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らんぶーたん
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小説インフィニットアンディスカバリー第二部

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「その目、ずっと開かなくしてあげるわ」
 矢が弓につがえられると、同時に爆炎を吹き上げて炎の翼を形成していく。確か、カーディナルクロークという名のアーヤの技だ。フェイエールの守護聖獣だった朱雀を模した、アーヤ必殺の一撃。
 ……必殺?
「そ、そんな猟奇的な発言、アーヤさんには似合わないとおも——」
「問答無用!」


 月の雨を浴びたアーヤのカーディナルクロークはまさに必殺の一撃だったが、カペルはそれを辛うじてかわした。代わりに思い切り頬を平手で張られたが、それで済んだのだからよしとしよう。差し引きで言えばプラスだ。
 だが、アーヤはそのままどこかへ行ってしまった。
「うーん。口は災いの元、か……」
 熱を持った頬をさすりながら彼女が消えていった方をぼんやりと眺めていると、そちらからエメラルドグリーンのワンピースをひらひらと踊らせながらファイーナがやってきた。アーヤとすれ違ったのか、しきりに後ろを気にしている。
「あの、大丈夫ですか?」
「そうでもないです」
「アーヤさん、ひどいです。カペルさんにこんなことして」
「いや、僕が悪いんですよ」
「……ちょっと見せてください」
 そう言ってファイーナが手を伸ばす。アーヤの手のひら大に赤くなった頬をなでられ、カペルは頭の奥がぼおっとしているような感覚に襲われた。張られて熱でも出たのか、それともやはりファイーナの優しさに当てられたのだろうか。
「そうだ、カペルさん。お時間ありますか?」
「アーヤがどこか行っちゃったんで、たっぷりとありますが」
「実は取引相手の方と連絡が取れなくて、私、時間が出来ちゃったんです。それで、この時間を使ってお土産を選びたいんですけど、付き合ってもらえます?」
「お土産?」
「ケルンテンには有名なお菓子職人さんがいらっしゃるんです。そのお菓子を選びたいんですけど」
「いいですよ。暇ですし」
 情報収集はヴィーカがやってくれているし、透明の騎士が現れないうちはカペルにはやることがない。
「じゃあ行きましょう」
 ファイーナに袖を引かれるまま、カペルは幻想的な広場を後にしてケルンテンの雑踏の中に戻っていった。


 その様子をアーヤは見ていた。物陰からこっそりと……。
「ファイーナさんと一緒?」
 ちょっとやりすぎたかもしれない。だから謝ろうと戻ってきたら、カペルはファイーナさんと一緒にいた。
「これじゃ謝りたくても謝れないじゃない」と口をついた自分の言葉を「別に謝りたいわけじゃないけど」とすぐに打ち消しながら、カペルがファイーナさんに袖を引かれて歩いて行くのを、ただ見送るだけ。
「……なにやってんだろ、私」
 悩まなきゃいけないことはいくらでもある。これからの戦いのこともそうだし、父様や母様のことだってある。フェイエールの行く末についても考えなきゃいけないってのに……。
 気分と一緒に視線が下を向いてしまう。ため息も漏れる。
「はぁ……」
「どうしたの、アーヤ?」
 いつのまにか足下にいたのはロカだ。当然にルカも一緒で、ルカはカペルたちの様子をうかがっているようだ。
「ロカたちこそ、なにやってるの?」
「ワタシたちはねー」
「あー、ウワキゲンバだー!」
 いきなりルカが大声を上げたので、アーヤは思わずその口をふさいで物陰に隠れた。カペルたちが振り返ったように見えたけれど、気づかれただろうか。
「もう、そんな言葉、どこで覚えたのよ!?」
 そう言ってもルカはにやりと笑うだけ。ませた子供たちだとは思っていたけれど、本当に連れてきて良かったのかな……。
 モンタナ村からの出来事が走馬燈のように蘇り、カペルたちと一緒にいた時間を思い出して、思わずまたため息が漏れる。
「だいたい、なんで私が隠れなきゃいけないのよ」
「素直にならないと、アーヤ」
「ちょ、ちょっと、なに言ってるのよ、ロカ!」
 ロカが口元に人差し指を添えてウインクする。
 静かに、のサインにそれ以上の抗弁を遮られてしまったアーヤは、やり場を無くした視線をカペルたちの方へとやった。
「と、とにかく後をつけるわよ」
「ビコウだー」
 ルカがはしゃいでいる。
 まったく、人の気も知らないで……。



 弟子入りしてから早一年。
 まずお菓子の味に惚れ、次いで容姿に惚れ、最後に人柄にも惚れてしまったのがエレノアの今だった。
 師匠からは、いまだ名前も覚えてもらえずに「二番弟子!」としか呼んでもらえない有様だが、だからといってそれ以上の行動を起こす勇気もない。未来を思えば、何も変わらないことへの不満と安心が入り交じってしまって何も出来ないのだ。
 いや、そもそも私はお菓子の修行にやってきたのだから、師匠への想いで迷っている場合ではないのだが……。そんな気持ちの迷いは修行の成果にも如実に表れ、だから名前も呼んでもらえないのだろう。
 一度でいいから「おい、エレノア!」と名前を呼んでもらいたい……。
「あの、お会計いいですか?」
「あっ、はい、すいません!」
 お客様を前にぼんやりとしてしまった。また一つ反省。
「僕が出しますよ」
「いえ、そんなの悪いです」
「男の顔を立てると思って。ね、ファイーナさん」
「男の、ですか……。はい、ありがとうございます」
 恋人同士なのだろうか。
 年の頃は自分と同じくらい。付き合いだしたばかりのような初々しさを垣間見せながらも、心のどこかではきちんと繋がっているような、そんな距離感にも見える。
 私もいつか、師匠とそうなれるのだろうか。それでケーキと同じくらい甘い言葉を耳元で囁かれて……。
「あの、おいくらですか? もしもーし?」
「……はっ! すいません」
 会計を済ませた少年はにこりと笑ってケーキを受け取ると、それをファイーナと呼ばれた少女に渡した。そのまま出て行くのかと思って見送っていると、少年が何かを思い出したようにまたケーキを選び出す。
「カペルさん、どうしたんです?」
「いや、アーヤの分も買っておこうと思って。さっき怒らせちゃったからね」
「アーヤさんの……?」
 別の女の子の名前を言われ、カペルと呼ばれた少年の後ろでファイーナが口を尖らせている。恋人というわけではなかったのかな?
「二番弟子!」
「は、はい!」
 後ろからいきなり声をかけられ、エレノアの返事は思わず裏返る。当然聞こえたのだろう、カペルとファイーナがこちらを見て目を丸くしていたが、師匠はお構いなしだった。
「二番弟子よ! おまえは確かフェイエール出身ではなかったか?」
「は、はい。そうですが」
 名前は覚えていないのに、出身地は覚えている。こういうちょっと変なところが師匠のチャームポイントなのだとエレノアは思っていた。
 銀色の短髪に無精髭がよく似合う。たくましい胸板と腕、それに頬に残った傷が、彼が元は傭兵を生業としていたという過去を裏付けるようだった。見た目にはとてもお菓子職人には見えないが、むしろその無駄とも思える筋肉こそがお菓子作りには必要らしい。
「おまえを見込んで、ひとつ頼みがある、二番弟子よ!」
 ただ、大きな声で話す癖だけはなかなか慣れない。思わず身をこわばらせてしまう。
「あの、何でしょう……」