彗クロ 4
漫然と見やるほかないルークの気配に気づいた――というよりも、捜索の一環としての淡泊な仕草で、少年は振り返る。……あらゆる色彩を押しつぶす暗がりの中、それでも鮮やかな碧の色調が一切の欠損なく網膜に届いたのは、遠く死にゆく夕日の最後の意地だったのかもしれない。
二人のルークは、見つめ合った。
少年の眼差しは、確かにルークを捉え、認識した。けれど感情を大幅に欠いたまま、視線はあっけなくはずされる。気取った服装の下にどことなく野性味を隠した痩身は、何事もないようにエレベーター正面に延びる廊下へと駆けていった。
その姿が壁の向こうに消えてなお、ルークは呆然と立ちすくんだままだった。目の前で何が起きたのか、有り体に混乱していた。耳障りな蝶番の悲鳴と重い扉の開閉音が思考の歯車を強引にはめ直してくれなければ、いつまでもそこに立ち尽くしていたことだろう。
硬い空気の塊を気管に放り込み、声もなく後を追った。泥のようだった現実が、手のひらを返したようにちかちかと火花を焚いてやかましくはやし立てる。少年が吸い込まれていった廊下に人影はすでにない。その事実に怖じ気づきそうになりながらも、ルークは必死に突破口を求めた。廊下の正面、エレベーターと向かい合う位置にある、堅牢な鉛色の扉。それが最後の頼みの綱だ。
半ば全身で体当たりをする形で、強引に扉を押し出す。たちまち強風にまかれ、己の赤毛と夕日の悪足掻きに一瞬視界を奪われた。
景色は一転し、夕闇迫るバチカルの正面広場が目前に広がっていた。そこはホテル外壁に組み付けられた非常階段の踊り場だった。
ルークはうるさげに長髪を捌きながら、鉄骨製の手すりに身を乗り出した。剣呑に目を凝らし、足下の広場を嘗めるように見渡す。
あふれるほどたった人波は、さすがにこの時間帯ともなると、やや密度が薄まり始める。なんとなしに闘技場や飲食店の集まる中央部を目指す流れが形成され……流れに逆らう者は、否応なしに目に付くのだ。
まして、人もまばらな広場の隅を脇目も振らず逆行していく赤毛の後ろ頭を、ルークが見逃すわけがない。
「――ッ、クソが……!」
無意識の悪態を口内に叩きつけながら、ルークは手すりから全身を弾きだして非常階段を駆け下りた。呆けていた数秒の代償は、あまりにも大きい。
……現実味のない事象に心臓が逸り、得体の知れない恐怖に神経が震える。夜気を帯び始めた風が背筋の冷や汗を凍えさせる。鉄階段の硬質な感触が足の裏に鈍く痛い。自分を突き動かすものがなんなのか、いったい何をしたいのか。己で己を把握しきれずに、何もかも不確かな世界に身がすくみそうになる。――それでも。
脳裏に焼き付けた赤毛を追う以外の選択肢は、ルークには許されない。
不意に、泣きたくなった。わけもわからず、ただ幼子のようにがむしゃらに、喉を嗄らして泣きわめいてしまいたかった。