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らんぶーたん
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小説インフィニットアンディスカバリー第二部

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<二>


「捨て置けばいい!」
「でも、また現れたら?」
「そんなもの、ケルンテンの警備兵に任せておけばいいだろう。カペル、俺たちの目的は月の鎖を斬ることだ。見えない騎士を追うことじゃない!」
「だけど……」
「月の鎖の情報を得るためにも、それにこれからの支援を受けるためにも、俺たちはまずハルギータに向かわなければならない。もう一度言うぞ。俺たちのやるべきことは月の鎖を斬ることでケルンテンの警備じゃないんだ」
 怪物を追い払い、宿へと戻ったところでそう言い出したのはカペルだった。またあの怪物がやってくるかもしれないから、しばらくここで様子を見よう、と。
 確かにカペルの言うことにも一理ある。
 だが、ここであの化け物を待っていたとしても、封印軍を打ち払うことは出来ない。月の鎖を断ち切ることだって出来ないのだ。
 それでは、あの方のご意志を継ぐことは出来ない。
 自分では鎖を斬ることが出来ず、にも関わらず、それをカペルが出来るという事実が、エドアルドの苛立ちに拍車をかけていた。
「それともなにか? 住民を助けて英雄と呼ばれたのに気をよくしたのか? あの方の故郷に行けば、おまえが偽物だとばれる確率は高いからな。今のうちに英雄気取りを楽しみたいとでも思ってるんじゃないか!?」
 ここまで言われても、こいつは怒ったりしない。ただ、困った顔をするだけだ。それが余計にかんに障る。
「ちょっとエド、言い過ぎよ!」
「……ふん」
 アーヤの抗議を鼻であしらい、エドアルドは窓の外へと目をやった。そこに見えるのはうっすらと雪化粧されたケルンテンの街並みだけで、月の鎖の姿はない。
「ここで待っていても、世界は救えない」
 光の英雄の下で一つだった解放軍。いまそこに居場所がないのは、新参のカペルではなくて自分なのかもしれない。宙に浮いた自分の立ち位置に胸がえぐられる思いを感じながらも、それを胸中で否定し、ただシグムント様のご意志を、とエドアルドは自分に言い聞かせる。
 ぽんと肩に誰かの手が触れた。ユージンだ。
「エドくん、焦っても仕方ないし、カペルくんの言うことにも一理ある。それは君にもわかるだろう? 情報収集もあることだし、二、三日は逗留することにしよう」
「ユージンさん……」
「シグムントがいなくなった。僕らはあいつ抜きで戦うと決めたけど、その穴を埋めるには誰一人欠けちゃいけないと僕は思う。だから、ね?」
 あの方の光の英雄としての戦いを、最初から見続けてきたのはこの人だ。いや、その戦いだけじゃない。幼少からの友だとあの方は仰っていた。そのユージンの思いに考えを巡らせれば、エドアルドには何も言えない。
「……わかりました」
 そう言うとユージンはにこりと笑い、みんなに今日の解散を告げた。


「早く行くわよ」
「ちょっと待ってよー」
 アーヤに手を引かれ、なかば引きずられるようにして宿を飛び出したのは、窓の外に見たことのないものを見つけたからだ。宿の部屋から見えたのは港のある方角で、カペルたちがそこに見つけたのは「雨」だった。
 当然、雨が降っていただけならアーヤもカペルもこんなに驚くことは無かっただろうが、それは普通の雨ではなかった。その雨は、まるで花火か何かのように金色に光り輝いていたのだ。
 ケルンテンの街に降る、金色の雨。
 宿の主人に聞いてみたところ、この現象が見られるようになったのは最近のことらしい。そして、ケルンテンの人たちはそれを「月の雨」と呼んでいると言う。月の雨は、それを浴びたものの体調や月印の調子をよくするらしく、だから月の恵みなのだそうだ。
「月の雨、か……」
 アーヤに引きずられながら、カペルは空を見上げてぽつりと呟いた。
 港に続く門を抜ける。
 昨日、透明の騎士と戦った広場がそこにはある。
 その光景にカペルは思わず息をのんだ。
 港からの客人を迎えるケルンテンの玄関、というのがこの広場の役割で、国の威厳を示すためなのだろう、広場の造りは神殿そのものだった。
 広場を覆う巨大なアーチとそれを支える石柱。それぞれに彫り込まれたレリーフのいくつかは昨日の戦いで崩れてしまっていたが、その荘厳な印象はまるで損なわれていない。
 それらに加えて、今は空から金色の雨が降り注いでいる。はらはらと舞い落ちる金色の雫は、どこか月の鎖を斬ったときのそれに似ているとカペルは思った。
「綺麗……」
 瞳に映った雨が揺れたかと思うと、アーヤは吸い込まれるように広場へと歩み出した。手のひらで雨を受け、「服は濡れないのね」なんて言いながら空を仰ぎ見ている。
「ほんと、なんだか調子が良い感じ……」
 予感はあった。
 つられて空を仰いでみると、そこに浮かぶのはいつもの月だ。月の雨は、その名のとおり月から降っているようにも見える。だから、それが本当に月の恵みなのだとしたら、やはり自分には影響を及ぼさないものでしかないのではないか。その予感が、手のひらに消えていく金色の雫を見てはっきりとしてしまった。
 カペルの身体にはなんら変化は起こらない。
 わかっていたことでもあったし、だからといって卑屈にはならなかった。いや、なれないのだ。
 金色の雨が降り注ぐケルンテンの港前広場はとても幻想的で、そこをくるくると舞うアーヤの様子はお世辞抜きに綺麗だと思えれば、そんな気分も霧散していくのだから。
 こういうのが似合うあたり、やっぱりアーヤはお姫様なんだな……。そんなことを思いながら、カペルはしばらくアーヤの様子に見とれていた。
「カペルもこっちに来なさいよー」
「そんなにはしゃいでると、滑って転んじゃうよ」
「私がそんなドジを踏むわけな……きゃあ!」
 見えた!
 あたりを包む幻想的な空気とは真逆の、即物的ななにか。現実へと引き戻されるに十分な理由を目の当たりにして、カペルは思わず身を乗り出した。
 だが、遠くてよく見えなかったような気もする。アーヤの意志に反して舞っていたスカートは、すでに取り押さえられている。
「……見たでしょ?」
 すぐに立ち上がり、笑顔を浮かべるアーヤの手には、何故か弓。
「み、見てないよ」
「嘘よ、絶対見たでしょ!」
「いや、ほんとに見てないよ。だからもう一回転んでもらえると嬉しいなぁ、なんて」
「カペル!」
 今度は顔色と態度を一致させながら、アーヤがぷんすかと近づいてくる。腰の矢入れに手をやりながら。
「アーヤさん、そんなに急いだらまた——」
「きゃあ!」
 転んじゃった。さっきよりも近くでだ。
「……赤、か」
 満足げに頷いていると、「カペル、いま何て言った?」とアーヤの声が低く耳朶を刺激した。
 ごうと音を立ててアーヤの周りの空気がゆがむのが見えた。足下の凍った路面は徐々に融解を始め、降りかかる雪はその場で蒸散して消えていく。アーヤの手には弓。そして矢。
「見たわよね?」
 今度は言い逃れることは難しそうだった。
「あ、赤ってフェイエールの色だから、アーヤにすごく似合って……」
 また反転して、周りの状況とは似つかわしくない穏やかな笑顔。カペルは思わず次の言葉を飲み込んでしまった。
 瞬間、アーヤの表情はまたまた反転する。
「ちょ、待って! ふ、不可抗力で——」