彗クロ 4
いつしか雲間から燦々たる陽射しを浴び始めた大通りを一度だけ眩しげに見やり、しかしガイはそこから顔を出すことなく背を向け、暗い路地の奥へと足を踏み入れていった。
きっかり二分を待って路地の方向をさりげなく窺った男は、自分の助言が生かされた気配のないことを悟り、ため息未満の吐息を鼻から抜いた。
指定したタイミングは、彼にとってそれなりに貴重な機会だったはずだ。こちらとしても、温情だの人情だの、決してそれだけのセンチな動機でおせっかいを焼いたつもりはないのが……
「――オイ、ボゲっとしてんじゃねーぞ財布」
「はいはい。……じゃ、行こうか」
傍らを促せば、そこに佇む物静かな少年は、にぎやかに先を行く元気な二人に視線を置いたまま、薄く淡泊に頷いた。朝の景色には目に鮮やかな赤毛を、洗い立てのニット帽の下にしまいこみながら。
かくて若干の波乱を含む羽休めは幕を下ろし、バチカルの日常をほんの少しだけ波立たせた珍客たちは、何事もなく旅路という名の日常に戻るのだった。
(次章につづく)