Wizard//Magica Infinity −3−
時は数時間前に遡る。
それは、探検部の部室としている音楽準備室での凛子ちゃんの一言だった。
「そういえば、ハルトくんとコヨミちゃんの罰ゲームがまだだったわね」
「ぶふっ!!」
−ガシャンっ−
俺は飲んでいたコーヒーを盛大に吹き出し、コヨミはティーカップを地面に落としてしまった。そうだ、忘れていた。忘れた頃に凛子ちゃんは突然言い出すのだ。
あのダムへの探検から数日後、凛子ちゃんは別の事に夢中で忘れかかっていたので、俺はこのまま無かったことにしようと、なるべくその件には触れずにいたのだ。
なにも自分から進んで罰ゲームはまだ?…などと言う必要性は全くないのだが。
「あ、そうでしたね!確かハルト先輩とコヨミさんは罰ゲームをまだ受けていませんでしたね!僕もすっかり忘れていましたよっ!!」
「瞬平、二度言わなくて良い」
「そ、そんな鬼のような顔で僕を見ないでください…」
「はぁ…」
「コヨミ、ばれちゃったな」
「うん」
凛子ちゃんは腕を組み音楽準備室を大きく周るように歩き考え始めた。
無論、凛子ちゃんの罰ゲームの難易度の高さは承知の上だ。
今のうちに覚悟しておかなければ後々後悔するだろう。
俺はがっくりと生気が抜けたようにボロボロのソファに腰を下ろした。
「…よし。さてハルトくん、コヨミちゃん。今回の罰ゲームの指示をするわ!」
「「はい」」
「今回はとっても簡単!しかも上手く行けば無傷、怒られることもないわよ!」
「え、マジ!?」
「っ!」
「えぇ~…二人だけずるいですよ。僕なんてこの前女子が水泳の授業中に更衣室から靴下盗んでこいって言われて見つかって酷い目にあったんですからぁ…」
「それ、酷い目にあったってレベルで済んだの?」
「はい、実は靴下の持ち主にはバレなかったんですけど、他の生徒に見つかっちゃって!ははっ!」
「笑い事で済ますの?…それで、その靴下の持ち主って誰なの瞬平?」
「はい!コヨミさんのです!!」
「ふぇっ!!?」
凄い、よく本人の前で堂々と言えたものだな。
コヨミは赤面になりながら近くにあった箒を持ち瞬平の頭を何度も叩いていた。助けてあげたいところだが、今回ばかりは瞬平が悪い。
それより当の本人の気が済まないだろう。
「それよりコヨミ、靴下無くなったの気づかなかったのか?というか授業の後どうしたんだ?」
「うっ…えっとね、ハルト」
「何?」
「無くなったのは不思議に思っただけで済ませたのだけど、流石に授業中に裸足は嫌だったから」
「?」
「丁度その時、男子の水泳の授業だったから」
「おいおい、もしかしてコヨミも他の男子の盗んだんじゃないだろうな?」
「うぅん。ハルトの靴下を盗んで履いていたの」
「はぁぁっ!!?」
とんだ二次災害だった。
というか靴下無くなったことに気づけ…俺。
「はいはい、昔のことは置いといて。ハルトくん、コヨミちゃん。早速指令をだすわ!」
「まさか凛子ちゃんの罰ゲームから簡単なお題が出される日が来るなんてな」
まぁ、凛子ちゃんも人の子。
今まで罰ゲームを超えた罰ゲームだということにようやく気がついたのだろう。
さぁ、今回のお題は何だ?
今まで修羅場をくぐり抜けてきた俺とコヨミならばたやすいことだ。
「夜の学校に忍び込んで管理人室の机からエロ本を盗んできて頂戴!」
前言撤回。
「ちょっとぉぉ!どこが簡単で怒られることがないだよ!まず夜の学校に忍び込んで見つかった時点で停学だし、例えエロ本手に入れてきたとしてもそれは管理人の心が傷つくじゃない!夜のお供が居なくなる事を意味しているんだよ!?」
「ハルト、言い回しが気持ち悪いわ」
「悪いなコヨミ、これでも俺は男だ」
「引く」
「あぁ何とでも言え!」
「ハルトくんに拒否権は一切無いわ、これは部長命令!わかっているでしょうね?」
「うぐっ」
わかっている。凛子ちゃんは一度思いついたことは何があっても妥協しない。
結局、いくら俺が抵抗してもそれは無意味なのだ。ただ俺の体力と今まで培ってきたプライドをすり減らしていくだけ。
観念しよう…どうやら今日の罰ゲームも高難易度だ。
「罰ゲームは今日の夜、8時から早速行ってもらうわ!二人とも、健闘を祈る!」
−−−そして今に至る。
学校に潜入したのはいとも容易かった。あらかじめ一階の図書室の窓の鍵を開けておき侵入できるように準備していた。俺たちはそこから学校の中に入る。
ただそれからだ。古い校舎の為、防犯設備は最低限のものしか備えていなかった。
「天井に付けられた赤外線センサーに入るなよ、ブザーが学校中に響き渡る」
「うん」
管理人室は図書室から反対方向にある。つまり、普通に歩いていってもすぐに到着できるのだが、それができるのは生徒がいる日中のみの話だ。一回は職員室や校長室が並ぶためいろんな場所に赤外線センサーが設置されている。これをやり過ごすには校舎の2階に登り遠回りして管理人室の目の前にある階段を降りて侵入するしか方法が無い。
なんとか2階への階段を登り赤外線センサーの無い廊下へと到着することが出来た。
しかしここで予期せぬ問題が発生した。
なんと2階の廊下にはセンサーが無い変わりにいつの間にか防犯用の円形型監視カメラが設置されていたのだ。ちなみに監視カメラは一定の時間で角度が変わるタイプ。
なので俺たちは侵入する際に凛子ちゃんから支給された子供二人がぎりぎり入れるダンボールと使ったことのないキーピックを使用してゆっくりと進行中なのである。
「ハルト、この先にも監視カメラあるみたい。やっぱりさっきみたいにダンボールかぶってやり過ごさなきゃ」
「まぁ。カメラに録画されてもバレないようになるべく死角に入り込んでじわりじわりと進んできたけどさ。これじゃあ管理人室着く頃には朝になってるよ?現にもう2時間経っているわけだし」
「じゃあどうするの?」
「ん…こうする」
俺は再びコヨミと一緒にダンボールを被る。そして、一気に走り始めた!
「ちょ!ちょっとハルト!!」
「止まるなよコヨミ!止まったらアウトだぞ!」
そうだ、カメラは防犯用の証拠として設置されているだけあって、別に赤外線センサーのように警告音がなるタイプのものではない。推測だけど。
用は顔や身体が見られなければ良い。
それに大切な書類が盗まれたり何かが壊され警察ごとにならなければこんな特定の時間帯を誰が再生するであろうか?なにも問題を起こさなければ特に障害にはならないのだ。
俺たちは一気に廊下を駆け抜け、あっという間に管理人室へと続く階段へと到着した。
「はぁっはぁっ…ハルト、乱暴すぎ」
「まぁ見つからなきゃ大丈夫ってわけ。さてと、下の階に降りてさっさと管理人室からエロ本を盗んで帰ろうか」
そして俺たちは階段を降りて管理人室の目の前へと到着する。
管理人は先程、この管理人室から反対方向へと巡回しにいったばかりだ。当分は帰ってこないだろう。…だが、再び事件は発生した。
「おじゃましまぁ…っ!!」
「どうしたの、ハルト…うっ」
俺は管理人室のドアを開けると同時にコヨミの口を押さえて数歩下がる。
そしてカウンターのガラス越しにあちらから見えないようにそぉ~っと覗いた。
作品名:Wizard//Magica Infinity −3− 作家名:a-o-w