Wizard//Magica Infinity −3−
「嘘だろ、いつもは一人の筈なのにっ」
「えっ…もう一人居る?」
そう、普段は一人で警備している話なのだが、部屋の中には横たわって爆睡しているもう一人の管理人がいたのだ。これは監視カメラの件より予想外だ。というか、凛子ちゃんの話なら一人と言っていたのに…まさか。
「やられた」
「何を?」
「凛子ちゃん、俺たちを騙したな」
そうだ、凛子ちゃんの話をまともに間に受けた俺が馬鹿だった。
この罰ゲームを盛り上げるため、わざと俺に嘘の情報を教えていたのだ。
「さて、どうするか…ん、あの机の上にあるのは…」
「エロ本ね。うっ、人妻って…マニアックね」
「こらこら、声に出すんじゃない…でも本当にどうするか…」
幸いにも、管理人はいびきをかいて爆睡している。まだこちらには気付いていない。しかしここでおどおどしているともう一人の管理人が帰ってきてしまう。その前に事を済ませなければ。
「でも、目的の物はあそこにあるわ。なら、やることは一つなんじゃない?」
「お、おいコヨミ」
「待ってて、私持ってくる」
そう言ってコヨミは何もためらい無く管理人室の中に入っていってしまった。静止させたかったがこのまま俺も入っていけば騒がしくなってしまうだろう。ドアを音を立てないように閉めて足音をたてずに机の元へと寄り添う。
「あぁ、危なかっしい」
コヨミは何か変なところで度胸があるっていうか不思議な奴だ。そういえば今までも教頭先生のヅラを躊躇せずとったりとか、何も抵抗はなかったのだろうか?もともと肝が座っているからか?だとしても流石に限度というものがあるだろう。
それともこういうことをすることになれているのか?
いや、この件に限らずとも、人生の修羅場というものを何度も乗り越えてきたというか…。
つまり、俺が言いたいのはあまりにも逞しすぎるのだ。
コヨミは昔からそんなにたくましかっただろうか?
いや、考えるのをやめよう。
まるで俺が女々しい奴じゃないか。
「………。」
−ぐぅ~すこ~−
コヨミはゆっくりとエロ本に手を伸ばす。
次第に見ているこちらも心拍数が上昇してきた。
「………。」
−ぐごぉ~すぴ~−
コヨミの手があと数センチ。
「………。」
−ぐぅ~…すぅ~…−
そして…
ついにコヨミがエロ本を手に掴んだ!
−ぐごっ……ん?−
「……っ」
「あ、やばっ」
一瞬、時が止まったように感じた。
なんと、コヨミがエロ本を掴んだ瞬間、管理人のいびきが止まったのだ。
つまり…管理人が目を覚ました!!
−しまった寝ていた…っ!お、おお!お前こんなところで何してる!!−
「っ!」
「やばい!!コヨミ!早くにげっ」
しかし、この瞬間。俺の目の前が白く光った。
「はっ…」
何だ。
何が起こった。
「え…あ…」
俺がどうかしたのだろうか?
身体の感覚はある。
別に気絶している訳ではない。
俺が最後に見た光景は、コヨミの身体が一瞬光り、
次の瞬間
管理人は先程と同じようにいびきをかいて寝ていた。
「あれ…」
「ハルト」
「うわっ!な、コヨミ、いつの間に…」
「声が大きいわよ、ほら、取ってきたわ。…?どうしたの、ハルト」
「い、いやなんでも…」
「息が荒いわ。そんなにこの人妻が沢山映っているエロ本が見たかったの?」
「んなわけないだろ!」
コヨミは何事も無かったかのようにきょとんとしている。
俺だけがおかしかったのか?
でも間違い無く管理人は目を覚ました筈だ。
それだけは、はっきりと覚えている。
「とりあえず、当初の目的は達成した。もうここにいる必要は無い、さっさと帰ろう」
「そうね、もうじきもう一人の管理人も帰ってくる筈だわ」
俺たちは廊下の窓の鍵を開けて学校から脱出し、全速力で立ち去るのであった。
−−−だが、走っている最中、俺は先程の出来事をずっと考え込んでいた。
いくらなんでも不自然すぎたからだ。
別に幻覚をみたわけでもない。
はっきりと覚えている。
コヨミが何事もなかったかのようにしているのも不自然だ。
確かに、あの時不思議な事が起こったのは間違いない。
俺は、何か知ってはいけない事を目の当たりにしてしまったのかもしれない。
俺は、これから何かが変わることを察してしまったのかもしれない。
あれは、凛子ちゃんが仕掛けた何かのトラップだったのだろうか?
違う、いくら凛子ちゃんでもそこまで器用な事ができるとは思っていない。
瞬平?
いや、あいつは全く関係ないか。
だとしたら…やっぱりコヨミ?
コヨミなのか?
コヨミは俺に何か隠しているのか?
今まで一緒の時間を過ごして、お互いの事を知り尽くした仲だとおもっていたが、彼女には俺も知らないなにか秘密があるのだろうか?
そんな事を考えながら、夜は更けていった−−−。
作品名:Wizard//Magica Infinity −3− 作家名:a-o-w