Wizard//Magica Infinity −4−
・・・
「凛子ちゃんはさ、本当に親父さんに恨みはないの?」
「無いわよ。今でも恨んでなんかない」
「でも…元は全部親父さんのせいなんじゃ…」
「まぁ確かにそのとおりね。だけどハルトくん、この世界はね、『今のままじゃいられない』のよ」
「えっ…」
「世界は常に変わり続けるの」
「っ!」
「私はこの面影村に来て後悔したことなんて一度も無いわ。カラオケもなければ、ファーストフード店もないけれど、全然関係無い。周りには常に素晴らしい仲間がいるから」
「仲…間?」
「えぇ…ねえハルトくん。私達が出会ったのって、偶然だと思う?」
「それは…やっぱそうなるんじゃない?」
「ふふっ違うわよ」
凛子ちゃんは体育館のドアを開ける。
夕日がドアから入り周りがオレンジ色に染まった。
「人と人との出逢いは偶然なんかじゃない、全て『奇跡』なのよ。私とハルトくん、俊平君とコヨミちゃんが出会ったのは運命でもあり、奇跡。もしかしたら神様が最初から決めていたのかもね」
「凛子ちゃん…」
「だけどね、ハルトくん…」
夕日が完全に落ちようとしたのか、次第にオレンジ色が無くなっていく。
同時に空が暗くなり次第に星が光り始めた。
「出逢いもあればね、必ず…別れもあるの…」
「凛子…ちゃん?」
「ハルトくん…最後に一つだけ、答えてくれる?」
心臓の音が高鳴る。
今、俺の目の前にいる人は普段の彼女じゃない。
俺の知らない彼女だ。
ゆっくりと開いた口から出た言葉は…
残酷な一言だった。
−あなたは、別れを受け入れられる覚悟はある?−
「え……」
頭の中がからっぽになった。
思考が停止する…呼吸が荒くなる。
世界は今のままじゃいられない、少しずつ変わろうとする。
さっきの凛子ちゃんの話だってそうだ。
出逢いと別れ…綺麗な水平なバランスを保っている。
これが、この世の秩序なのだろう。
「ハルトくんはこの一年間でとても強くなった。私が思っている以上にね。だからね…ハルトくんにはもっともっと強くなって欲しいの。それが私の願いなの」
「ちょっと待ってよ凛子ちゃん、いくらなんでもオーバーじゃない?」
笑いながらこの空気の重さを少しでも軽くしようとする。
「確かにさ、凛子ちゃんはあと半年とちょっとで卒業ってことだけどさ。なにも永遠の別れってわけじゃないでしょ?」
「…っ…」
「それにさ、俺の周りにはまだ俊平…そうだ、コヨミがいる。何もそこまで重大に考えることはないでしょ」
そう…自分に言い聞かせた。
「ハルトくん…あのね」
「大体凛子ちゃんはいつもいきなりすぎなんだよ。ははっ!ちょっとは俺の気持ちも解ってほしいな~」
心の中では俺は理解していた。
俺は…
俺は今のこの時間が崩れ去るのが嫌だった。
誰ひとり欠けることが許せなかった。
きっと、この時間が無くなってしまったとき、俺は『絶望』してしまうだろう。
−そこまでよ、凛子−
「えっ…」
「っ!コヨミ…ちゃん」
完全に日が落ち、体育館中に聞きなれたもう一つの声が響き渡る。
その姿には完全に見覚えがあった。
見慣れたセーラー服。長い黒髪。
間違いない…コヨミだ。
「凛子…ダメよ。ハルトにはまだ早すぎる」
「いいえ、ハルトくんはもう気付き始めているわ。一番解っているのはコヨミちゃん、あなたじゃない?」
「ちょ、ちょっと待てよ。どうしたんだ二人とも?一体なんのことだ?」
二人の会話の内容についていけない。
俺はコヨミの元へ歩き始める…そうだ、コヨミは何か隠しているんだ。
きっとそのことだろう。
「なぁコヨミ。今まで何をしていたんだ。なんで急に…」
「ハルト」
「ん、何?」
「ハルトは…どこまで気付いているの?」
「………は?」
気付くも何もさっぱりわからないのだが…
というか…そのことを今、コヨミに聞いているんだ。
「コヨミ、一体何のことだ…俺にはさっぱりわからない」
「…そう…なら質問内容を変えるわ。ハルト、最近身の回りに異変、変わったことがない?」
「…あ…」
「そう…やっぱり…知ってしまったのね、いや、正確には気付き始めているだけ」
そうだ…
あの夜…見たことのない白い光。
何度も見るあの時の夢。
そして…コヨミが発した光。
偶然にしては不自然すぎる。
「ハルトが考えている通りよ。全ては偶然ではない…」
「コヨミ?」
「全ては…うっ…」
「コヨミ…コヨミ!?」
「…っ…ごめんなさい…ちょっと…」
地面に水滴が2、3粒落ちる。
暗くてよく見えなかったけど、それはコヨミの顔から落ちたものだ。
コヨミ…お前、泣いているのか?
なんで?
俺はもしかして…知ってはいけない何かを知ってしまったのか?
「な、なぁコヨミ本当にどうしたんだよ!」
「うっひぐっ…ごめんなさい…っ!」
「なっコヨミ!?」
コヨミは顔を隠して走り去っていく。
もちろんこのままではいけない…コヨミを追いかけなくては!
「凛子ちゃん!」
「行きなさい…私は…行けないわ」
「えっ…」
「行くのよ、ハルトくん。そして…全ての『真実』を…受け入れてきなさい」
「………っ…」
作品名:Wizard//Magica Infinity −4− 作家名:a-o-w