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たままはなま
たままはなま
novelistID. 47362
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Fall 3

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Fall 3



腕を後ろ手に縛りあげられ、足も縛られて、目隠しまでされ、どこの道を何処へと向かっているのかも分からずに車の荷台でゆられてどのくらいの時間が経っただろう。夜間の道を結構なスピードで疾走する車は、以外にもカーブなどもスムーズで、運転しているドライバーは非常に腕が良いのだろうと思われた。そのうち、緩やかに減速して車が止まった。仮初めのかどうかは分からないが、一応の基地に到着したという事だろう。小柄なベルボーイが、私を軽々と肩に担いで移動していく。耳を澄ませるが、運転していた人物と思われるもう一人以外の足音は聞こえてこない。静かで、足音だけが響いている様子から、ここには人間が多くは居ないと推察される。しかし、こんなにも物音のしない施設とは、一体・・・。
幾ら人数が限られていても、通常はモーター音なり、機材の駆動音なり、何かの音が必ず聞こえてくるのが軍の施設というものなのだ。やはり、対暗殺部隊として特化された者達の巣は、普通のものではないという事か。私には恐れも焦りもありはしない。ただ、興味をそそられて面白いだけだった。

扉を幾つか通った後、私は固い床に投げ捨てられた。
「あとは宜しくお願いしますよ、“シェフ”。」
ベルボーイではない方の人物と思しき声。
「了解!俺がしっかりと料理して見せますぜ!」
始めからこの部屋で待ち受けていたらしい3人目の人間の声が答えた。
「では、私たちは待機していますので、何時でも声をお掛け下さい。」
運転者の声は低く静かに言い、ドアを二人分の足音が出て行った。
「なかなか手強そうだが、どうするかねぇ。」
舌舐めずりでもしていそうな声の男は、私に口を割らせる役割に違いない。しかし、私はありがちなやり方で口を割ったりはしないのだ。逆に、この男のお手並み拝見といったところであった。



まずは、繰り返し同じ質問を繰り返されるのから始まる。次第に大声で叫び続けられるようになり、次には暴力に訴えてくる。自白剤の使用もしてみる。それでも私の意識はクリアで何の支障も無い。そうなると、食事を供されなくなって、水分の摂取も許されないようになる。そして、最終的には、睡眠を阻害されるのであった。人間は、1週間も睡眠を全くとれない状況に置かれると、体の衰弱だけではなく、精神が崩壊していく生き物なのである。
けれど、私には何らの影響も与えられはしない。“シェフ”と呼ばれた男と、“ガーデナー”と呼ばれるベルボーイ、“スチュアート”と呼ばれている運転者が交代で、私が眠りをさまたげられて苦しみ出すのを待ち構えていたが、とうとう痺れを切らしたらしかった。上官にでも泣きついたのであろう、建物の外にヘリコプターの轟音が聞こえたのは、私がこの建物に運び込まれて3週間が過ぎようとする頃の事だった。
ヘリコプターの音から察するに、タンデムローターの大型輸送ヘリ。“我々”の“敵国”の保有する武装からすると、おそらくはアメリカのボーイングIDS社のCH-47C、いや、HC1チヌークだろう。そうすると、それなりの人数を投入してきたかと考えらえたが、ローター音が消えてから降りて来た足音は、一人分だった。それも、かなり小柄な人物のようだ。
特殊な技能を持って自白させる専門の何者かを連れてきたのかも知れないし、あるいは、ここに居る者たちの直属の上官である可能性もある。私の特別な耳で捉えた新しい情報から、私はぞくぞくする思いで、その得体の知れない誰かとの出会いを待った。



僕が“スチュアート”から連絡を受けたのは、“死神”の一人を捉えて3週間近く経った頃であった。暴力、食事と水分の制限、自白剤にも屈しない者は時折いるが、その男は10日も一睡もしないどころか、眠るような素振りすら見せずに平気でいるというのである。
「“伯爵”、あの男は普通の人間とは思えません。私どもではこれ以上は打つ手が無いものと思われます。如何なさいますか?」
珍しく焦りを含んだ様子であった。あの“スチュアート”をこんな風にさせる男に興味が湧くと共に、まだ何一つ喋ろうとしていない“死神”からいい加減に何らかの情報を得なければならないと思い、僕は、その男を幽閉している場所へ向かう事にした。
「分かった。僕が行こう。明日、午後13時には到着できるように手配をしてくれ。」
「本来でしたら、あまり直接にお会い頂きたくはないのですが、致し方ございません。私どもの力量が足りませず“伯爵”のお手を煩わせてしまい、誠に申し訳ございません。」
“スチュアート”の言葉からは、不安も見て取れるが、このままでは埒が明かないのは明白なのであり、打開策として僕が赴くのは当然の事だ。
「気にするな。僕もその“普通の者”でない男に合ってみたくなっただけだ。では、手配を頼んだぞ。」
その言葉は本気だった。僕の部下達の手に負えない者がいる等とは面白いではないか。
「かしこまりました。明日、迎えの者を向かわせます。」
遣り取りは、むろん電話などではない。全て暗号文のメールで行われている。そして、この暗号メールは数分と経たないうちに、自動的に情報が壊れる様にプログラミングされているのである。会話が少なかった分、そのプログラムの終了は早く、1分弱ほどしたところで、今までのメールが全て無事に破壊された通知音が鳴ったのを確認した。



ずっと目隠しをされ続けているので定かとはいえないが、新しい人物との面会の為に連れて行かれたのは、それまで私が閉じ込められていた部屋とは全く違う趣のもののようだった。ドアの開く音が木製のそれであったし、足元には毛足の深いカーペットが敷かれているのは歩けば分かる。黴臭さの代わりに花の香りが漂い、頃合いの温度に空調がされていた。
私は手足を拘束されたままで奥の壁際に連れて行かれ、両手を壁から垂らされた鎖の様なものに括り付けられたようだ。暫くして、目隠しを外された。
急に明るくなった視界には、部屋の設えが映った。穏やかなグリーンを基調とした品の良い壁紙、ダークグリーンにベージュの蔓模様のカーペット、オーク製のローテーブルが置かれ、向かい合わせに濃いブラウンのビロード張りの一人掛け用ソファーが1脚と、同じ素材の大きめの2人掛け用のソファーが一脚据えられている。この部屋は、さしずめ上官専用の応接室といったところだろう。
「静かにしてろよ。」
低く唸るように言った“シェフ”の手には、アメリカのコルト・ファイヤーアームズ社製、M4カービンがフォアグリップを付けて携えられ、私に銃口を向けていた。その可搬性の良さから室内などの近接戦闘に向く為、対テロ部隊や警察が好んで採用するのが、このアサルト・カービン銃だ。M4はアメリカではとてもメジャーなタイプであるし、彼の言葉の発音から、もしかしたら、アメリカ出身なのかも知れないと思う。“ガーデナー”も私の直ぐ横に待機し、緊張感が高まっている感じから、どうやら件の人物がこの部屋に訪れるらしい。かなり小柄なようだったので、或いは女性かも知れないと思ってドアを見遣っていた。
作品名:Fall 3 作家名:たままはなま