Wizard//Magica Infinity −4−
俺はがむしゃらにコヨミの後を追いかける。
凛子ちゃんの言った言葉…一体どういう意味なのだろうか。
さっきから疑問しか沸かない。コヨミだけじゃない凛子ちゃんも何かを知っている。
「コヨミ!おいコヨミ!!」
喉が痛くなろうが、肺が潰れそうになろうが関係ない。
目の前に映る小さな背中に向かって全速力で後を追う。
「コヨミー!!コヨミー!!!!」
歩きなれた通学路。
見慣れた田園。
聞きなれたセミの声。
自然に入ってくる作物の匂い。
そして…目の前に広大に広がる面影村。
全てが俺の小さい時から見てきた光景。
それが何故だ。
何故、…なにもかもが懐かしく思えてしまうのだろう。
「はぁっはぁっ…っ!!」
「ごほごほっ…捕まえた…」
ようやく彼女の肩を掴むことが出来た。今度は、捕まえた。捕まえることができた。
周りを見渡す…いつの間にか山道に入っていたみたいだ。
街頭がないから周りは真っ暗だ。
「コヨミ…落ち着いてくれ…」
「駄目よ…駄目なの…ひぐっ…」
「何がだよ…」
「だって…」
「大丈夫だ…」
俺はそのままコヨミを胸元に引き寄せ、何度も頭を撫でた。
コヨミの心臓の鼓動が身体を通して俺へと伝わってくる。
さっきから走ってばかりだったためかお互い心拍数は高かった。
「ごめんコヨミ…感情が高ぶっちゃって…もう問い詰めたりしないから…」
「…ハルト…」
「だから…教えてほしい…よくわからないけど…俺に真実を…」
「駄目よ…」
「…どうして?」
「ハルトと…もっとずっと一緒に居たいから」
「…え……」
俺はゆっくりと彼女を離した。
コヨミの顔を見た。
こんなコヨミの顔を見たのは初めてだ。
瞳に涙を溜め、今にも流れ落ちそうだった。
「コヨミ…」
「ハルト……今から、私の秘密を教えるわ…」
「えっ…」
「お願い…私を見て…」
その瞬間、空から月の光と同時にコヨミの身体が白く光り輝いた。
あまりのまぶしさに俺は一瞬目を瞑る。
この光…知っている
以前も体験した…。
あの光だ。
そして次に目を開けた時…俺の瞳に映ったのは…。
「……え…コヨミ…」
「これが、私の姿よ…私の秘密であり、…ずっとハルトに隠していたこと」
コヨミの姿…なんと説明すれば良いだろうか。
まるで魔法使いが使う大きなローブを身体中に纏い手には大きな水晶玉を持っている。
なんだこれ…なにかのマジックなのか?
まるで魔法使いみたいだ…。
「魔法使い…いえ、『魔法少女』なの」
「は…?」
「私はとある願いを経て魔法の力を得た存在…魔法少女よ。そして今から話すことは全ての真実…全ての始まりよ」
魔法少女の姿へとなったコヨミ。
月明かりがそうさせているのか。
目の前にいる幼馴染がとても美しく見えた。
俺はコヨミの姿にずっと見惚れていた…。
「ハルト…聞いて…」
「あ……」
「ハルト…あのね…」
「な…なに…?」
「ハルトはね…10年前の−−−」
だけど…俺は後悔した。
聞かなければ良かった。
そう…今更後悔した。
「…冗談だろ…」
「…ごめんなさい」
全て、あの時から狂っていた。
あの時、コヨミを追いかけなければ…
凛子ちゃんの話を聞かなければ…
全てが今のままで続いていったのに…。
「ハルトはね…10年前の大洪水のあの日−−−」
何故、世界は変わろうとするのだろう。
なんて残酷なんだろう…。
そこまでして、人を絶望させたいのか…
俺は……
俺の人生は…
既に「終わっていた」のか…。
「ハルトはね…10年前の大洪水、私達が出会ったあの日、ハルトは森の中で力尽きて…死んでいるの…」
あなたの肉体は既に存在しない…概念だけの存在なのよ。
そしてこの世界は、私が作り出した「虚構世界」
現実ではない…全て私が概念のあなたに見せている、「夢」なの−−−。
作品名:Wizard//Magica Infinity −4− 作家名:a-o-w