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Misconfiguration

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「やりなさい」
 ギルドマスターのメディックが出した短い指示に、俺は耳を疑った。俺の目
の前にいるのは、ついさっき俺に対して核熱の術式を放った相手だ。二度目の
それを受ける前に、相手を黙らせろってのは間違ってない。けど! ていうか
アンタ、リフレッシュもうないのかよ! いくらバステだからって、うちのア
ルケミスト相手にいくらなんでもそれはないでしょ;;;
「カイ」
 問い返すまもなく、メディックは俺の名を呼ぶ。異議を唱えることを許さな
いきつい口調だった。
 アルケミストの篭手が淡く光っているのを見て取り、俺は腹を括った。だめだ、
相談するヒマなんかない。二発目を受けるなんて、確実に葉っぱだ。
 重心を低くし、斧の先を下げて、相手の隙を探った。って、隙ってほぼ全部;;;
「行きなさい」
 メディックの声にはじかれるように、俺は前へと踏み出す。ああもう、どこ
でもいい! とにかく、ゴメン>< !!
 そうやって振り下ろした戦斧は、見事彼の肩口を破壊する。さらにはそのま
ま方向を変え、わき腹にも入る。見事なまでの、ダブルアタック発動! 今じゃ
なかったら大喜びするとこTT



 まさに悲鳴を上げるまもなくという状況で、アルケミストは倒れた。ほんの
一瞬、噴水みたいに血がふきだし、俺の視界を覆う。
「あ……」
 腹を括ったはずだった。けど、実際の結果を見たとたん、膝が震えた。思い
のほか細い身体が、大量の血をふきだしながら、力なく地面に横たわる。その
姿は、まるで誰かが壊してしまった人形みたいで。あとからあとから降り積も
る桜の花びらは、まるでそんな間違いを覆い隠そうとしているようにも見えた。
「よくやりました」
 静かな声とともにポンと肩をたたかれて、俺は地面にへたりこんだ。
「もうしわけありませんが、もう一仕事です。アリアドネの糸をお願いします」
 他の仲間――パラディンとガンナーにそれぞれ合図をしながら、メディック
がそう指示をする。慌てて俺は、ものいれのなかから、未開封の糸を取り出した。
「ありがとうございます」
 目の前では、パラディンがぐったりしたアルケミストを抱えあげている。彼は、
メディックに対して、難しい顔で首を横にふっていた。う……;;;
 俺は、メディックに促されるままに、皆のもとへと近づいた。 メディックが
糸の封を切る。次の瞬間、俺たちはハイ・ラガードの街へと戻っていた。



 そのまま大急ぎで、薬泉院へとアルケミストをかつぎこむ。血相を変えた大
ボスが彼を治療室へと連れて行くのを見て、これで一安心、そう思って帰ろう
としたところ俺も呼び止められた。気が張っていたせいで気づかなかっただけ
で、俺自身も結構なダメージを受けていたらしい。……あたりまえか。だよなー
……ふりむきざまに核熱の術式をくらったんだもんなー。ノーダメージって言
うなら、今頃世界樹のてっぺんは俺一人のもの♪になってる。
 まぁ、それでも。渾身のダブルアタックを食らって意識不明と、まがりなり
にも自分の足で歩いてるのでは、どっちのダメージが大きいのかは一目瞭然だ。
……鍛え方の違いって言ったらしばかれるかな。混乱状態だから微妙に外れて
たんだって言っといた方がいいと思うので、そうしとこう。
 そんなわけで、俺が解放されたのは夕刻、アルケミストが帰ってきたのは夜
遅くだった。
 迷惑をかけてすまなかった、と。いつものアルケミストらしくなく殊勝に頭
をさげる姿に、俺は安堵となんだか胸の痛みなんてのを感じていた。……アル
ケミストって言ったら、糸を取られた、物を落とした、道に迷ったと、何かし
でかすたびに人を家畜呼ばわりで容赦なく蹴りをいれてくるよーなヤツなんだ。
そうじゃない姿は、なんか落ち着かない↓
 翌日も翌々日も、俺たちは普通に世界樹に入った。メンバーこそ、それなり
に違ってたけど、俺もアルケミストもいつも以上に探索を控えたりはしなかっ
た。でも、一緒に世界樹に入った時でも、アルケミストの容赦ない怒鳴り声を
聞くこともなかった。まぁ、単純に俺が何もしでかさなかったってそれだけな
んだけど。
 聞かないにこしたことはない。だけど、なんだか落ち着かない気分が強くなっ
ていって。アルケミストが参加しなかった探索の帰り、俺が交易所の女の子に
ちょっとした相談を持ちかけたのは、そのせいだった。
 夕刻にはなっていたから、種類はなかったけど。彼女のアドバイスで手に入
れた甘いものを手に宿に戻ってくることができた。わざわざ部屋に尋ねていか
なくても、アルケミストが見つかったのは、多分、日ごろの行いなんじゃない
かと思った。
「何の用だ」
 呼び止めたはいいけど言葉に詰まる俺に対し、アルケミストは少し不機嫌な
声でそう尋ねた。
「ええと、その」
 世界樹に入る時よりは、ちょっとだけラフな服装の彼は、ああとかううとか
くりかえす俺に対して、眉を寄せる。あ、違う。まずい、怒る;;;;;;
 勢いのままに声をかけたはいいけど、よく考えてみたら、俺は彼とほとんど
話したことがない。いや、世界樹の中ではよく怒鳴られてるけど。それ以外っ
て言ったら、今日はいい天気ですねから始まるような話だってほとんどしたこ
とがない↓
「こ、これ! //////」
 うあ>< !! なんかいきなりすぎる>< なんか、すごい不思議そうな顔さ
れてるし!o >< o o >< o まずい、ものすごい恥ずかしくなってきた/// い、
いつもの罵詈雑言が聞きたいんだ、とかそんな?
 ……あ、落ち着いた。ないわ。ぜんぜんない。うん、確かに様子違うとか、
そういうのはあったけど;;;
 ……あれ? てことは、何で俺、こんなことしてるんだ? ;;; ええと、いや、
だって怒鳴られないのはいいことで、だったら今のアルケミストがいいんじゃ
ないか? ;;;
 とはいっても、やっぱなしって取り返すよーなものじゃない。俺は、ちょっ
と落ち着いて、アルケミストに、小さな包みを受け取るよう促した。
 不思議そうな表情のまま、アルケミストは菓子入りの包みをうけとった。
「あけてもいいのか?」
「もちろん♪」
 アルケミストは、包みを解きそっと中をのぞきこむ。ええと、アルケミスト
が見境の無い甘党なのは確かとはいっても、喜んでくれるといいんだけど///
 ……あ。
 不意に、表情が柔らかくなった。ほんの少し頬が上気して、ほんの少し口元
が弧を描く。これは、喜んでくれたと思って、いいの、かな。いいんだよな↑
「どういう風の吹きまわしだ」
 相変わらずのぶすっくれた声だけど、ちょっとだけ嬉しそうと思うのは、思
い込みかな♪
 だけど、そんななんか嬉しい気持ちは、彼の首のあたりに真新しい傷跡を見
つけたことで吹き飛んだ。
「それ……」
 震える指先で、ゆびさす俺に対し、アルケミストは怪訝そうに首をかしげた。
そして、視線の先にてのひらをはわせ、やっと納得した顔でうなずく。
「ああ。この前は、迷惑をかけたな」
「――っ!」
 冒険者なんてやってたら、傷跡の一つ二つ増えるのは当たり前だ。だけど、
それが自分がつけた傷跡で、相手が仲間だとすれば話は違ってくる。
「……ゴメン」
作品名:Misconfiguration 作家名:東明