二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

FATE×Dies Irae3話―1

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
「……どういうことです、士郎?」
 決まり悪く切り出した士郎に対し、セイバーの反応は半ば予想通りのものだった。
一夜明けた翌日。日曜の昼下がり。
 居間の座卓をはさんで向かい合うセイバーは、柳眉を逆立て、鋭く士郎を問い詰める。
「外出自体は構いません。その目的が、聖杯戦争と何のかかわりのないものであることも良しとしましょう。ですが、なぜ私の同行を拒否されるのか? 納得いく説明を要求します」
「だから、学校に行くのにセイバーを同伴させるわけにはいかないじゃないか!」
「ですから、その理由を訊いているのです」
「どうしても何も、目立ち過ぎるだろ! それに、部外者は学校に入れないんだ」
「なるほど。確かに、実体化したサーバントと連れだって外を出歩いていては、自身がマスターであることを喧伝して回るようなものですね」
 得心の気配を見せるセイバー。
 士郎としては単に人目をひくのが恥ずかしいだけで、別にそういうことを気にしていたわけではなかったのだが、この際納得してくれるのなら何でもいい。
「そうそう。だから――」
「ですがその点はご安心を。ある程度距離を置いて控えていればいいだけの話です。そうすれば、士郎が私のマスターであると特定される危険性はありません。無論、いざという時はすぐに駆けつけられるよう、互いの距離には細心の注意を払います。学校への侵入、および潜伏も、サーバントの技量をもってすれば造作もありません」
「いや、しかしだな。それじゃあセイバーが丸半日待ちぼうけじゃないか。だいたい昨日の怪我だってまだ治ってないんだろ? そんな状態で出歩くなんて――」
「問題ありません。仰るとおりまだ完治には至っていませんが、戦闘行為に支障はありません。バーサーカーは別格として、それ以外のサーバントを相手になら、遅れをとらない程度には戦えます」
「でも――」
「士郎。私はサーバントです。道具に過ぎません。そのような気遣いは無用です」
 カチン。
 セイバーの言い草に、士郎はむっと眉をしかめた。
「セイバーは道具なんかじゃない! どんなに強くったって、一人の女の子じゃないか! 気遣うのは当然だろ!」
「なっ……!?」
 ぴしゃりと言い放たれた士郎の発言に、セイバーは虚を突かれたように絶句する。
 だが、それも数瞬。
「……戯言を。発言の撤回を要求します、士郎。私は騎士だ。それを、そこらのかよわき手弱女と同列に扱おうなど度し難い侮辱だ。いかにマスターといえど、かような妄言は聞き捨てなりません」
 端麗な相貌に冷ややかな怒気を漲らせるセイバー。
 しかし、士郎も譲らない。
「いいや、これだけは譲れない。騎士だろうが英霊だろうが、セイバーが女の子であることは変わらないじゃないか! それを道具扱いなんて、俺にはできない!」
「――――」
「――――」
 互いに眦を吊り上げて、不退転の形相で睨みあう。


「おいおい、何だお前ら? 痴話ゲンカか?」


 からかうように。面白がるように。
 そこに第三の声が割って入った。
「司狼」
「遊佐司狼」
 遊佐司狼は手に持った牛乳パックの中身を豪快に呷り、寝起きでぼさぼさの頭を掻き回しながら座卓につく。
「ちょうどいいところに来た。お前からも何か言ってやってくれ」
「そうですね。あなたからも士郎に言ってください」
 士郎とセイバーは互いに助け舟を求めて、口ぐちにこれまでの経緯を説明する。
「ふーん、なるほどね。まあ何だ。とりあえず騎士だ女だ、そういう主義的な食い違いは置いとくとしてだ。セイバー残して学校に行くっていうのは俺も反対」
「司狼!」
「落ちつけよ。当然だろ? 命狙われてるっていうのに、護衛もつけずにのこのこ外をぶらつく馬鹿がどこにいるよ? 少なくともお前がマスターだってことはランサーの陣営には露見してんだぜ。わざわざ目撃者を始末しようとしてた辺り、連中が直接真昼間から仕掛けてくるこたあまずないだろうが、他の奴らまでそうだとは限らねえ。中にはお前みたいなイレギュラーなマスターもいるかもしれねえし、そういうのが魔術師の作法なんざ知ってるわけねえだろうが。もし罷り間違って、そんなのにお前のことがバレたらどうなる? あり得ない話じゃねえぜ。何せ、すでにお前の正体は漏れてるんだからな」
「でも、セイバーはまだ――!」
「万全には程遠い、か? アホくせ。いいか? ゲームじゃねえんだ。現実の戦じゃ、万全なんてなあ夢物語なんだよ。むしろ不備があるのが常態だ。なのに、んなことを理由に最善手をためらってたんじゃキリがねえよ」
「そのとおりです士郎。それに学校には凛がいます。アーチャーと共闘すれば、先の繰り返しになりますがバーサーカー以外に遅れをとることなどあり得ません」
「! そうだ! 学校には遠坂だっているんだ! だったらわざわざセイバーを同伴しなくても――!」
「戦力が多いに越したこたあねえさ。それに同盟を結んでいるといっても、当然アーチャーは、いざとなりゃ自分のマスターを優先するぜ。まあそれでも、令呪でセイバーを呼び出すくらいの時間は稼げるだろうが、令呪っていうのはサーバントの自由意志を捩じ曲げるだけじゃなくて、能力を補助するのにも使えるんだろ? いたずらに消費するのは得策じゃねえと思うけど」
 反論の隙を見出せず、言葉を失う士郎。
 理路整然と並べたてられる正論の数々に、ぐうの音も出せない。
「大体セイバーをこの屋敷に置いてったとしてだ。もし敵にここを襲われたらどうする気だ? お前にとっちゃ、それこそ最悪だろうが」
 それはとどめの一言だった。
 士郎は深々と溜息をつき、
「分かった。確かにお前の言うとおりだ、司狼。俺の負けだよ、降参だ」
「分かっていただけて幸いです、士郎」
 我が意を得たりと頷くセイバー。
 とはいえ――と、士郎は心中で頭を抱える。
 セイバーの同伴。これはもう仕方がない。
 問題は、自分が学業に励んでいる間、彼女をどこでどう待たせておくかだが……。
「さて、そうと決まれば早速仕込みをおっぱじめねえとな」
 にやにやと、何やらはしゃいだ様子で、意味深につぶやく司狼。
「仕込み?」
 司狼は「ああ」と頷き、
「察するにお前、授業中のセイバーの処遇に困ってるんだろ? だったら任せろよ。俺に妙案がある」
 必死に笑みを噛み殺しながら、自信たっぷりに請け負う司狼。
 なぜだろう。
 ひどく嫌な予感しかしなかった。



◆◆◆



 翌朝。
「はあ……」
 教室の自席に腰を落ちつけるや、士郎はぐったりと溜息をついた。
 今日は朝から大変だった。
 凛の下宿をめぐる、桜、大河との一悶着。
 桜の朝練をめぐる、慎二との衝突。
 まだ一日が始まったばかりだと言うのに、何だか妙に疲れてしまった。
 もっとも、疲労の理由はそれだけではない。
(……にしても、司狼とセイバーはどこに行ったんだ?)
 凛同様、司狼もまた、しばらくは衛宮邸に逗留することになったわけだが、その彼の姿が、セイバーともども朝からどこにも見られないのだ。
『また後でな』
 たったそれだけの書き置きを残して。
(……嫌な予感がする)
 ものすごく心配だった。
 二人の安否が、ではない。
作品名:FATE×Dies Irae3話―1 作家名:真砂