二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
らんぶーたん
らんぶーたん
novelistID. 3694
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

小説インフィニットアンディスカバリー第二部

INDEX|16ページ/47ページ|

次のページ前のページ
 

 神の意志を伝えてくれた少年の笑顔を仰ぎ、エレノアはお菓子職人としての、そして女としての勝負に出ることを決意したのだった。


 ただ待つというのは性に合わない。
 剣の鍛錬でも良かったが、あのヴィーカという少年を素直に信用して良いものかどうかがわからないと感じていたエドアルドは、自分なりに情報収集を進めていた。
 ケルンテンの住民は、その気候と同じくどこか冷たい印象があった。比較してみれば、ブルガスがどれだけお人好しの集まりだったかがよくわかる。
 エドアルドは街の酒場にやってきた。当てもなく人に声をかけるよりは、様々な人が集まってくる酒場に行くのが理にかなっているのだ。
 ギィと鳴く立て付けの悪いドアを押すと、そこにはよくある酒場の光景があった。まだ昼なので人はおらず、椅子もテーブルに上げられている。木製の床にはいくつもの染みが見てとれ、エドアルドが歩くたびにぎしぎしと音を立てている。それでも手入れは行き届いているらしく、不思議と不潔さを感じさせないのがこの店の酒場としての質を表していた。
「あんた、ここの人じゃないだろ。なにかと噂の解放軍の人かい?」
 マスターが言う。営業前でも嫌な顔をせずに応対してくれているのは、彼の人となりのおかげか、それとも解放軍という名前のおかげだろうか。
「ああ、そうだ。コバスナ大森林の様子と月の鎖の情報を探しているんだが、マスターには何か心当たりがあるか?」
「月の鎖ねぇ。ありゃあ、いまはケルンテンには無いよ。ハルギータにはまだ残ってるらしいがな。あとはカサンドラくらいだが……」
「カサンドラ王国は、確か滅んでしまって」
「ああ、今は封印軍の根城になっている。それでうちの政府が交通路をすべてふさいでしまったから、ここから今すぐ行くのは難しいだろうな」
「そうすると次はハルギータか」
 ハルギータならいずれにせよ行く予定だ。カサンドラにはいつか行かなければならないだろうが、そのあたりの助力もハルギータ女皇に願い出るべきだろうか。
 しばらく思案を巡らしていたエドアルドは、ふいにマスターの視線を感じて顔を上げた。マスターは少し慌ててから言葉を継ぐ。
「あんたたち、次はハルギータに行くのか。だったら、コバスナ大森林の道案内はもう見つけたのかい?」
「ん? ああ、一応な。ヴィーカという情報屋の少年が案内してくれるらしい」
「ヴィーカか」
「マスター、知っているのか?」
「たまに面倒を見てやってるガキだよ。コバスナの渡しなら、まぁあいつで大丈夫だろう」
「そうか」
「……あんまり無茶はさせないでやってくれよ。兄貴がいなくなってから、いろいろ無理をしているみたいでな」
「兄?」
「そりゃあ仲の良い兄弟だったんだがな。兄貴の方が原因不明の病に倒れて、そのあと……いや、とにかく無事に返してくれ。頼むよ」
「むろん、協力者の安全は保証するさ」
「解放軍がそう言ってくれるなら安心だ」
 どこか寂しげなマスターの表情が気にかかったが、エドアルドはそれを置いて酒場を後にした。

 酒場を出て宿に戻る途中、左手に教会が見えてエドアルドは足を止めた。ブルガスやフェイエールにはない、立派な教会だ。そこに祭られているだろうベラの姿を幻視すると、エドアルドはふいにフェイエールで受けた月印の儀式を思い出し、自分の手に光る月印に目をやった。
 ヴェスプレームの塔での戦いのとき、こいつは確かに俺を飲み込もうとした。途中から記憶が飛んではいるが、ドミトリィに突きつけられた屈辱的な言葉は覚えているし、ドミニカやバルバガンに助けられたこともわかっている。だが、この暴れ馬を御し得なければやつには勝てないだろう。それと理解はしていても、その自信がいまのエドアルドには無かった。
 ……いや、それじゃ駄目だ。悩んでいる暇があったら一回でも多く剣を振ればいい。自分が強くならなければ、誰がシグムント様の代わりをやるというのか。
 迷いと、頭に浮かんだカペルの顔を払うように首を振ったエドアルドは、もう一度教会に目をやった。
 そのとき、知った人影が教会の裏に消えていくのが見えた。
「あれは……ヴィーカか?」
 さっきのマスターの表情が思い出され、エドアルドは何気なくその後を追う。
 角を曲がるとそこは袋小路になっていて、ヴィーカの背中と三人の子供の姿があった。
「おい、何をやっている?」
「ん、あんたは確か解放軍の」
 振り返ったヴィーカの後ろから、ボロを着た三人の子供がこちらをのぞき込んでいる。ヴィーカもまだ子供だが、三人はまだ十歳にも満たないだろう少年と少女だ。
「うおー、でっけー剣!」
「見せて見せてー」
 どういう関係だと考えを巡らしていたエドアルドは、いきなりじゃれついてくる子供たちに思わずたじろいでしまう。
「これはおもちゃじゃない。危ないから近寄るな」
 そう叱っても足下の子供たちは離れようとしない。だから子供は苦手なんだ……。
「へへ、いいだろ? 減るものじゃないし」
「この子たちは何だ、ヴィーカ」
「戦災孤児だよ。王のいなくなったカサンドラを巡って、ケルンテンとハルギータが戦争をしたのは知っているかい?」
「ああ」
 突然の王の失踪により、カサンドラは統制を失った。その国土を切り取ろうとケルンテンが進軍し、それをカサンドラと親交の深かったハルギータの軍が阻もうとして、結局はカサンドラ領内での戦争となった。
 戦争は泥沼に陥り、国土の荒れたカサンドラはもう終わりだと誰もが思っていた矢先、圧倒的な力を持ってその二国を領内から追い出したのが、レオニード率いる封印軍だ。旧カサンドラ軍の多くがそのまま封印軍に参加しているのはそのためで、そこに新月の民やら何やらが合わさって今に至っている。
 考えてみれば、カサンドラ王の失踪が今の状況の引き金になっていると言えなくもない。
「この国の最下層は、他の国のそれに比べてひどいもんさ。地べたにいる人間なんて見ようともしないやつらがてっぺんにいるんだから、こいつらみたいな戦災孤児は行き場を失っちまう。一応教会が面倒を見てくれてはいるけど、それだって最低限だからさ」
「だからヴィーカが遊んでくれるの」
「お菓子も買ってくれるもん」
 子供たちの声と目は、ヴィーカを信頼しきっている。それは少しまぶしく感じるほどだった。だが、ヴィーカがスリをやっているのをエドアルドは知っている。
「盗んだ金で、か?」
「富の再分配ってやつだよ」と得意げに言うヴィーカ。
「狙うのは金持ちばかりさ。まぁ兄貴の時は別だけど」
「……そうか」
「怒らないのか? なんか意外だな。あんたは堅物そうだから」
「行き場を失うっていうのは、辛いことだからな」
「ふーん、あんたもいろいろあるんだ」
「……」
 思い出すのは、シグムント様と出会った頃のこと。
 両親が他界し、それまでの恵まれた生活は一変した。月の鎖の影響で患った両親の病に、一人、また一人と周りから人がいなくなっていき、気がつけばエドアルドは孤独だった。
 もしあのときシグムント様に出会わなければ、俺は……。
 昔の自分を重ね合わせながら、エドアルドは子供たちの頭を撫でてやった。