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らんぶーたん
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小説インフィニットアンディスカバリー第二部

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 散策は状況がもう少し落ち着いてからか、フォローしてくれるアーヤが隣にいるときにでもすればいい。いや、アーヤがいたらなおさら危険な気もする。過ぎ去った危機と想定される危険にどっと疲れが吹き出したカペルは、今度こそ眠れそうだと宿へと足を向けるのだった。


「おっ、間に合った間に合った」
「どうしたの?」
 翌朝。
 だいぶ慣れてしまったなと思いながら、カペルがシグムントの鎧を身につけていたところに、どこへ行っていたのか、ひょっこりとヴィーカが戻ってきて言った。
「どうしたの、って情報を集めてきたに決まってるだろ?」
「エドアルドの治療法の?」
「それ以外に何があるってんだよ」
 得意げに鼻をこすっているところからすれば、どうやら何かしらの情報を見つけてきたらしい。見てくれはただの悪ガキだけど、実はけっこうすごい情報屋なのかもしれない。
「兄貴、女皇様にあったら、キリヤって研究者がどこにいるか聞いておいてくれよ。そいつがどうも治療薬の精製方法を知っているらしくてさ」
「へぇ、そんな情報をもう見つけてきたんだ」
「ヴィーカ様に抜かりはないよ」
「ユージンさん、キリヤって人のこと知ってます?」
 カペルの準備が終わるのをどこか緊張した面持ちで待っていたユージンに、カペルは尋ねてみた。ユージンがハルギータの神官だという話は先ほど聞いたばかりで、キリヤという人がハルギータの人ならば、もしかしたら心当たりがあるかもしれない。
「いや、ちょっと思い出せないな。僕も研究者全員の名前と顔を知っているわけじゃないから……。でも、そんな治療薬の話も聞いたことがないね。それは正しい情報なのかい?」
「えっ? お、おいらの情報に偽りはないよ! 噂程度のちゃちな情報を取り扱うほど、ヴィーカ様は落ちぶれちゃいないからな」
「うん。そういうことなら、とにかく陛下にお尋ねしよう。どんなものでも良いから、今は手がかりが欲しい」
 治療法も原因もわからない病。
 透明の騎士。
 そして、月の雨。
 光の英雄代理としての戦いも最初から不安要素でいっぱいだ。ひと月前にはまるで関わりのなかったものばかり。運命というやつがあるならば、僕のそれは今、急激な坂道にでも差し掛かっているらしい。ひと月後はどうなっているだろうか。あまり良い想像は思い浮かばず、ソレンスタムに聞いてみてはとも思ってみたが、それはそれで少し怖い。
「まいったなぁ……」
 そう呟けば溜息も漏れる。
「準備できた? そろそろ行きましょ」
 アーヤが顔をのぞかせたの機に、ユージンに促されてカペルは部屋を出た。心配事は数あれど、まずは女皇陛下との謁見を乗り越えないといけないわけだ。


 宮殿は、蟻塚のような形をしたハルギータ皇城の最上部に位置していた。衛兵に敬礼され、赤絨毯の敷かれた豪奢な階段を上り、待っていた案内人に謁見の間まで通される。この過程そのものが、王宮独特の緊張感を増幅するための装置のようにも思えるが、カペルは不思議と落ち着いていた。昨夜の緊急事態に比べれば、今日は心の準備も出来ているし、それにアーヤとユージンさんが側にいるのだから。
「さあ、ここが謁見の間ね。カ……じゃなかった。シグムント様、準備はいい?」
「えっなに?」
「じゅ・ん・び・は・い・い・かって聞いたのよ! ボケボケしない!!」
「は、はい……」
 いくらか落ち着きすぎていたらしい。
「余計なことは喋らないこと。背中を丸めて下を見たりしないこと。へらへら笑わないこと。いいわね?」
「……僕ってそういうふうに見えてるんだ」
 少しショックを受けたのもつかのま、カペルの気持ちなどお構いなしに、謁見の間の扉が厳かな音を立てて開かれる。アーヤとユージンの半歩後ろからカペルは中に入った。
 土足で踏んでいいのかとためらわれる赤絨毯が中央に伸び、右に武官、左に文官の長らしき居丈高な人たちが並んでいる。その空気にのまれそうになったカペルだったが、赤絨毯の終点、玉座に身を置く人の姿に息をのむことになった。
 見た目には自分とそう変わらない年ごろのようだが、背中に映える三日月状の光輪が、彼女がハイネイルだということを示していて、老いることのない彼らの年を詮索しても仕方がないことだとすぐにわかった。幾重にも重ねられた衣装は花弁を模しているかのようで、花の妖精か何かがいるのならこういう人なのだろうとカペルには思えた。それに、その流麗な容姿と相まって、どこかおとぎ話の世界から出てきた姫様のようでもある。いや、お姫様ではなくて女皇様なんだけど。
「お初にお目にかかります。女皇陛下」
 アーヤがフェイエール国皇女の声でそう言い、慇懃な礼をしてみせる。その姿に女皇が顔をほころばせていて、本当に嬉しそうに笑う人だとカペルは思った。
「炎の皇女、よくきてくれました」
「お会いできて光栄です、陛下」
 そして、女皇の澄んだ赤い目が、流れるような仕草でカペルを捉える。カペルも慌てて顎を引き、惚けた顔を隠しながら礼をして見せたのだったが、一瞬、笑っていた女皇の表情に驚きが混じるのを見たような気がした。
 まずい。ばれたかも……。こんなところで偽物だとばれてしまったら、いったいどんな扱いを受けるのだろうか。一国の女皇様を騙そうとしたのだから、ただで済むはずはない。
 隣に並ぶ怖いおじさんの顔をちらと見遣り、心臓が激しく音を立てるのをカペルは聞いた。
「よく戻りましたね」
「おひさしぶりです」
「……あれほど慇懃無礼であったそなたが、物腰を柔らかくすることを学んだようですね」
 その穏やかな声音からは、自分を偽物だと疑っているような印象は受けない。なんとかばれずに済んだかとも思ったが、自分の思い違いだったら困るので、カペルはアーヤに小声で尋ねてみた。
(セーフ? セーフだよね?)
(黙ってなさい!)
 そして怒られた。
 つまり、きわどいところではあるけれどばれてはいない、とアーヤも感じているということだ。それを裏付けるように、久しぶりに会った子供に尋ねるよう、女皇はカペルに声をかけてきた。
「全部で八本の鎖を解放したと聞いています。ご苦労でしたね」
「いえ」
「つもる話もあります。しばらくはここに逗留するのでしょう?」
「あ、ええと……。ありがたいお言葉ですが、その、用事が」
「用事?」
「ぼ……、ワタシの仲間が今、原因不明の病に冒されております。早くその治療法を探さねばなりません」
 終始穏やかに見える女皇の表情とは逆に、隣にいる大臣だか摂政だかは苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「月印ですぐに治せばよかろう」
 その大臣の声には明らかにトゲがあった。シグムントさんは彼に嫌われていたのかもしれない。執政官の手を離れて自由に行動し、世界から英雄と呼ばれている男。彼にしてみれば、好きになる理由がないというところだろうか。
「それが……」
「よい、シグムントの好きなようにさせなさい」
 月印では治せなかったことを説明しようとすると、女皇がそれを遮った。
「考えあってのことでしょう。好きになさい」