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たままはなま
たままはなま
novelistID. 47362
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Fall 2

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Fall 2



甘く見ていたつもりはない。
面白くなりそうなゲームに対しての高揚感があったのは否めないが、そのくらいの事でこの私がミスを犯すなど考えられない事態である。想定外だったのだ。対暗殺部隊の構成メンバーの誰もが、桁違いのレベルを持っていた事が。



広いバンケットルームの中を、人の間を流れる様に移動しながら、今回のターゲットである大物女優の姿を見逃さないよう気をつけていた。
何故、女優という職業の彼女が標的とされたのかといえば、知識人、文化人としての側面も持っている彼女は、その幅広い交友関係ゆえに、先だってのある発言によって政治的、経済的効果が生み出され、ひいては、私が所属している国家にも少なからぬ影響を与えてしまったからだ。
巨大な企業の業績がほんの数パーセント下がっても、国家に収められる税金や獲得される外貨に大きく影を落とすものである。それは、企業が大きければ大きいほど、陰も大きくなることを意味する。今後の事を考慮し、既に高齢の域に達している彼女ではあるが、これ以上の被害を被りたくはない為、早めに神の元に還ってもらおうというわけだ。
私に言わせれば、“神”などというのはろくでもない存在である事が多いけれど。
既に齢80を超える彼女ではあったが、非常に精力的に仕事をこなし、映画はもちろん、テレビの仕事もドラマからバラエティーまで何にでも出演して、その芸域の幅の広さを遺憾なく発揮している。
私生活では、新しい才能のスポンサードと育成に力を入れ、海外旅行を楽しみ、スキューバダイビング、スカイダイビングを始めとする体を使っての趣味から、音楽、映画、舞台、絵画、小説の鑑賞などの文化的趣味、また、各種のボランティア活動にも熱心で細やかに取り組んでおり、とにかく少しの時間も惜しむように精力的に人生を謳歌しているのだ。
人脈はその趣味の幅の分だけ広く、ゴルフ仲間の経済・財界人をはじめとして、スポーツ選手からアイドルまで、一流の有名人だけにとどまらず、まだ世間に名を知られていないが、いずれ名を成すのであろう人物までを、“網羅している”と云っても過言ではない程なのだった。国家元首である女王とも知古の間柄といえば、その影響力の凄さが分かるだろう。
女優としてこの国の頂点に立つ人であり、世界的にも活躍の場を持つ人であるのに、彼女と言う人は全く飾らない生き方をし、進取の気質であらゆるものに興味を示し、試してみるその女優は、文字通り大人から子供にまで愛され、世間の耳目を一身に集め続けているのだった。
仕事と趣味の両方の為にトレーニングを欠かさず、食事にも気を遣って節制している彼女ではあるけれど、流石に年齢からくる体の不調が全くないというわけではない。70代後半の頃に心臓の冠動脈に狭窄が見つかり、ステントを入れる手術をしているのだ。彼女をごく自然に見せかけて天に帰するとするなら、そこが狙い目となる。

私が今回の方法として選んだのは、対暗殺部隊に三度目の阻止をされた時の毒物だった。
しかし、あの時の“死神”が使ったものとは違うタイプを選んだ。生息域の違う海洋生物から抽出されたその毒は、毒物名としては同じであるのに、効果は全く様相を異にするのである。まず、摂取してから発症までの潜伏時間が長い。早くても3時間、概ね12時間から36時間という検査結果が公表されている。これだけ時間を稼げれば、充分に現場から逃走してしまえるのだ。症状も大幅に相違がある。こちらは、筋肉が融解する事による激しい筋肉痛に始まり、融けた筋肉のタンパク質が尿として排出される際に腎臓に負担を掛け、それにより、腎障害を引き起こす。呼吸困難、歩行困難、胸部の圧迫、麻痺、痙攣、ショック状態などを呈することもある。人間にとって一番の重い症状は、心臓の冠状動脈に対して極度の収縮作用があるという事だ。心臓に爆弾を抱えている彼女にぴったりの死因を得られる可能性が高いのであった。この毒物は無味無臭で、体内にも残らず、死後の検出は、ほぼ見込めない。暗殺者にとってこれ以上なく最適な毒物が、何時の頃からか自然界に自発発生し、存在するのだ。しかも、人為的に大量合成をするのは非常に難しく、未だ成功していないのである。
自然界と言うのは、なんと面白いのだろう。
我が身を守る為に強毒を体内に創りだし、けれど、その身を喰らうものが居て、それは毒を蓄積するが死にはしない。なのに、毒が蓄積されたその身を他の生き物が摂取すれば死に至るのだ。そういった生死を分かつものの違いは、どこにあるのだろう。この世には、興味をそそられる事の何と多い事だろうか。今、私はまさに、生死を司る側にいる。“仕事”に招喚される度、こんな高揚感を味わうのだ。
人を死へと誘うのは、“神”ではなく私。
さて、そろそろパーティーも程よく賑わって来たようだし、
与えられたミッションを遂行するとしようか。



「伯爵、ターゲットが動きます。」
“メイド”から待ち兼ねていた一報が届いた。
僕は、バンケットルームのあちこちに、部屋の中がくまなく見られるように仕掛けられているカメラからの映像に目を凝らす。カメラの数だけ分割されている壁いっぱいのスクリーンの中に、要保護対象人物に近づく者が居た。その映像をクローズアップする。漆黒の髪、すらりとした背の高い青年。ウエイターの姿をしているが、彼はウエイターではない。この会場に導くべく罠を仕掛けた“死神”のメンバーの一人。これまでにも何度か対象者に近づいてはいたのだが、今回はやる気だと思えた。うちの“メイド”が、彼が「動く」と言っているのだ、確実に仕掛けてくる。
僕は“メイド”に指示を飛ばす。
「よし、やれ!」
「了解しました。」
さあ、ゲームのスタートだ。

バンケットルームの中央より少しバルコニー寄りの所に人だかりが出来ている。そこに、要保護対象人物である大物女優が居るのだ。彼女の周りは何時でも引っ切り無しに人々が取り巻いて話しかけていた。手にしたグラスは殆ど空に近くなっていて、狙うなら今だと言わんばかりだ。件のウエイター姿の青年が、トレーに飲み物を持って傍まで行き、彼女に声を掛ける。
「お飲物は如何ですか?」
にこやかな笑顔に答え、
「あら、ありがとう。ちょうど欲しかったところなの。」
手を伸ばしてグラスを持ち上げる寸前、すぐ脇にいた“メイド”が身を翻し、トレーごと飲み物をひっくりかえしてしまう。
「失礼いたしました!直ぐに拭く物をお持ち致します。」
彼は足早にその場を離れていった。
「申し訳ございません!私がうっかりしてしまいドレスを濡らしてしまいました。」
“メイド”が必死の体で女優に謝っているが、それはヤツを欺く為の芝居だ。実にいいタイミングだったと僕は嗤う。
「いいえ、いいのよ。わざとではないのですもの、気になさらないで。部屋に帰れば他にもドレスを持って来ているから大丈夫ですよ。」
人を安心させる鷹揚な笑顔を浮かべる女優は、やはり女優だった。
あまりにも自然に見える対応で、誰もそれが計画されていたとは思っていないに違いない。
作品名:Fall 2 作家名:たままはなま