小説インフィニットアンディスカバリー第二部
「こんな不親切な街にいても原因はわからないよ。調べたきゃハルギータに行くしかないね」
「ハルギータ?」
「月印が関係してそうなんだろ? だったらハルギータさ。あそこは月印の研究が進んでいるって話だし」
「でも、連れて行ける状態じゃないし……」
「私が残るわ」
ミルシェが言った。
「治癒術が効果無くても介護くらいはできるわ。医術の心得だってちゃんとあるから」
「ミルシェさんがついていてくれるなら安心です」
治癒術が効かないとしても、病人のそばにおいておくならやはりミルシェだろう。美人がそばにいてくれる方がエドアルドも嬉しいに決まっている。きっとそうだ。
「私も残ろう」
一人納得していたカペルは、黙っていたドミニカが突然そう言ったことが少し意外だった。
「ドミニカさん?」
「またあの透明の騎士が現れるかもしれないだろう。そんな場所に病気のエドアルドとミルシェだけを残していくのは少し不安だからね。また透明のまま現れたらあれだけど、見えない敵なら見えないなりに戦い方ってのもあるかもしれない。そういう戦いもちょっとおもしろそうだしな」
「おもしろそう、ですか」
さすがは戦闘狂……、もとい、プロの傭兵だ。
「それに、だからといって坊やがハルギータに行かないわけにはいかないだろう。ハルギータはシグムントの故郷でもあるわけだからな」
介護役としてミルシェが最適なのと同じように、ドミニカが残ってくれれば、護衛としてこれ以上頼もしい人はいない。それに、アーヤのそばを離れてまでドミニカが残ると言ったのだ。何か考えがあるのだろう。
「じゃあ、エドアルドはミルシェさんとドミニカさんに任せて、ぼくたちはハルギータへ向かおう」
「日も暮れちゃったし、出発は明日ね」
「案内頼むよ、ヴィーカ」
「任せときなって!」
月の鎖を斬るのとは別の意味で、急がなければならない理由が出来た。でも、ハルギータに行けば治療法はわかるのだろうか……。
不安はある。でもそれはいつものことで、今はやれることをやるだけだ。
『大切なものを見つけたら、何があっても守り抜け』
シグムントの言葉が脳裏をよぎる。
エドアルドは大切な仲間だ。カペルはそう思いたかった。
だから、僕はエドアルドを助けたいんだ。
闇夜を切り裂くように、金色の雨がケルンテンの街に降り注ぐ。月はなかば雲に隠れていて、街を照らす魔法石のない教会の裏側は、完全に夜に飲み込まれていた。
「わかってるよ。その薬があれば治せるんだろ?」
「そうだ」
小さな影が、見上げるでもなく、隣にいたローブの男に話しかける。
「上手くやるさ。絶対に……」
「……」
雲に隠れていた月が姿を見せる。
その明かりに照らされた小さな影の上に、そばかすの残る顔が浮かんで、消えた。
作品名:小説インフィニットアンディスカバリー第二部 作家名:らんぶーたん