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らんぶーたん
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小説インフィニットアンディスカバリー第二部

INDEX|31ページ/47ページ|

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 ほっとして演奏を止めたが、背中越しに向けられたドミニカの鋭い視線に、カペルは「助かりました」の言葉を遮られた。直後、身体を反転させながら水平に振り回されたドミニカの槍がぶんと音を立てて半月を描き、カペルの頬をかすめるところで制止する。思わず身をすくめたカペルの後ろで鈍い音と動物のような悲鳴が弾け、思わず振り返ると、槍の反対側に漆黒の騎士が吹き飛ぶ様を遅れて目で追うこととなった。
「ふ、二人いたんですね……」
 理性を失い、野生に身を落とした人間の姿。攪拌された意識を引き戻そうと、四つん這いの状態で首をぶんぶんと振る様は、まさに獣だ。その目と視線が絡まると、カペルの背中を大粒の冷たい汗が伝った。
「ここは任せて、坊やはひとまず姿を隠しな。エドアルドは坊やを狙っている。リバスネイル二人と蜘蛛の群れの相手をしながらじゃ、さすがにかばいきれない」
「じゃ、じゃあお願いします」
 エドアルドが消えた瓦礫の方へと目を遣りながらカペルが答えると、ドミニカは思わせぶりに笑って言った。
「ああ、それと、アーヤを探して連れて行ってくれないか?」
「アーヤを?」
「あの子は昔から蜘蛛がダメでね。今頃は震えて動けなくなってるはずさ」
 そういえば、コバスナ大森林でも蜘蛛を見て怯えていたっけ……。あのときは小指大の小さな蜘蛛だったにもかかわらず、ひどい怯えようだった。あの馬鹿でかいのを見たら、卒倒していても不思議じゃない。
「今は普通の女の子だから、しっかり守ってやらないとダメだよ」
「はいはーい」
 立ち上がってきた二人のリバスネイルが、同時にドミニカに襲いかかる。身を低くしてそこを抜けだし、二対一だろうと余裕を感じさせる彼女の背中を見遣りながら、カペルは混乱に落ちていくケルンテンの街を駆けだした。


「クモ……嫌、クモ……」
 街に散らばり始めた蜘蛛を蹴散らしながら駆け回り、カペルはようやくアーヤを見つけた。物陰に隠れていた彼女は、目に涙を浮かべながらわなわなと震えている。
「アーヤ、大丈夫?」
 カペルが声をかけると、アーヤは目に溜まった涙をこぼしつつ、カペルの足にしがみついた。
「わっ、ちょっとアーヤ! 危ないって!」
「カペル!」
「今のうちにもう少し離れようよ。蜘蛛、いないからさ」
「う、うん……」
 そう答えながらもなかなか足を放そうとしないので、カペルは途方に暮れた。こんなときにエドアルドや蜘蛛に見つかったら、まともに戦うことも出来ないじゃないか。
 カペルは周囲に警戒の視線を飛ばした。エドアルドの姿はないし、蜘蛛はかなり遠くに見えただけで、近くにはいない。近隣の住民はすでに避難をしていたのか、通りからは人の姿が消えていた。
 だが、その無人の通りに一つ、動かない人影を見つける。
「ヴィーカ……?」
 うなだれてしゃがみ込み、世界から独り取り残されているかのように見える様子は、あのいつも元気なヴィーカらしからぬものだった。
 どうしてこんなところに……。
「アーヤ、ヴィーカの様子を見てくるからちょっと待ってて」
 ヴィーカを見つけたことを教えるために通りを指さしてみたが、アーヤはそちらを見ようともせず、カペルの足を掴む手に力を入れる。
「ダメよ! カペルはずっと私の側にいるの! こんなところに独りにしないで!!」
「わ、わかったから放してよ。一緒に行こう、それでいいよね?」
「クモ、いない?」
「いないから、ね」
 ひとしきり周りを見回して納得したのか、ようやくアーヤの束縛から解放されると、カペルはその手をひいてヴィーカの元へと走った。

「ヴィーカ、怪我したの?」
「兄貴……」
 ぱっと見では怪我をしたわけではなさそうだ。それにひとまず胸をなで下ろしてはみたものの、頬に泣いた後が見て取れると、先ほどの印象が再び重なり、カペルはヴィーカの言葉を待った。
 一度伏せられたヴィーカの目がカペルを見る。震える口から言葉が出るのと一緒になって、その目から再び涙が流れ出していた。
「兄貴、おいら……、おいら、兄ちゃんを助けたかったんだ……。それで、あいつがあの薬を持ってくれば治療薬が作れるって……、それで……」
 激しく首を振り、そうして目の前の現実を拒絶しながら、ヴィーカは続ける。
「これじゃ、エドアルドも兄ちゃんみたいになっちまう。兄ちゃんみたいに、リバスネイルってやつに……どうすりゃいいんだよ……全部、全部おいらのせいだ!」
 詳しいことはわからなくても、ヴィーカに悪意はなかったのだとは理解できる。兄を想う気持ちを利用され、それがエドアルドが暴走するきっかけになってしまった。後悔に悲鳴を上げる姿を見、それだけわかればカペルには十分だった。
「エドアルドを元に戻さなきゃ。ヴィーカ、手伝ってくれる?」
「兄貴……?」
「僕だけじゃ絶対に止められないもん。無理無理、絶対無理」
「でも」
「責任を感じてるんだったら、手伝ってくれるよね?」
 カペルは意識して笑ってみせた。その気持ちが伝わったのか、ヴィーカは止まらなくなった涙を隠すように下を向いてはいたが、静かに頷いて言った。
「……うん」
「行こう、ヴィーカ」
 その頭をぽんと撫で、カペルは通りの向こうの喧噪に目を遣った。
 そちらにいるだろうエドアルドの姿を幻視する。彼もまた、ヴィーカと同様独りきりになってしまっているのだ。
 まだ言葉は届くだろうか……。


 アーヤとヴィーカを伴ってちょうど宿の側に差し掛かったとき、カペルは反対側から走ってくるソレンスタムとキリヤの姿を見つけた。少し息の上がっているキリヤとは対照的に、ソレンスタムはいつもどおりだ。ただ、微笑が消えていた。全てを見通す目を持つ彼が思い詰めたような顔をしていることが、少し意外でもあり、不安な気分にもさせてくれる。
「カペルくん、探しました」
「どうされたんですか?」
「私たちはあの封印騎士を追いかけます」
「でもどうやって? 居場所がわかったんですか?」
「ケルンテンの転送陣を一時的に書き換えます。ヘルドの……、あの封印騎士の行き先はわかっていますから」
 転送陣を書き換える。
 ヴェスプレームの塔へ乗り込むときのそれもソレンスタムがやったのだと思い出し、その能力も無ければ方法も知らないカペルは、ただただ、この人はすごい人なのだなと感心するばかりだった。
 ……でも、勝手に書き換えたりして、ケルンテンの偉い人に怒られたりしないのだろうか。
 そんなカペルの心配もよそに、ソレンスタムは騒然としている方向を見ながら言う。
「カペルくんは何とかして暴走した彼を転送陣まで連れてきてください。一緒に向こうに飛ばしてしまいましょう。街の中で暴れてしまっては、後々困ることになります」
「あのエドアルドを、僕がですか……?」
「それでは、しばらく時間をいただきます」
 カペルが肯定することを確認せず、ソレンスタムは転送陣の方へと走り出した。声や態度からは想像できなかったが、あのソレンスタムがそれほど焦っているということなのだろうか。
 三日月の映える背中が走り去る中、それを追わずにいたキリヤの目がヴィーカを見ていた。ヴィーカはそれを見返すことも出来ずに唇をかんでいる。