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らんぶーたん
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小説インフィニットアンディスカバリー第二部

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 そして、木々の群れが途切れた先、広がったはずのカペルの視界を埋めたのは、乳白色の巨大な建造物だった。
「着いたよ。ハルギータ皇城だ」
 土色の混じった乳白色の壁は人工物らしからぬ曲線を描いていて、蟻塚を人のスケールにまで巨大化したもの、と言えばしっくりくるだろうか。そのところどころに採光用の窓が設けられている様も、蟻塚という言い方がふさわしい。人工物であるはずのそれは、不思議なほどコバスナ大森林の風景に溶け込んでいるようにも見え、森の主と呼ばれる巨大なモンスターが住んでいる、と言われても疑うことはなかったかもしれない。
 この巨大な塚は、数百年前にハルギータ女皇スバルによって建設されたものという話だったが、いったい何をどうやればこんな巨大な建造物を建設出来るのか、カペルにはさっぱりわからなかった。その感覚はヴェスプレームの塔を見たときに似ていて、あちらは確かレオニードが聖獣を犠牲にして建設したのだと思い出されれば、こちらももしかして、という疑念が頭をもたげてくる。
「まさかね……」
 闇公子ならともかく、慈悲の女皇として知られているスバル女皇がそんなことをするだろうか。ともかく、それも数百年前の事情だろう。時間的にも空間的にも、自分に想像できる規模の話ではない。
「ハルギータへようこそ」
 前に進み出たユージンがそう言い、ここからの案内を買って出る。アーヤやルカロカもぽかんと口を開けているのが見え、カペルも同様にしながら周りを見回しつつ、ハルギータ皇城の門扉をくぐった。門の守衛は、ユージンの顔を見るなり敬礼してみせていた。
「ユージンさんってもしかして偉い人なの?」
「私もよく知らないのよ」
 その疑問は後日、本人に尋ねればいいか。
 中は想像していたよりも開放的に感じられる広さだった。街一つを取り込んだ巨大な塚の中は、その異様にふさわしく入り組んだ構造をしているが、商業区や居住区と言った具合に役割に応じて区分けがはっきりしているらしく、見た目の複雑さとは裏腹にしっかりと秩序はあるらしい。自然物を取り入れた内装の街並みはどこか生物的で、ケルンテンの人工的なそれとはまるで逆だが、むしろこちらの方が人間味があるとも思えてくるというのは、なんとも不思議な言葉の感覚だった。
「今日はもう遅い。宿を取るからみんなはそこで休むといいよ」
「ユージンさんは?」
「僕はこれから王宮に行って、帰還の報告をしてくる。たぶん明日の朝に女皇陛下と謁見するとになると思うから……、シグムント、いいね?」
「……」
 誰のことを言っているのかわからずにぼんやりしていると、アーヤに「あんたのことでしょう!」と怒られた。それで初めて気づく。
「あの、シグムントさんのふりってもう始めるんですか?」
「ここはあいつの故郷だから、知り合いも多い。緊張感は常にもっておいた方が良い」
「あっ、はい……わかりました」
 フェイエールやケルンテンとは違う。ここにはシグムントさんのことをよく知る人たちがたくさんいるのだ。彼の不在はまだ知られるわけにも行かず、そのためにも今からなりきらなくてはいけない。
 相変わらず肝心なことに気づくのが遅いという自嘲と、いきなりの本番にカペルは引きつった笑いを浮かべるしかなかったが、それを見たユージンが優しく笑ってみせてくれた。
「今日はすぐに宿に入ってゆっくり休んで。明日の本番に向けて、一晩かけて気持ちを切り替えればいい」
「そうします」
「じゃあ、みんなもそういうことだから。今日のところは解散だね」
 そう言って、ユージンは宿とは別の方向へと歩いて行った。その背中にいくらかの疲れが見て取れ、彼もまた整理しきれぬ思いを抱いている一人なのだと自覚すると、カペルはアーヤとともに宿へと足を向けた。
「カペル、ユージンさんの苦労に報いなきゃいけないんだから、しっかりしなさいよ」
「がんばります」
「あんたのがんばるほど信用できないものはないわよね」
「また手厳しい仰りようで」
 そう言えば、ハルギータ女皇はシグムントさんの育ての親でもあるという話だった。そんな人を騙し通せるのか。そもそも、騙して良いものなのかどうか……。どちらの答えも、結局は明日の本番になるまではわかるはずもない。
 無意識のうちに手をやった胸のペンダントにシグムントの姿を思い出しながら、カペルは初めて訪れるハルギータ皇城の通路を歩いていた。


 物見遊山というわけではないが、シグムントになりきるにはどうすればいいかと考えているうちに眠れなくなり、カペルは持てあました時間をハルギータの散策に当てることにした。もう夜も遅いので、誰かと会うこともないだろう。
 その油断が命取りとなる。
「勇者様、お久しぶりです!」
 宿を出て、神殿のものらしい大きな扉の前にさしかかったあたりで声をかけてきたのは、確かヴェスプレームの塔へ攻め込む際に転送陣へと案内してくれた少女だ。エンマの部下であったはずだからハルギータにいてもおかしくないのだが、まさかこんなタイミングで鉢合わせるとは……。
「おお、シグムント、久しいな」
 しかも、その隣にいる少年はシグムントさんの知り合いらしい。
「帰ってくるとは聞いていたが、このようなところで会えるとは」
「ひ、久しぶり」
 まだ幼さを多分に残した顔立ちからは想像できない落ち着いた雰囲気の少年に、カペルはぎこちなく答える。さらりとした銀髪の上から見たことのない意匠のお面を横向きにつけていて気にはなるのだが、それはこの際どうでも良い。彼の背中に見える三日月状の光輪が、彼がハイネイルであることを教えていて、カペルはどう接して良いのかがよくわからなかったのだ。ハイネイルの知り合いなどソレンスタムくらいのもので、ハイネイルの中でも変わり者のソレンスタムだからこそ普通に接していられるのだ。他のハイネイルとなると、さすがに緊張してしまう。ましてやシグムントの知り合いともなれば、不用意に答えるわけにもいかないのだから。
「少し痩せたのではないか?」
 気軽に身体に触ってくることから彼とシグムントの親交の深さがわかるというものだが、今のカペルにはそれさえも困り種だ。
「南大陸にまで足を運んだと聞く。であれば、船で海を渡ったのであろう? その心労が原因ではないのか?」
「さ、さあ、どうだろう」
「海には底がないと聞いたぞ。そのようなところを渡って平気なものなのか?」
「殿下。そろそろ参りませんと」
「おお、そうであったな」
 このまま会話を続けてはいつかばれてしまう。その恐怖に冷たい汗が背中を伝っていたカペルを救ってくれたのは、少女の一言だった。当然、彼女がそんなカペルの心中を察したはずはないのだが、ともかく感謝せざるをえない。
「シグムント。陛下にはもうお会いしたのか?」
「え、いや、今日はもう遅かったから」
「そうか。明日には参内するのであろう? 旅の話など聞きたいところだが、それは謁見の後にでも時間を作ろう。もはや深更。疲れもあろう。また明日だな」
「あ、はい」
「参るぞ、コマチ」
「はっ。では勇者様、失礼を」
 伏し目がちに会釈をすると、少女は先を行った少年を追いかけていった。
「……あ、危なかった」