいね。約束ですよ!」
厳しく告げれば、納得していないという顔をした。
「僕に何かどうしても抜けられない仕事があって、僕自身が迎えに行けなくても、
必ず誰か確かな人を迎えに行かせますから。
だから、酔って一人でふらふら夜の街を帰るのだけは止めて下さい。」
僕は虎徹さんの体をギュッと抱きしめ、
どれだけ本気で言っているのかを分からせようとする。
「わぁかったよ、一人で帰らなけりゃいいんだな。」
「違います。僕に電話をして下さいって言っているでしょう!」
この人は、自分の事を全く分かっていないのだ。
サラサラとした焦げ茶色の髪、愛嬌のある少し垂れた目は以外に大きくて、
見る間に表情を変えていく琥珀の瞳は、時に金色に輝く。
鼻筋が通った彫の深い顔立ちをしていて、黙っていれば整っているのに、
彼は大げさに笑い、驚き、怒るので、それを気が付かれない事の方が多かった。
見せる為でなく、使うために鍛えられた彼の筋肉はしっかりとしていながらしなやかで、
オリエンタル系にしてはかなり高い部類の身長との対比によって、
着やせしてとても細く見えるのである。
特に、パンチを主体とする攻撃に必要な筋肉が蓄えられた上半身に比較して、
身体を支える腰から足に掛けてなどはそれなりには鍛えていても、驚異的に細い。
既成品の服では、彼には全くサイズが合わないくらいに。
あれほど高カロリーなマヨネーズを大量に摂取しているというのに、その細さは反則だ。
僕の方が背は5㎝高いのだが、彼の腰は僕と同じ位置にあり、つまり脚が長い。
そんな彼の外見から、初期からの虎廃は殊になのであるが、
新規の虎廃の方達も、彼を“そういう目”で見ているのであった。
これが、彼を酔って一人で帰らせたり出来ないと思う理由である。
虎徹さんを誰にも渡したくないと、今はこんなに大事にしている僕だが、
始めの頃の彼に対する扱いは、とても褒められたものではなかった。
何かというと反発し、彼の言葉に反論ばかりしていた。
しかし、今思えば、そういう態度を取った相手は、虎徹さんだけだ。
他の誰かに対しては、そんな失礼といえるような態度を取ったりしない僕が、
何故、彼にだけあからさまに不機嫌をぶつけ、嫌な顔をし、
敵対ともいえる様な言動を繰り返し続けたのか。
推測でしかないが、多分、僕は虎徹さんに出会った瞬間から、
この人に落ちていたのではないだろうか。
あの、プロトタイプのスーツ姿で旧スーツの彼を腕に抱き留めた一瞬に。
ヒーローとして10年選手のロートルと聞いていたのに、
オリエンタル系のマジックか、僕よりは年上程度にしか見えない相貌、
そしてモデルそこのけの均整の美しいスタイルである以上に、
彼の体温に、僕は心の中の鍵を回されてしまったのではないかと思う。
4才の頃に失くしてしまった筈のものを、彼が持っていたのだ。
僕は、虎徹さんに出会うまで、自分がとても寂しかったのだと知らなかった。
一人で生きているのだと思っていた。
復讐の為だけに生きているのだから、他の事に思い煩わされるくらいならば、
求められるままに振舞って、適当に遣り過せばいいと思っていたのだ。
必要だから、勉強も、体を鍛える事も、能力の制御も頑張った。
調査をする時間を一秒でも増やす為には、
体力を維持する最低限の栄養を摂れるなら、食事など何でも構わず、
誰かと食べるのは、必要に迫られた時以外にはなかったのだ。
けれど、彼が僕に教えてくれた。
人は、人と深く関わる事によって、色々な意味でより良く生きていけるのだという事を。
食事が、ただの栄養補給だけではない行為であると。
誰かが誰かの為を思って用意してくれたものは、
それがたとえ出来合いのものであっても、きちんとした生きる糧になるのだ。
一緒に食べる人がいるのは、心まで美味しさで満たして命の養分になる。
疑うのでなく、信じる事で新しい発見があり、先へと進めるのだ。
自分の事だけではなくて、誰かを助け護りたいと思う気持ちが、
より大きな力となって自分自身をも救うのだという事も初めて知った。
この人に会う前から、僕はこの人を待っていたのだ。
それまでの生き方を覆される事の恐怖を、本能の部分で感じて彼に反発したのだろう。
しかし、かの“正義の壊し屋”は、そんなものを簡単に打ち壊してしまった。
こんな稀有な人は他には居ない。
僕は、彼と知り合う前から、
虎徹さんという人と出会える未来を、ずっと待ち続けていたのだと思った。
もう二度と開ける事はないと思われた扉を開き、
閉じ込められていた僕を外へと連れ出してくれるこの人を、
どれほど待ち焦がれていたのか、知ってもらいたかった。
虎徹さんには、以前から虎廃と呼ばれる非常にコアなファンがいた。
しかし、彼らはマニアックと言われるのを恐れ、
あまり表だってそれを公表する事はない人種だったのであるが、
このところ急激にその数を増やし、今やメジャーの地位を手に入れたようである。
アポロンメディアの系列会社からのバディヒーロー関連の商品、
他業種とのコラボ商品の売り上げを見ても、
ワイルドタイガーの売り上げの伸びが著しいのが分かる。
僕の分に関しては復帰前と変わらぬ売り上げを誇ってはいたが、
伸びしろの差というか、とにかく凄いパーセンテージで上昇しているのだ。
虎徹さんの魅力を理解してくれる人達が増えたのは喜ばしい事だったけれど、
アイパッチさえ外せば一般人にしか見えないと信じ込んでいるこの人を、
どうやって不逞の輩から守ればいいのか僕は悩む事になった。
とにかく、プライベートの時に一人にさせない事だ。
だれか信頼のおける人と一緒に居る様に手を回さないと。
何しろ、僕はメディア関係の仕事に駆り出される時間が多くて、
事務所では隣同士で事務処理をして、出動が掛かれば同じ現場に赴き、
朝食から、そう出来る時には夕食も二人で取って、
殆ど毎日をどちらかの家で過ごして一緒に出勤するのであっても、
虎徹さんと一緒に行動できる時間が少な過ぎるのだ。
アントニオさん達ヒーロー大人組との飲み会の時に僕が参加出来ない場合は、
ファイアーエンブレムさんかアントニオさんがそれとなく、お開きの時間を連絡してくれ、
僕は車か、ダブルチェイサーで虎徹さんを迎えに行ける。
パーティーなどに出席して、僕が迎えに行けそうになければ、
必ず誰か安心して任せられる人が彼を自宅まで送り届けてくれるのだ。
でも、一人で飲みに行ってしまったら・・・。
それだけでも危ないというのに、危機感を持たない彼は、
酔ってふわふわした意識のまま、一人で歩いて帰宅しようとしてしまうのであった。
狼の群れの中に自ら飛び込む子羊のように。
だから、僕はルールを作った。
「虎徹さん、一人で飲みに行くなとは言いませんが、
帰る時には、僕に電話をして下さい。絶対にですからね。」
「何でだよ。大の大人が、しかもヒーローが一人で帰れねぇとかねぇよ。」
虎徹さんはそう言って苦笑したのだが、ここは彼の身の安全と僕の安心の為にも譲れない。
「貴方は自分の身に関して、危機感が無さ過ぎます!
とにかく、何があっても一人で帰る時には僕に電話をして下さいね。約束ですよ!」
厳しく告げれば、納得していないという顔をした。
「僕に何かどうしても抜けられない仕事があって、僕自身が迎えに行けなくても、
必ず誰か確かな人を迎えに行かせますから。
だから、酔って一人でふらふら夜の街を帰るのだけは止めて下さい。」
僕は虎徹さんの体をギュッと抱きしめ、
どれだけ本気で言っているのかを分からせようとする。
「わぁかったよ、一人で帰らなけりゃいいんだな。」
「違います。僕に電話をして下さいって言っているでしょう!」
この人は、自分の事を全く分かっていないのだ。
サラサラとした焦げ茶色の髪、愛嬌のある少し垂れた目は以外に大きくて、
見る間に表情を変えていく琥珀の瞳は、時に金色に輝く。
鼻筋が通った彫の深い顔立ちをしていて、黙っていれば整っているのに、
彼は大げさに笑い、驚き、怒るので、それを気が付かれない事の方が多かった。
見せる為でなく、使うために鍛えられた彼の筋肉はしっかりとしていながらしなやかで、
オリエンタル系にしてはかなり高い部類の身長との対比によって、
着やせしてとても細く見えるのである。
特に、パンチを主体とする攻撃に必要な筋肉が蓄えられた上半身に比較して、
身体を支える腰から足に掛けてなどはそれなりには鍛えていても、驚異的に細い。
既成品の服では、彼には全くサイズが合わないくらいに。
あれほど高カロリーなマヨネーズを大量に摂取しているというのに、その細さは反則だ。
僕の方が背は5㎝高いのだが、彼の腰は僕と同じ位置にあり、つまり脚が長い。
そんな彼の外見から、初期からの虎廃は殊になのであるが、
新規の虎廃の方達も、彼を“そういう目”で見ているのであった。
これが、彼を酔って一人で帰らせたり出来ないと思う理由である。
虎徹さんを誰にも渡したくないと、今はこんなに大事にしている僕だが、
始めの頃の彼に対する扱いは、とても褒められたものではなかった。
何かというと反発し、彼の言葉に反論ばかりしていた。
しかし、今思えば、そういう態度を取った相手は、虎徹さんだけだ。
他の誰かに対しては、そんな失礼といえるような態度を取ったりしない僕が、
何故、彼にだけあからさまに不機嫌をぶつけ、嫌な顔をし、
敵対ともいえる様な言動を繰り返し続けたのか。
推測でしかないが、多分、僕は虎徹さんに出会った瞬間から、
この人に落ちていたのではないだろうか。
あの、プロトタイプのスーツ姿で旧スーツの彼を腕に抱き留めた一瞬に。
ヒーローとして10年選手のロートルと聞いていたのに、
オリエンタル系のマジックか、僕よりは年上程度にしか見えない相貌、
そしてモデルそこのけの均整の美しいスタイルである以上に、
彼の体温に、僕は心の中の鍵を回されてしまったのではないかと思う。
4才の頃に失くしてしまった筈のものを、彼が持っていたのだ。
僕は、虎徹さんに出会うまで、自分がとても寂しかったのだと知らなかった。
一人で生きているのだと思っていた。
復讐の為だけに生きているのだから、他の事に思い煩わされるくらいならば、
求められるままに振舞って、適当に遣り過せばいいと思っていたのだ。
必要だから、勉強も、体を鍛える事も、能力の制御も頑張った。
調査をする時間を一秒でも増やす為には、
体力を維持する最低限の栄養を摂れるなら、食事など何でも構わず、
誰かと食べるのは、必要に迫られた時以外にはなかったのだ。
けれど、彼が僕に教えてくれた。
人は、人と深く関わる事によって、色々な意味でより良く生きていけるのだという事を。
食事が、ただの栄養補給だけではない行為であると。
誰かが誰かの為を思って用意してくれたものは、
それがたとえ出来合いのものであっても、きちんとした生きる糧になるのだ。
一緒に食べる人がいるのは、心まで美味しさで満たして命の養分になる。
疑うのでなく、信じる事で新しい発見があり、先へと進めるのだ。
自分の事だけではなくて、誰かを助け護りたいと思う気持ちが、
より大きな力となって自分自身をも救うのだという事も初めて知った。
この人に会う前から、僕はこの人を待っていたのだ。
それまでの生き方を覆される事の恐怖を、本能の部分で感じて彼に反発したのだろう。
しかし、かの“正義の壊し屋”は、そんなものを簡単に打ち壊してしまった。
こんな稀有な人は他には居ない。
僕は、彼と知り合う前から、
虎徹さんという人と出会える未来を、ずっと待ち続けていたのだと思った。
もう二度と開ける事はないと思われた扉を開き、
閉じ込められていた僕を外へと連れ出してくれるこの人を、
どれほど待ち焦がれていたのか、知ってもらいたかった。
作品名:Call Me Maybe 作家名:たままはなま